第13話 奈落の底のコロシアム その4

「――選手交代だ。ここから先は俺が引き受けよう」


 と、そこで黒スーツに黒ネクタイの少年がクスリと笑った。


「見ない顔だね?」


「ああ、そりゃあそうだろうな」


「ボクの把握していないところで人間が繁殖していたってことかな? まあ、たまにそんなこともあるけどさ……しかし、とんだ乱入もあったものだ」


 そこでしばし考えて、少年は楽し気に頷いた。


「いや、こういうハプニングもあの方々が喜ぶか」


 パチリと少年は指を鳴らして、声を高らかに大声をあげる。


「さあ、コロシアムの戦士たちよ! この男を殺せっ! 早いもの勝ちだよっ! 達成者はコロシアムを卒業させてあげるし、自然に死ぬまでの生存を保障してあげるっ!」


 その言葉でコロシアムの控室にいた連中が色めきだって、手に手に武器を持って闘技台の上に躍り出てきた。


 数は10人程度……か。




「解放だっ! こいつを殺せば俺は解放だっ!」


「手を出すなっ! 俺の……俺の獲物だっ!」




「しかし、本当につまらぬ連中だ」


 現在、俺を囲んでいるのは、その誰しもが血走った目をしている。


 真の武とは理を突き詰めた先にあるものだ。コイツ等は冷静さを失った時点で自らの力を半減させることすら分からないような低い次元なのだろう。


 全く持ってつまらない。


 先ほど、弱者の戦闘――理を利用したアベルのほうがよほど見どころがある。


「しかし、皮肉なものだな」


 ――かつて、戦闘に飢えていた俺だが……別に相手は誰でも良いという訳でもない。


 身の程知らずにも俺に殺到してくる連中を見て、溜息と共にこう言った。 


「一瞬で終わらせて貰うぞ」


「フンっ!」と、気合の咆哮と同時に衝撃波が発生し、周囲に群がっている戦士たちが数十メートル吹き飛んでいく。


「グギャっ!」


「ギッ!」


「アグアアアアっ!」


 壁に打ち付けられた者。


 空高く舞い上がり、そのまま地面に落ちた者。


 運良く水平に飛んで、地面に転がるだけの者。


 まあ、全員死んではいない。


 そして俺は闘技台の上で、なおもニヤニヤと笑っている黒スーツの少年を睨みつける。


「今……キミは何をしたんだい? 風魔法だとは思うが……魔力が感知できなかった」


「気合を入れただけだ」


「気合……?」


「俺の声は特別製でな。気合と共に「フンッ!」と言うだけで大体のモノは吹き飛ばせる」


 しばし何かを考えて、少年は「ククク……」と笑い始めた。


「そういえば昨日、低層のピエロ君が冒険者に殺されたという話が僕の耳に届いたよ」


「情報が遅いな。それと……ピエロ以外にも色々と倒したがな」


「キミがここに辿り着く速度が速すぎるだけさ。まあ、ピエロ君とダーツ男はギリギリで人間でも対処できないことはないからね。一つ尋ねたい」


「……何だ?」


「キミの名は?」


「俺はセオ……セオ=ピアースだ」


「ふふっ……ボクは魔人さ」


「知っている」


 そうして黒スーツの少年は心底楽しそうにニヤリと笑った。


「ここは迷宮の中層域の最初の階層となるんだ。ここから先は魔神の領域となって、あの方々が直々に冒険者の相手をすることになって、ボクたちはお役御免なんだよね」


「ほう、それで?」


「つまりボクは――最後にして最強の魔人さ」


 最強か……。


 その言葉を聞いて俺は――



 ――ニヤリと笑ったのだった。





・作者から

 新作書いてます。現在ラブコメ日間3位です。

 ラブコメは経験が浅いので、本当に驚いています。

 ご興味ある方はよろしくお願いします。


・タイトル

異国の地でイジメられて誰にも頼れないロシア美人のリーリヤさんを助けたら、なんか変なスイッチ入ったらしく料理教室に通い始めて毎日俺の家に料理作りに来るようになった件



・URL

https://kakuyomu.jp/works/16816452220264107259

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る