第134話 脱獄の知らせ



部屋で落ち着かずウロウロするが、考えてもわからない。


オズワルド様が人気者だから、嫉妬でもした誰かのただの悪戯だろうか。


それなら命に関わることはないし、オズワルド様は誰にもなびかないだろうから、大丈夫だとは思うけど、誰が何の為にしたのかわからないのは不安を煽られてしまう。


部屋で一人考え込んでいると、マリオンがお茶を持って来てくれた。


「リディア様、お帰りになられたと聞いてお茶をお持ちしました」

「ありがとう、マリオン」


マリオンがお茶を準備してくれた為、小さなラウンドテーブルに腰かけ、お茶を頂こうとすると、マリオンは指に包帯を巻いていた。

それも一本じゃなく、親指に人差し指に中指と両手に巻かれている。


「マリオン…指をどうしたの?」

「…実は温かいお茶を飲もうとしたら、意外と熱くてティーカップごと落としてしまったんです…それで、カップの破片で指も切ってしまって…」


痛そうに手を握りしめるマリオンに今夜は休ませるか、と考えていた。


「じゃあ、今夜の支度は大変ね…いいわ、マリオンは休んでて」

「でも、今夜は晩餐に大がかりなパーティーですし…指くらい大丈夫ですよ」

「大丈夫よ。せっかくの結婚式ムードで街も沸いているし、マリオンはウィルと出掛ければいいわよ」


怪我もしてるし、マリオンだって息抜きは必要だわ。

せっかくだから、ウィルとデートでもすればいいと思い、マリオンを早々に休みを入れてあげた。




そして、マリオンの支度を当てにしない為に早めに自分で支度を始めていると、オズワルド様が帰ってきた。


「何かわかりました?」

「…気になる情報が入った」


オズワルド様は、少し怒っているのが表情でわかる。


「何者かの手引きで、アリシアが脱獄した」

「えぇ!?」


あまりの情報に一緒思考が止まり、ドレスを着ていた手も止まってしまう。


「…いつですか?」

「おそらく、アレクの結婚式の夜だ。看守達は皆殺されていた。脱獄したのもアリシアだけだ」


早朝に囚人達や看守の飯炊きが出勤するまで誰も気づかなかったらしい。

しかも、脱獄したのがアリシアだけなら、目的はアリシアの脱獄で間違いない。


異変を知らせる看守も殺され連絡出来ず、囚人達は牢の中で誰も連絡が出来なかったのだ。

そのせいで、脱獄の発見が遅れたらしい。


「今、魔法騎士団やそれ以外の騎士団も捜索に当たっている。」

「誰がアリシアを?」

「わからん」


オズワルド様は、私の着替えを見て背中のショールのように長いリボンを結んでくれながら話してくれた。


「マリオンはどうした?」

「マリオンは指を怪我したので休ませました。私達がパーティーの間はウィルと休ませて構いませんか? 街もせっかくの結婚式ムードですから、デートをさせてやりたいのですが…」

「そうだな…そうしてやるか」


オズワルド様が私の背中のリボンを結び終え、そんな話をしていると、ウィルがオズワルド様の支度に来た。

オズワルド様は支度に来たウィルに、早速二人で遊んで来い、と伝えていた。


「ウィルからマリオンに好きなものを買ってやれ」


そう言って、小袋に入ったお金も渡していた。

オズワルド様はウィルも気に入っているし、信用もしている。

私に忠実なマリオンのことも気に入っているみたいだった。


ウィルは、ありがとうございます。と受け取るが顔が曇っていた。


「ウィル、どうしたの?」

「…実は、マリオンが少し挙動不審でして…」

「マリオンが?」

「先ほども、人気のない廊下をこっそりと歩いていまして…」


ウィルが言うには、周りを気にしながら人気のない廊下を進んでいた、と心配そうに話した。

マリオンに聞いても、また後で、と気まずい雰囲気で言うだけだったと。


そんな話をしながら、ウィルはオズワルド様を正装姿に慣れた手つきで支度を進めていた。



「…俺に飽きたんでしょうかね」


ウィルは、ハハッと気弱に笑った。

ちょっと痛々しい。


「…マリオンは今まで浮いた噂もないのよ。ウィルが初めての恋人だから自信を持ってね」

「ありがとうございます、リディア様」


マリオンはどうしたのかしら、とオズワルド様と顔を見合わせた。


「ウィル、マリオンとずっと一緒にいろ。話に不審な点があればすぐに来い」

「はい。畏まりました」


ウィルは元気がなくなったまま、失礼します、と一礼して部屋を後にした。


部屋に二人だけになると、オズワルド様はマリオンが気になるのか、今日のマリオンの様子を聞いて来た。


しかし、マリオンはまだ今日は城からでていないはず。

私のドレスの準備に、私がいない間にマリオンは食事をするし、仕事がないわけではなかった。


「マリオンが操られている雰囲気はなかったか?」

「…そんな感じには見えませんでしたけど…」


オズワルド様は、フムと顎に手を当てて考えていた。


「とりあえず晩餐に行きましょう。アレク様とフェリシア様の晩餐会ですから、遅刻は出来ませんよ」

「そうだな…」


晩餐会には警備も厳重だし、オズワルド様みたいな公爵家当主には魔法使いもいる。

何かあっても、そうそう手は出せないだろう。


むしろ、この部屋よりは安全かもしれない。


実際、晩餐会会場に行くにも魔法騎士や普通の騎士達が、警備の為にところがしこに立っている。


そして、晩餐会は何事もなく行われた。








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