第5話 デスゲームの始まり
サムライマスターと陰陽師と巫女が――洋館の一室に通されていた。
彼らは倭の国一の剣豪と、そして陰陽道と巫術のエキスパート達だ。
彼らの戦術は単純だ。
まず、剣豪に陰陽道による身体能力補助サポートを施して近接戦の戦闘力を跳ね上げる。
そしてダメージを受けた場合は巫術による回復を施す。
3人の絶妙の連携によって、彼らは東方無双のパーティとして知られていた。
そんな彼らもまた奈落の迷宮に挑んだ冒険者たちとなる。
と、そんな彼らを眺めながら赤ワインをくゆらせ、ソファーに座る金長髪のタキシードの男は小さく頷いた。
「それではゲームを始めましょうか」
「ゲーム……だと?」
「ピエロから聞いていませんでしたか? 階層主の出す条件をクリアーすれば次の階層へと道が開かれる……と」
そこでサムライマスターがゴクリと喉を鳴らした。
「階層主を倒すことでも次の階層に行けると聞いたが?」
金髪の男はクスリと笑い、そして――
「そちらがお望みで? どちらでも構いませんが?」
いつのまにか男が手に持っていた漆黒の魔剣の切っ先が、サムライマスターの肩口から数センチのところで止まっていた。
「拙者が……剣を見切るどころか……剣をどこから取り出したかもわからぬとは……」
「このまま右手を切断しても良いですが、それでは困りますよね?」
ブンブンとサムライマスターは首を縦に振った。
「ゲームの申し出を受けよう」
「快諾感謝しますよ。いや、本当に右手を切り落とせばゲーム的にも困ったことになっていましたよ?」
「ゲーム的に……?」
「ええ、これからやるのはダーツです」
パチリと金髪の男が指を鳴らすと、突如としてダーツの的が現れた。
「これは……?」
「今から我々が楽しむのは――身体欠損ダーツです」
「身体欠損ダーツ……?」
「ええ、その通りです。ダーツの的を御覧なさい」
よくよく見れば、ダーツの的には――領域ごとに右手、左手、右足、左足との文字が書かれている。
つまりは、右上に当たれば右手、左下に当たれば左足と言った次第となる。
「交互にダーツを投げていくのがルールです。そして最後まで四肢のどれかを残していたほうがゲームの勝者となる」
「まさかとは思うが……例えば右手の領域にダーツが当たると?」
金髪の男はニコリと笑った。
「むしろ、右手が切り落とされると考えない方がおかしいでしょう?」
そうして男はパチリと指を鳴らすと、室内に黒づくめの仮面の男たちが3人入ってきた。
「般若……?」
「貴方の国に合わせてみました。まあ、私の使い魔ですよ。ただし――それぞれが貴方達全員でも逆立ちしても適わない力を持っています」
般若の一人が、壁にかけられていた大鉈を手に持ち……残る二人の般若が金髪の男の背後に立った。
「これで3人対3人ですね。それじゃあ始めましょうか――身体欠損ダーツっ!」
サムライマスターは苦悶の表情を浮かべていた。
既に陰陽師と巫女は四肢を大鉈で切り落とされて……止血はしているものの虫の息だ。
対する相手方も般若の四肢は切り落とされ、現在は一騎打ちの状況。
サムライマスターは左手と右足を失い、金髪の男は両足と右手を失っている。
サムライマスターは激痛のあまりに何度も意識を飛ばしそうになるが、そこは鉄の意思で意識を正気に保つ。
戦場に身を置き、痛みに耐性がある自分ですらも脂汗と共に苦痛に顔を歪めていると言うのに、しかし、金髪の男は涼し気な表情で残った左手でワインに口をつけていた。
――化け物めっ!
