第6話 メデューサVS最強の男

 迷宮第3階層。

 薄暗い森の中を二人の男が歩いていた。


 死霊術師(ネクロマンサー)と暗黒騎士。

 彼らは魔王にすらも恐れられる悪夢の殺戮者として知られていた闇世界の強者だ。


「身体欠損ダーツ……何という恐ろしいゲームだったんだ」


 暗黒騎士の言葉で死霊術師(ネクロマンサー)は小さく頷いた。


「ああ、奇跡的にクリアーできたが……」


「しかし、死霊術を応用してゾンビの肉体を欠損部位に移植するとは考えたな。確かに完全回復魔法(パーフェクトヒール)がアリならそれもアリだろう。おかげでこちらも無限に手足が生える状態だ。そして相手は30回……」


 そこで死霊術師(ネクロマンサー)はニヤリと笑った。


「ああ、さすがの金髪男も苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたな。おかげで私の体のアンデッド化は進んでしまったが命には代えられない」


「しかし、他にも……一応は色んな方法でクリアーできるようになっているようだったが……」


「あくまで連中はゲームを楽しむということなのだろう。頭を使い、こちらに術があるのならば勝機はある」


「ピエロの力量を見た時は絶望したが、戦いでなければ良いということであれば……希望が見えてきたぞ」


 そうして彼らは森の中の開けた場所に辿り着いた。

 そこにはテーブルが置かれていて、無数のヘビの髪を持つ男が座っていた。


「お前は……?」


「我はメデューサ。神話の魔物也」


 そこで二人の表情が驚愕に包まれる。


「メデューサだとっ!?」


「伝承上の魔物など……存在する訳がないっ! それにメデューサであれば見られた瞬間に我々は石になるはずだっ!」


 その言葉でメデューサは楽し気に笑った。


「石にすることもできるがそれではつまらぬ。それとも、我との闘争を選び――石になることがお望みか?」


 そうして暗黒騎士はメデューサの対面に座って、冷や汗をかきながらこう言った。


「分かった。それで……ゲームというのは?」


 メデューサは懐からトランプを取り出して楽し気に笑った。


「大量失血……神経衰弱(しんけいすいじゃく)だ」


「神経衰弱(しんけいすいじゃく)……だと? 同じ図柄のカードを2枚選ぶやつだよな?」


「ああ、記憶力勝負のアレだよな」


 テーブルの脇には輸血用の点滴のような器具が取り付けられている。

 恐らくはそれで血抜きをするということだろう。


「1対1で神経衰弱を行い、取れたカードが多い方が勝ち。相手よりも少ない場合は、少ないカード枚数に応じて血が抜かれる。カード一枚の差で10CCが抜かれることになる」


「勝敗の条件は?」


「2500CCを相手から抜くか、あるいは……相手が死ぬか。勝敗条件が達成しない場合は延々とゲームが最初から繰り返される訳だ」


「人間の致死量は2000CCだったな。なるほど、それが我らの命のライン……か」


「そういうことだ。さて、ゲームを始めよう」




 そして2時間後。


 暗黒騎士は青白い表情で地面に倒れ絶命していた。

 死霊術師(ネクロマンサー)が失血による極度の貧血症状で、もうろうな意識の中でうわ言のように呟いていた。


「相手が先行ならば……こちらにターンすら回ってこずに全てのカードを取られてしまう……こちらが先行でも相手にターンが回った瞬間に全てのカードを取られる……ありえない、こんなのありえない……」


