第10話 奈落の底のコロシアム その1

 山の頂上で二人の男が向き合っていた。

 一人は歴戦の勇士と言った風の壮年の男で、身の丈と同じ大剣を背負っていた。


 そうしてもう一人は美しいと表現しても良いような美少年。年の頃なら10代前半で、黒いスーツに黒いネクタイという格好だ。



「……階層に留まれだと?」



「うん。それともボクとの戦いを望むのかい?」



「……今回は闘いかゲームかの2択ではないのか? どういうことだ?」


「いや、これ自体もゲームではあるんだよ。と、いうかボーナスステージだ」


「……ふむ? またいつものように汚い手段で掌を返すつもりではあるまいな?」


「はは、冗談はよしてくれよ。ボクがそんな悪人に見える?」


「貴様らの今までの所業を考えると……な」


「あらら、これは嫌われちゃってるみたいだね」


 そうして美少年は周囲を見渡し始める。


「この階層は広大だ。動物もいれば水もあって植物もある。生態系が確立されているんだよ」


「……ふむ?」


 そのまま美少年は東の方角を指さした。


「そして人間の街もある」


「人間の……街?」


「で、ボクが今回やってもらいたいのは子作りなんだよ。子供が一人できればゲームは君の勝ちだ。次の階層へと進むが良い」


「……どういうことだ?」


「この迷宮について少し話をしようか。ここまで進んだのであれば、キミ自身にもそれを知る価値と権利があるということだから」


「……?」


「この迷宮があの方々……魔神によって作られたのは知っているね?」


「ああ、無論だ」


「そして今までのゲームはあの方々に捧げる供物なんだよ」


「……供物?」


「うん。君たちが泣き叫びながら死に絶えるのは……それが必要だから。だから、あの方々に作られた魔人である僕たちがピエロとなって演出しているんだよ」


「要は残虐ショーのエンターテイメントだろうがっ! 俺たちが苦しんでいる様子を見て、魔神とかいう連中が喜んでいるんだろうっ!?」


「それは理由の3分の1だね。実は大事な理由がもう2つある」


 そこで男は小首を傾げた。


「強者が魂の慟哭と共に天に召される際には……莫大な昇華エネルギーが生成される。あと、純粋に強者の精神的疲弊からもエネルギーが生成されるんだ。それの収集を行って、この迷宮の運営を始めとしたエネルギーに回される」


「死亡の際にエネルギーだと?」


「分からないならそれで良いよ。そしてもう一つは君たち自身の見定めだ。知恵と力。君たちがこの迷宮を越えた先の次のステージでも通用するかどうか……のね」


「次のステージ……?」


「……神々の領域の話だよ。おっと、少しばかり……僕の明かせることの許されている権限を越えてしまったようだ。話はここでおしまいだね」


「まあ良い。今は生還するかどうかが問題だ。迷宮の内部事情など俺は知らん。で、どうして子作りなんだ?」


「伝えた通りに、強者が魂の慟哭と共に天に召される際には……莫大な昇華エネルギーが生成されるんだよ」


「ああ、それはさっき聞いたな」


「迷宮に迷い込んだ獲物から、ボクたちはエネルギーを取り出すんだ。そして君の子供もまた、厳密に言えば君と同義の存在となる。元は精子と言う君の細胞から産まれるものだからね」


「回りくどい話はもう良い。貴様は……何を企んでいるんだ?」


「僕はこの階層を訪れた人間の精子や卵子を貰って……生産した人間で生贄の街を作っている。中にいるヒト種は僕たちのような魔神に作られしモノのオモチャとなる。当然ながら今現在……街の中は阿鼻叫喚の地獄絵図だよ」


 そこで男は息を呑んだ。


「まさか貴様ら人間の養殖をしている……ということか?」


「エクセレントっ! 察しが良いね! もちろん、中で繁殖させてるんだけど、やっぱり新鮮な精子や卵子がないと……遺伝的に色々と不味いんだ。しかも、子供たちは君たちみたいな強者じゃないのでエネルギー効率が悪い。まあ、その分……念入りに時間をかけてイジメ続けてるけどね」


「何という悪趣味な……っ!」


「はは、嫌ならボクと闘って死ねばいい」


 そうして少年は指をパチリとやった。


「人間のパーティーで男女がいれば、このまま交尾をさせるんだけど……君は一人のようだ。相手を選ぶと良い」


 気が付けば、いつのまにか周囲にはオークやゴブリン、あるいは犬型の魔物が男の周囲を取り囲んでいた。


「この魔物は……?」


「交尾すれば亜人が生まれると思うよ」


「ちょっと待てっ! オークやゴブリン相手にそんなことができるかっ!」


「あら? 嫌なら良いんだよ? ここで死ぬのを選ぶなら好きにすれば良い」


 そうして男は拳を握りしめて、そしてあてどころの無い怒りと共に咆哮した。



「くそ……くそ……くそがあああああああああっ!」



 その言葉を受け、美少年は氷のような微笑を浮かべた。


「子の生産活動でも……良い感じに精神がすり減ってエネルギーを取り出せるんだよね。まあ、せいぜい……ゲロでも吐きながら交尾に励んでね」





 そして1200年後。

 魔人が支配し、日夜残虐行為が繰り広げられる……人間と亜人の街に一人の男が辿り着いた。


 セオ=ピアース。



 ――人類最強である。




・作者から

 新作書いてます

 現在進行形で練習中のラブコメなんですが、モノは試しで眺めていただければなと。


・タイトル

引っ込み思案で小柄で全身真っ白なロシア美人のリーリヤさんをイジメから助けたら、翌日にお弁当を持ってきた件



・URL

https://kakuyomu.jp/works/16816452220264107259

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