第14話 奈落の底のコロシアム その5
「つまりボクは――最後にして最強の魔人さ」
最強か……。
その言葉を聞いて俺は――
――ニヤリと笑ったのだった。
俺の笑みを受けて黒スーツの少年もまたニヤリと笑みを浮かべる。
「さて、キミは肉弾戦が得意のようだね?」
「魔法も得意だがな。お前は……見たところ線が細いが?」
「見た目で良く勘違いされるんだけど、魔法禁止のコロシアムを趣味と実益を兼ねて運営しているくらいだからね。まあ……ガチガチのパワーファイターさ」
「なるほどな」
そこで俺はパンと掌を叩いた。
「俺も殴り合いの方が好きだ……そうだな、ここはコロシアムなので試合形式のルールを設けようか?」
「ああ、構わないよ」
「ルールはただ一つ――魔法無しの殴り合いということで良いかな?」
「そちらの方が楽しめそうだね」
言葉と同時――魔人は消えた。
「これが究極の魔人の力だっ!」
気が付けば俺の眼前に迫っていて、右ストレートが顔面に飛んできた。
「グハっ!?」
モロに被弾。
鼻から血液が流れだす。
バックステップで距離をとって、互いに再度相対する。
「俺にダメージを与えただとっ!?」
「僕の攻撃で死なないだとっ!?」
互いに驚いた風に大きく目を見開き――
――そして同時に笑った。
「ここに迷宮を構えて1900年……僕の一撃で死ななかった人間は初めてだよ」
「3歳の時から、俺にダメージを与えることができる人間は両親以外にはいなかったのだがな……フハハっ!」
そうして俺は至上の幸福に包まれた。
全身の筋肉が狂喜しているのが分かる。
脳が快楽物質を止めどなく生成しているの実感できる。
――壊れない
この魔人は……多少殴った程度では壊れないと確信する。
「俺の両親が死んだのは13歳の時だ。血湧き肉躍るこの闘争の感覚――久しい……久しいぞっ! 魔人よっ!」
俺は地面を蹴って一瞬で魔人へと間合いを詰める。
そうしてお返しとばかりにアッパーカット。
魔人は宙へと700メートル程度打ち上げられ、そして落下してきた。
「ふはは! 本当にピエロ君を殺したのはキミのようだね? そんな人間に会えて僕も嬉しいよっ!」
魔人の鼻から血が流れているのが確認できる。
先ほどの攻撃は互いに全力のはずで、ダメージもほぼ同じ。
つまり、俺と魔人は互角と言うことだ。
落下の速度と併せて魔人は蹴りを繰り出してきた。
額で受け、俺は「クハっ……」と息を漏らすと共に地面に膝をついた。
「ハハハっー! 死なないっ! この人間、2度も僕の攻撃を受けて本当に死なないよっ!」
俺はすぐに立ち上がり、魔人の横っ面に肘打ちをお見舞いする。
「それはこちらのセリフだっ!」
黒スーツの少年のコメカミから血が流れるが……なんということだっ!
この少年は俺の肘打ちをまともに喰らっても吹き飛ばずに、その場で踏みとどまったのだ!
「いやあ、効いたねえ! 魔人最強の僕に痛みという感覚を教えてくれるなんて……本当にキミは素晴らしいっ!」
魔人のボディブローを受けながら、俺は血飛沫を吐きながら応じる。
「グホァッ! ハハ……フハハハハっ! 俺もまた痛みという感覚を久しぶりに思い出したぞっ!」
そのまま俺たちはその場で足を止めて、しばらく殴り合った。
俺の下段蹴りが魔人の太ももに突き刺さる。
「グギッ……本当に凄いよキミはっ!」
魔人の右フックが俺のアゴにクリーンヒットする。
「カッ……ハッ……フハハ! フハハハハハハハーーっ! もっとだ! もっと殴り合わせろっ!」
一撃に対して、一撃をお返しする。
互いが互いの打撃に、全身全霊で持てる全ての力を乗せて殴り合う。
10合、20合、50合。
繰り出される打撃の総数は、瞬く間に3桁、4桁へと昇っていく。
そして、蓄積されるダメージに比例し、俺の心はどんどんと昂っていく。
今まで実戦で決して使われなかった全力の筋肉が。
今まで実戦で使われなかった技の数々が。
――その全てをこいつにならば全力でぶつけることができるのだ!
