汗して働く喜び

@takagi1950

汗しては働く

昨年、48年間勤めた会社を定年退職した。そのまま契約社員として働くことも出来たが、一日も早く外の世界を見たかった。

「そんなに焦らなくても。1、2年準備したら」

「その時は私も応援するから」

 妻が言ったが「そんな逃げ道を作って自分を安全なところに置いて色々言うのは嫌なんだ。逃げ道をなくして勝負したい」と向きになって反論した。

今から思うと自信過剰だったかもしれない。


 私は、あと10年は働くつもりで、体力も気力もある。退職後から今春にかけて、ウェブデザインの技術を必死に学んだ。良い先生の指導を受けて、ホームページ・デザイン・ポスター作製も出来る様になった。

「高階さん、コンテストにも入賞したし自信満々で就職試験受けてください」

先生から励まされた。しかし、高齢が障害となり最終面接をしてくださった優しそうな社長さんから「あなたと一緒に仕事をするイメージがわきません」と微笑みながら言われ再就職は難しかった。それからも30数回受験したが失敗の連続だった。この時『俺は腐ったリンゴか、もう社会は俺を必要としていないか』と悩み、ショックから腰痛にもなった。

 

 そんな時、ある人から「ネット経由で仕事を始めたら」と言われ再起を図った。自分なりに頑張ったが月2万円稼ぐのがやっとで『ああ俺のセンスが悪いな』と自問して挫折。

 友人からも「確かに旨いけど、素人の一生懸命だね」、「これでは金はとれない」といわれ変に納得する自分があった。


働く気力を失い、2カ月間家でゴロゴロとして過ごした。そして妻と一日中顔を突き合わせていると息が詰まりそうで、妻の表情も暗くなり「なんでもいいから外で何かして」と言われた。


 初秋のある日、1年前は自転車でスイスイ登れた坂道が登れなくなって「お前は何をしているんだ」と独り言を言って落ち込んだ。この出来事が私の背中を押した。すぐさまシルバー人材センターに登録し、職種を選ばず仕事をすることにした。私の決心を試すように、駅前でのティッシュ配りの単発業務が入った。照れくさかったが、「これ読んでください」、「よろしくお願いします」と言って行きかう人々と話し、仲間と「手伝いますよ」、「頑張りましょう」、「動いていると気持ち晴れますね」と話しながら一緒に汗をかいて働くのは心地良かった。


 それからすぐ仕事が決った。管理職だった私が、今は自分の身体と手を動かし駐輪場の管理人として働いている。

相手は「ありがとうございます」と声を掛けてくれる親切な客、1万円の両替を強要したり、「もっと整理しろ、汚い」、と言う高圧的な客、挨拶を返さなす、にらみ付ける不機嫌な客と様々。自分を鏡で見ているようで勉強になるが、時には涙が出そうになることもあった。

そして『お前は何をしているんだ』と自分を責めた。


更に自分の力不足でFAXの誤送信、伝票の記入ミスなど、思い通りいかないことも多いが、先輩が「間違いはありますから、次は失敗しないように頑張りましょう」と優しく指導してくれる。私にはこの優しさがなかったと気付く。

この優しさがあれば私にも違った人生があったのではと考えることもある。それはさて置き働くことの難しさと、体を動かすことの楽しさを知った1年だった。

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