サムライマスターはそう思いながら……般若の補助を受けながら、片足で的の前に立ち、ダーツを構えた。
「お前の四肢は残るは左手だけだ。ここで当てればこんなふざけたゲームもこれで終わりだ」
「……ふふ」
涼し気に笑う金髪の男を横目に、サムライマスターはダーツを投げて――見事に左上の領域に突き刺さった。
「良し! これで俺の勝ちだっ!」
「さて、どうでしょうかね?」
そこで金髪の男はパチリと指を鳴らした。
すると金髪の男の欠損した部位の肉が盛り上がり、メリメリという音と共に――男の四肢が元の場所に生えてきた。
「左手は差し上げましょう。ただし、残るは右手・右足・左足となりますが」
「完全回復魔法(パーフェクトヒール)……身体欠損を回復……? それは神々の魔法のはず……いや、そんなことよりも……そんな無法は認められないっ!」
「無法?」
「身体欠損が元に戻るなら何でもありじゃないかっ!」
男はクスクスと笑い声をあげた。
「あれ? 聞いてませんでした?」
「何が……だ?」
「ここって生還率0%なんですよ? そんな簡単にゲームに勝てる訳ないじゃないですかーっ! ハハっ! アハハハっ!」
「そんな……そんな無法は……!」
「無法? そもそもですね? 勘違いしていますよ?」
「勘違い?」
「――ここでは私が法律です」
「そ、そ……そん……な……」
「とはいえ、ゲームの勝率0%というのも良くないんですよね。完全回復魔法(パーフェクトヒール)の使用回数は30回までとします。まあ、せいぜい――頑張ってくださいね?」
ニコリと男が笑う。
「くそ、くそ、くそ……くそくそくそくそ――くそたっれええええええええっ!」
そしてサムライマスターのやるせない叫び声と、男の笑い声が室内の響き渡った。
――そして500年後。
一人の男が洋館の一室に通されていた。
セオ=ピアース。
言うまでもなく人類最強の男である。
赤ワインをくゆらせながら、ソファーに座る金長髪のタキシードの男は小さく頷いた。
「それではゲームを始めましょうか」
「ゲーム……だと?」
「ピエロから聞いていませんでしたか? 階層主の出す条件をクリアーすれば次の階層へと道が開かれる……と」
「いや、聞いていない」
「ん? おかしいですね? まあ、彼はお茶目さんなのでサボったのでしょうか?」
小首を傾げながら金髪の男は言葉を続けた。
「階層主の提示した条件をクリアーすれば次の階層に行けます。それと、私を物理的に倒すことができても次の階層にはいけます。どちらがお望みで? 私はどちらでも構いませんが?」
「それでは手合わせ願おうか?」
「これは意外な反応ですね。まあ、それでもかまわないのですが……まったく、ピエロ君もちゃんと我々の恐ろしさを教えておかないから……まあ、ゲームをオススメしますよ」
「いや、むしろ俺は手合わせを願いたいのだが?」
「いやいや、ですからね……ゲームで遊ばないとこっちも困るんですよ。ギャラリーもいるんですから……」
「ギャラリー?」
「ああ、これは失言でした。そのことは今後の階層で分かってくるでしょう。とにかくゲームですよゲーム。ゲームをしましょう」
「まあ、そこまで言うなら……付き合ってやろう」
「エクセレント。良い返事ですよ。これからやるのはダーツです」
パチリと金髪の男が指を鳴らすと、突如としてダーツの的が現れた。
「これは……?」
「今から我々が楽しむのは――身体欠損ダーツです」
「身体欠損ダーツ……?」
「ええ、ゲームを始めましょう」
セオは涼し気な表情を浮かべていた。
セオは左手と右足を失い、金髪の男は両足と右手を失っている。
般若の大鉈ではセオの手足を切ることができなかったので、セオはルールに従って自分で自分の手足を切った。
表情を一つも変えずに、ただ淡々と鉈で自分の手足を切り取ったのだ。
「え……どういうこと? なんで般若の大鉈で切れないの?」と金髪の男はかなり驚いた表情をしていたが、「強者が全開で防御系魔法を重ねがけしている状態であればそういうことも……あるのかな?」と無理やりに納得していた。
