路上生活者の女性と、複雑な家庭に生まれ育った少女、それと特殊詐欺の被害に遭う老婆のお話。
オムニバス形式、とはまた違うかもしれませんが、それぞれの章ごとに別個の三人の人物が登場する作品です。
通底するのは「アンダーグラウンド」という主題の部分。詳細に説明するのは難しいのですが、とにかく胸に突き刺さるお話です。何か重たい鉛の塊でも飲み込まされたかのようなこの読後感……。
〈 この先ネタバレというか、内容に踏み込みますので未読の方はご注意 〉
それぞれの章ごとに、主人公(というか主たる登場人物)だけでなく、形式すらも変わるのが面白い。モノローグ的な独白から、インタビューの書き起こし風、そして対話劇。彼女たちの境遇はいずれも胸の痛むもので、でもそこにただ同情するだけで済ませてくれないのが本作の主題。あくまで「アンダーグラウンド」という〝場〟を描いたお話であること。
ひとつの階層そのものの物語。作中の悪い人たち(加害者たち)には憤りを感じたりもしますが、しかし彼らのそれもまた「場に要求された生きるための手段」であるなら、果たしてそんな単純な義憤と被害者への憐憫で済ませてよいものか? そう明確に思わされたのが第三話で、老婆が別に地下世界の住人ではないのに対し、「アングラ」にいるのはそれを騙す詐欺グループの方、という構図。
こういうとき、つい縋りたくなるのがいわゆる公正世界誤謬。割り切れないものを抱えながら、ついぐるぐると「誰か悪者を見つけたい」という考えを繰り返した先、結局辿り着いたのは自分自身。作中の光景をどこか別世界の出来事として眺めるばかりか、仮に現実に彼女らを目の前にしても、きっと何もしないであろう自分の存在でした。
地上と地下は繋がっており、自分が知らずにそれらを踏みつけにしているだけでなく、いつ落ちるともしれないのだ、ということを思わされた作品でした。なんて、そんな個人的な感想はさておいても、単純なパンチ力だけでも凄まじいのでおすすめです。