第3話 友達以上、恋人未満
それから、さらに月日が経って、僕たちは中学生になっていた。
結月もすっかり明るくなって、そして、優しい女の子になっていた。
困っている人が居たら、積極的に助ける。
イジメになりそうな気配を見つけたら、積極的に止める。
きっと、彼女が受けた経験故なんだろう。
そんな彼女は、中学では人気者だった。
結月は元来真面目で向上心旺盛なタイプだった。
だから、運動も勉強も、怠らず。
小学校の時とは違って、微笑みを絶やさず、いつも穏やか。
だから、彼女を慕う男子も女子も多かった。
「ごめんなさい。気持ちはとても嬉しいけど。私、恋愛ってよくわからないから」
でも、彼女はいつもお断りをして、その決まり文句がそれだった。
ある日の下校時。
「結月も、すっかり変わったよね。もう、クラスの人気者だし」
「それは……健吾のおかげ、だよ。何があっても味方でいてくれたし」
「い、いや。それ程でもないけど」
中学になって、体つきが女の子らしくなっていく結月。
そんな彼女から、僕だけへのお礼。嫌でも意識してしまうのだった。
「もう、本気だよ。きっと、あのままだったら、私、今でもイジメてたと思う」
その言葉は、彼女が言うだけに、とても重みがあった。
「でも、あれは、やっぱり僕がやりすぎだったよ」
あの頃の、暗い部屋で臥せっていた光景は今でも覚えている。
「ううん。きっと、謝って終わり、だったら、反省しなかったよ」
「……」
「でも、皆から言われて。ようやく、「私って嫌な子だった」って気づけたの」
「そっか。なら、もう、何も言わないよ。でも……」
と少し恥ずかしいことを言おうとしてるなと思う。
「あの時に言った。ずっと、結月の友達でいるっていうのは、今もだから」
「もう。健吾は、そういうところ、女心を理解してないんだから」
ぷいっとそっぽを向いてしまう結月。
「え?どういうこと?何かまずかった?」
対する僕は、わけもわからずおろおろするばかり。
「別に怒ってるわけじゃないの。でも、私は、友達だけど、女の子なんだからね?」
「え」
ニカっと笑った結月の顔に、僕はドキンと胸が高鳴るのを感じていた。
「って、冗談だよ、冗談。本気にしないでね?」
「結月。からかったね?」
「どう?ちょっと、ドキっと来た?」
こんな悪戯をするようになったのも、中学になってから変わった事だった。
ただ、正直に認めるのはシャクだった。
「ドキっとなんてしてないよ。結月は友達だから」
なんて、素直でない言葉を返した。
「そうだよね。友達だもんね」
そう言った彼女の言葉には、寂しさが宿っている気がした。
さて、人気者になった彼女だけど、やっぱりいちばん近くにいるのは僕だった。
たとえば、一緒に映画を見に行ったり。
一緒にプールに行ったり。
ファストフード店で、おしゃべりしたり。
そんな日々が続いて、僕はなんだかすっかり舞い上がっていた。
僕のことを好いてくれてるのでは?と思ったのも、一度や二度じゃない。
ただ、「僕の事、どう思う?」となんとなく聞いてみても。
「大事な友達。親友だって思うよ」
なんてはぐらかされる事が多かった。
だから、僕もどう彼女との関係を変えていいかわからなかった。
その関係がさらに変わり始めたのが中三になってから。
高校受験を意識する頃になってからだった。
「結月は志望校、どうする?」
中三の六月頃。ふと、そんな話題を振ったことがあった。
「うーん。どうしよっかな。あんまり希望はないの」
「結月の成績だったら、どこでも行けるでしょ」
勉学に、運動にと真面目に取り組んだ彼女は、成績上位者だった。
「その。実は、ちょっと考えてることがあるんだけど」
少し、いいづらそうにぼそぼそと。
「なんだ。やっぱり、あるんじゃない」
「えーと。健吾と同じところ行けたらいいかな、って」
「え、ええと。それは……」
はにかみながら言う結月に、僕はドキドキだった。
つまり、僕の事を好いていてくれる、ということ?
「ああ、違う、違うの。健吾とは一番の親友だから」
あわあわと弁解する結月に、ほっとしたような落胆したような。
「そっか。じゃあ、僕も結月と同じところに行きたいよ。親友だから」
ほんとは、それだけじゃない願望もあったけど。
でも、結月の気持ちに確信が持てなかったから、そうしてお茶を濁した。
「じゃあ、受験勉強、一緒にしない?」
「うん。いいね!やろう、やろう!」
内心、僕はドッキドキだったけど、つとめて冷静に振る舞った、つもり。
それから、さらに月日は経って、僕らは無事、同じ高校に合格した。
「これで、健吾と同じ高校に行けるね!」
喜びの余りか、合格発表の会場で、抱きつかれた。
当然、僕はといえば、意識しまくり。
「う、うん。僕も、だよ」
と、おそるおそる抱き返した。
「あ、その。友達としてだからね?」
「う、うん。わかってる、つもり」
いい加減僕も、結月のそれが、単なる親愛の情じゃないのはわかっていた。
でも、まだまだ先は長いし。気持ちを確かめるのは先でいいや、と。
(高校になってから、機会を見て、確かめよう)
そう思っての先延ばし。
その結果が、ラインでのメッセージに繋がったのだった。
◇◇◇◇
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