そうしてセオは片足立ちで的の前に立ち、ダーツを構えた。
「お前の四肢は残るは左手だけだ。ここで当てればこんなふざけたゲームもこれで終わりだ」
「……ふふ」
涼し気に笑う金髪の男を横目に、セオはダーツを投げて――見事に左上の領域に突き刺さった。
「良し! これで俺の勝ちだっ!」
「さて、どうでしょうかね?」
そこで金髪の男はパチリと指を鳴らした。
すると金髪の男の欠損した部位の肉が盛り上がり、メリメリという音と共に――男の四肢が元の場所に生えてきた。
「左手は差し上げましょう。ただし、残るは右手・右足・左足となりますが」
「完全回復魔法(パーフェクトヒール)……身体欠損を回復……?」
「ええ、そのとおりです」
「……それはアリなのか? それをやってもアリなのか?」
「ええ、アリです! 卑怯と思いますか? フハハっ! 残ー念! ここのルールは私なのですっ!」
「じゃあ、俺も」
そうしてセオは完全回復魔法(パーフェクトヒール)を使用して、自らの欠損部位を回復させた。
その様子を見て金髪の男はただただひたすらに、打ち上げられた魚のように口を開閉させていた。
「………………えっ!?」
そこでセオは「はてな」と首を傾げた。
「どうして驚いている? ルール上……完全回復魔法(パーフェクトヒール)はアリなんだろう?」
「え、いや、そ、そう、それはそうなんだけど……って、え、なんで人間、神しか使えない、完全回復魔法(パーフェクトヒール)……って……えっ!?」
「ともかくゲームを続けよう。しかし一点気になることがある」
「え……? あ……えっ……?」
何が起こっているか分からない状況の金髪の男を無視してセオは問いかけた。
「完全回復魔法(パーフェクトヒール)がアリなら、いつまでたっても決着がつかないと思うのだが? 使用回数制限はあるのか?」
「えと……30回……」
「多いっ! 多すぎるっ! こんな茶番に何回も付き合えるかっ! 俺は俺より強い奴に早く会いたいんだっ!」
突如セオは怒りを露にして金髪の男の顔面に右ストレートを繰り出した。
「あびゅしっ!」
金髪の男が大きく上半身を仰け反らし、そしてセオは嬉しそうに笑った。
「様子見の50パーセントの力とは言え、俺の一撃を受けて吹き飛ばない……素晴らしいっ!」
と、戦闘開始と判断した般若たち4人がセオを取り囲んだ。
「フンッ!」
スパパパンっ!
瞬く間に般若たちの顔面が粉砕していき、肉片と脳漿が室内に飛び散ると同時に般若が次々と倒れていく。
「こいつらは駄目だな。20パーセントの力でも一撃か……やはり階層主とは全く違う」
「な、な、な――なっ! ありえない、何が起こっているのです?」
粉砕された鼻骨から濁流のように鼻血を垂れ流しながら金髪の男はそう言った。
「お前とさっきのピエロ……どちらが強いか楽しみだ」
ボキボキと拳を鳴らしてセオはニタリと笑った。
「ピエロを……倒したのですか?」
「ああ、奴は3発も俺の全力の打撃を耐えた」
「ピエロは門番……この迷宮で下から数えて2番目……」
「ほう、あいつで2番目の雑魚なのか! これは本当に楽しみだっ!」
そこでしばし何かを考えて、セオは金髪の男に尋ねた。
「雑魚は最初の方に出るのが定番だよな? ひょっとして……一番弱いのは?」
「……私です」
セオは心の底からの残念そうな表情を作って、そして拳を構えた。
「全力は出す。が……せめて……一撃では死んでくれるなよ?」
拳を振りかぶって――振りかぶって振りかぶって、これでもかと体を捻らせたセオを見て、金髪の男は絶望と共に半泣きの表情を作った。
「あ……あ……あああああああああっ!」
そうして、男は部屋の壁を突き破り、地平線の彼方へと吹き飛んでいき……一撃の下に絶命した。
「さて、次の階層にはどんな男が待っているのだろうか」
セオは拳を鳴らしながら、洋館の一室を後にしたのだった。
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