「何かご不満でも?」


 今回はメデューサが先行。

 54枚の全てのカードを一度のターンで取られ、今回で致死量に達するほどの血を抜かれながら男はガクガクと震えて言った。


「ありえない……こんなのありえない……イカサマ……そうだっ! こんなのはイカサマ以外にはありえないっ!」


 そこでメデューサは心外だと言う風に肩をすくめた。


「イカサマなんてしておらぬ。あまり我を見下げるな」


「そちらは100%の確率でカードの図柄を揃えているだろうっ!」


「それは当たり前だろう。我を誰だと思っている? 神話に登場する魔物ぞ?」


「どういう……こと?」


「メデュ―サの魔眼……也」


「魔眼?」


 ニタリと笑い、メデューサの右目が怪しく光った。


「――透視の魔眼と呼ばれておる」


 言葉を受けて、死霊術師(ネクロマンサー)の顔から更に血の気が引いていく。


「馬鹿なっ! それではゲームとして成立しないではないかっ!」


「スキルを使って何が悪い? これは我の能力ぞ? そしてこの迷宮は生還率ゼロなのだぞ?」


 そうしてメデューサは肩をすくめて、呆れたように言葉を続けた。


「まさか卑怯とは言うまいね?」


 その言葉を受け、死霊術師(ネクロマンサー)は悔し涙と共に慟哭の叫びを奏でた。


「ぐっ……ぐっ……くっ……ぐううううううっ!」








 ――そして700年後。



 一人の男が、薄暗い森の中の開けた空間に設置されたテーブルに座っていた。


 セオ=ピアース。

 紛れもなく人類最強の男である。


 対する彼の対面には、無数のヘビの髪を持つ男が座っていた。


「お前は……?」


「我はメデューサ。神話の魔物也」


 そこでセオの表情には一切の変化は見られなかった。


「なるほど」


「……メデューサなのだぞ?」


「そうか」


「我はめっちゃお主を見ているのだぞ? 凝視していると言っても良い」


「ああ、そうだな」


「石になったりしないことに……驚いたりしないのか?」


「石になっていないからな。実際に石になったら驚くだろうよ」


 話がかみ合わない。

「ひょっとして……」とメデューサは尋ねた。


「お前はメデューサを知らないのか?」


「強いのかそれは?」


「神話生物だ」


「なんだ、おとぎ話の類か。俺は修行に明け暮れていてそのようなものは知らん」


「いや、ここに実在する。ともかく恐ろしい生物なんだ。無論……強い」


 その言葉でセオは瞳をランランと輝かせた。


「自分で言うくらいなんだから――強いんだろうなっ!」


 突如、異常なくらいに食いついてきたセオにメデューサは若干だけ引き気味になった。


「お、おう……」


「で、ゲームだったか?」


「そ、そうだ! 大量失血……神経衰弱(しんけいすいじゃく)だ」


「神経衰弱(しんけいすいじゃく)……だと? 同じ図柄のカードを2枚選ぶやつだよな?」


「ああ、そのとおりだ」


 テーブルの脇には輸血用の点滴のような器具が取り付けられている。

 恐らくはそれで血抜きをするということだろう。


「1対1で神経衰弱を行い、取れたカードが多い方が勝ち。相手よりも少ない場合は、少ないカード枚数に応じて血が抜かれる。カード一枚で10CCが抜かれることになる」


「勝敗の条件は?」


「2500CCを相手から抜くか、あるいは……相手が死ぬか。勝敗条件が達成しない場合は延々とゲームが最初から繰り返される訳だ。人間の致死量は2000CCで、それがお主の命のラインとなる」


「俺は俺より強い奴に早く会いたい。早くゲームを始めよう」





 そして2時間後。


 セオは既に2160CCの血液を抜かれているが顔色一つ変えることは無い。


「お主……」


「何だ?」


「既に致死量以上の血液を抜いてるが何ともないのか?」


「ああ、鍛え方が違うからな」


「……強者が物凄く鍛えてたら……そういうこともあるのかな?」と、無理やりにメデューサは納得したようだ。


「ところで、どういうことなのだこれは?」


「どういうことと言うと?」


「お前が先行ならばこちらにターンすら回ってこずに全てのカードを取られてしまう」


「ああ、そうだな?」


「こちらが先行でも相手にターンが回った瞬間に全てのカードを取られる。こんなのありえないだろう?」


「ふむ、何かご不満でも?」


「こんなのありえない……イカサマ……そうだっ! こんなのはイカサマ以外にはありえないんだよっ!」


 そこでメデューサは心外だと言う風に肩をすくめた。


「イカサマなんてしておらぬ。あまり我を見下げるな」


「そちらは100%の確率でカードの図柄を揃えているだろうっ!」


「それは当たり前だろう。我を誰だと思っている? 神話に登場する魔物ぞ?」


「どういうことだ?」


「メデュ―サの魔眼……也」


「魔眼?」


 ニタリと笑い、メデューサの右目が怪しく光った。


「――透視の魔眼と呼ばれておる」


「馬鹿なっ! それではゲームとして成立しないではないかっ!」


「スキルを使って何が悪い? これは我の能力ぞ? そしてこの迷宮は生還率ゼロなのだぞ?」


 そうしてメデューサは肩をすくめて、呆れたように言葉を続けた。


「まさか卑怯とは言うまいね?」


 その言葉を受け、セオはマッハの速度でメデューサの右目に目突きを行った。



「――卑怯に決まってるだろうがっ!」



 と、右目に人差し指を突っ込まれ、メデューサは「うぎっ!」と悲鳴を漏らした。


 そのままセオは「俺は卑怯者が大嫌いなんだっ!」と、怒りに任せてメデューサに右ストレートを叩き込んだ。



「怒り限界突破――これが俺の120%の力だっ!」



 右ストレートでメデューサは地平線の彼方まで吹き飛び、そして絶命した。

 そのままセオは立ち上がり、拳を鳴らし始めた。

  

「さて、ここの階層主を探すとするか」


 セオ=ピアース。


 そう、人類最強の男は、たった今倒したのが階層主とすら気づいていなかったのである。



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