第3話 逆襲

 ――ここらで良いか? もう一度問おう。力を求めるか――幸せを望むか……どちらだ?



 久しぶりに聞くもう一人の僕の声に僕は力強い声でこう応じた。



「力が欲しいっ!」


 ――じゃあ、選手交代だ。


 

 俺は小娘の蹴りをヒョイっと避けて、聖剣を奪い取るとその背後に回った。


「えっ!? 蹴りを……避けた?」


「むしろそんな蹴りを避けられないほうがおかしいだろ?」


「おい、どうしたんだセシリア?」


 ――超高速移動


 魔術と体術を融合させた俺の18番だ。低レベルな連中からするとテレポート以外には見えないらしいな。


「よいしょっと」


 アゴに右フックを一撃。


「……あぎっ!?」


 間抜けな声と共にモーリスは崩れ落ちる。


「瞬間移動? モーリス……一撃? えっ!? そんな……そんな馬鹿なっ! セオが……? 私が視認すらできない速度って……えっ?」


 よほどテンパってやがんな。

 俺は小娘から聖剣を奪い取る。


「で、こいつがそんなに欲しいんだったか?」


「え? え? あ? あ……うん。聖剣は欲しいけど……」


 そうして俺は聖剣の両端を両手でもって、胸の前に水平に突き出した。

 そのまま枝を折る要領で聖剣に膝蹴りを喰らわせて――



 ――ポキンっ!



「聖剣っ! 聖剣っ! えええっ! 折れっ! 折れった!? 聖剣折れたっ!? お、お、おりは、オリハル……オリハルコーンっ!?」


 いや、まあそりゃあ驚くわな。

 逆の立場だったらこんなの俺でも怖い。


「やかましい」


 聖剣を投げ捨てて、小娘の頬に優しく優しく平手打ちを行う、

 次に小娘の顔面に優しく裏拳を入れる。


「あびゅしっ!」


 小娘が鼻血を垂れ流して崩れ落ちた。

 どうやら鼻骨が折れたようなので、弱いものイジメはここらでやめておこうか。


「おい、そこの聖騎士?」


「あ……え……う……あ……は、はい! 何でしょうか?」


「この穴の下には魔神がいるんだよな?」


「え、あ……その通りです」


「魔神ってのは強いんだよな?」


「生還率0%ですから……恐らくは」


「上出来だ」


 そうして俺は拳を鳴らしながら、奈落の底をニヤリと見下ろした。


「あの……どちらに?」



「――俺より強い奴に会いに行く」



 そうして俺は生還確率0%という、奈落の大穴へと身を投げたのだった。




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