そうだ。
これこそが俺の求めていた全力の闘争だっ!
そうして魔人が全力の正拳突きを繰り出し、俺が後方に10メートルほど吹き飛び着地したところで魔人はパチパチと拍手を始めた。
「拍手……だと?」
「いやあ、素晴らしい。本当に素晴らしいよ」
「俺もお前と出会えて嬉しい。賞賛の言葉を送らせてくれ」
「しかし……そろそろ死合いもこれで終わりだと思うと悲しいね」
「これで終わりだと?」
「君と僕は全くの互角だね。けれど、まだ僕は奥の手を残しているんだ」
その言葉で俺は更なる絶頂感に包まれた。
この男にはまだ奥の手がある。
そして確信する。
つまり、こいつは俺が真に心の底から求めていた――
――俺よりも強い奴ということだ。
さあ、本当の闘争はここからだ。
俺は、俺よりも強い奴に全力をもって対峙し、そして弱者の理すらも利用して戦局をひっくり返して見せる。
――それこそが俺が求めていた闘争なのだっ!
「奥の手だと!? どんな……どんな手なのだっ!?」
「僕の身体強化術式には奥の手があるんだ。今使っている身体能力強化術式は元々の力を30倍程度に底上げするものだが、更に……瞬間的に2倍程度に力を引き上げることができる技がある」
そこで俺は驚愕した。
今、こいつは何といったのだ?
30倍に強化しているものを更に強化するだと……?
「ふふ、さすがの君も驚いたようだね? 制限時間は5分程度だが、これまでの戦いで君の力は十分に分かった。つまりは――キミを屠るには十分な時間ということさ」
まさか……まさかこいつ……!
それは本当のことなのか!?
驚愕と絶望の中で、俺は絶句する。
――嘘だろ? 嘘であってくれっ!
祈りにも似た願いと共に俺は魔人に尋ねた。
「おい、お前……何といった?」
「制限時間は5分だよ?」
「いや、その前に言った言葉だ」
「瞬間的に2倍程度に……」
「そのちょっと前だっ!」
「30倍程度……?」
「そのほんのちょっと前だっ!」
「今使っている身体能力強化術式?」
「それだっ!」
俺はその場で崩れ落ちそうになる。
ああ、何と言うことだ……と。
「何が言いたいんだキミは?」
「俺はお前と互いに全力で戦っていたと思っていた」
「実際に全力だったろうに?」
「最初にルールを決めただろう?」
「魔法禁止での殴り合いってことかい?」
「ああ、そうだ……そのとおりだ」
俺は押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んで俺はこう言った。
「身体能力強化は魔法の一種だろうっ!」
その言葉を受け、魔人は「えっ!?」と大口をあんぐりと開いた。
「まさかキミ……?」
「俺は身体能力強化など使っていないっ! そういうルールだからなっ!」
「えーっと……つまり?」
「身体能力強化を使えば俺の力は常時――今の500倍だっ!」
今度は少年の左鼻から鼻水が噴き出した。
「えええええええっ!?」
何という……何ということだ。
俺は身体能力強化術式を体に施し、そして少年に一歩ずつ歩み寄っていく。
「何か言い残したい言葉はあるか?」
「キミは……キミは一体何者……?」
俺は全力の連打を叩き込みながら、反撃どころか防御、いや、まともに俺の攻撃を視認すらできない魔人に――瞬きの間に数千の打撃を加えながらこう言った。
「俺はセオ。セオ=ピアース……人類最強だ」
・作者から
① これは酷い
② 何だコレ?
③ 良いぞもっとやれ
以上のように思った方は☆で称えていただければ幸いです。
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