第125話 闇に溶ける 10
私はあの廃墟で、魔水晶を取りに行った時に死んだお母様に会った。
優しかった。
父やあの後妻と違い、あの優しいお母様だった。
その時、お母様は私の顔を撫でてくれ、私は涙が頬を伝わった。
涙が出るほどお母様に会えて嬉しかったのだ。
でも、そのお母様の手はいつもの温かい手ではなく冷たかった。
その時、気が付けば私は倒れており目を覚ました時にはお母様はおらず、側には真っ暗な魔法草が落ちていた。
幻覚なのか、夢なのか、まるで真っ暗な闇に溶かされたような感覚でわけがわからないまま家に帰ると、後妻に指摘され初めて気付いた。
私の顔に黒い痣が出来ていることに。
でも、あの廃墟でお母様に会ったことは不思議と誰にも言えなかった。
家族にも、私に手を差し伸べてくれたレオン様にも。
目を覚ますと日の光が眩しかった。
私の手はレオン様が握っており、その手は温かった。
「…レオン様?どうなされたのですか?」
「…セシル…良かった…」
何故だかレオン様は私の手を握りしめて泣いている。
何が何だかわからない私に事の詳細を話してくれた。
そして、私の部屋にはオズワルド様とリディア様とライア様が集まっていた。
「セシル、あの廃墟で以前何かあったな。…幻覚か何か見たのではないか?」
オズワルド様はおそらく気が付いている。
もう隠せなかった。
「…お母様に会いました。死んだお母様が私の顔を撫でてくれたのです」
「顔の痣もその時か?」
「はい…側には真っ暗な魔法草が落ちていたので顔に当たったのかと…」
気が付けば涙を流し話していた。
「セシル、よく聞け。それは幻覚だ。セシルの母はもういない。母を忘れろとは言わんが、もう母を追い求めるのは止めろ」
「…お母様が私の拠り所でした」
「だが、その母はもういないのだ」
「…わかってます…でも…」
涙を流し言葉に詰まる私に気を遣ってか、リディア様がオズワルド様達を部屋から追い出し、私と二人になってくれた。
「セシルさん、大丈夫ですよ」
泣いている私の手を握り、リディア様は優しい声で言ってくれた。
「今まで辛かったでしょうけど、救いの手はあります」
「…私を救ってくれる方がいますか?」
「います。気づいてない振りは良くありません」
「…レオン様ですか?」
「そうです。口下手で色々気の利かない所はあるかもしれませんが、セシルさんのことは大事にされてますよ。きっとあなたに夢中なのでしょう」
「…そうでしょうか?」
「間違いありません!私はオズワルド様みたいに腹黒ではありません!信じて下さい!」
「は、はい!」
リディア様は自信ありげに話してくれた。
その自信に思わず押され、返事をしてしまった。
「レオン様をお呼びしますね。何か困ったことがあれば私も微弱ながらお力になります」
「…リディア様、ありがとうございます」
リディア様は優しい。
夕べの出来事を聞いて、私は血の気が引いたがリディア様は私を責めもせず、余計な詮索もしなかった。
そして、上品で私を蔑むことなくライア様達と同じように私と接してくれる。
そして、入れ替わりでレオン様だけがやって来た。
レオン様は優しかった。
私はリディア様の言葉に押されるように、夕べのレオン様の提案を受け入れ、魔法学校に通うことを伝えた。
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