第124話 闇に溶ける 9

私達も邸へ帰り、書斎でオズワルド様に事の次第をライア様が話した。

オズワルド様も廃墟の出来事を話した。


私はその間ずっとオズワルド様の横に座り、抱き寄せられるように肩を抱かれていた。

また私に何かあるかも、と心配だったのだろう。

そう思えるほど何度も私の顔を確認するように見ていた。


「ではセシルはリッチに呼ばれて無意識で歩いていたと?」

「間違いないだろう。リッチは手招きしていたからな」


ライア様は調書を取るためか紙に、オズワルド様の話を記録していた。


「…リディア様…あの時、時間がゆっくりになりましたよね?ほんの一瞬ですが…」


やっぱりライア様は気付いていた。

刻の精霊のことを言っていいのか分からず、オズワルド様を見上げると、オズワルド様は私の顔を隠すように胸に埋めた。


「ライア、余計な詮索はするな。リディアを守ったことに感謝しているんだぞ」


やっぱり刻の精霊のことは言わない方がいいらしい。

精霊は珍しく、特に刻の精霊は誰にも見つからないとオズワルド様が話したことがあった。

ましてや、魔法使いじゃない私が祝福を受けているなんて好奇の目にさらされるだけだ。しかも、オズワルド様は有名人だ。

すぐに目立ってしまう。


「…わかりました。もう聞きません」


ライア様はそう言って、調書の記録を閉じた。


「あのライア様。レオン様はセシルさんをどうなさるのですか?」

「王都の魔法学校にやって薬学を学ばせるつもりです。学費も工面しようと考えているみたいですね」


レオン様が学費まで!?

あまりの変わりように驚いた。


「…ライア、リディアを助けた礼に少しだけ知恵を貸してやる」

「何の知恵ですか?」

「セシルの学費だ。どうせレオン様は金がないんだろう。」

「まぁ、資産も尽きてますからね」

「リンハルト男爵から金をとればいい。学費と魔法薬の温室もセシルのものにしろ。あの廃墟の土地もだ。セシルはリンハルトの娘だ。父親からもらったことにすれば何の問題もない」

「リンハルトが出しますか?」

「今回の事件をちらつかせればいい。どうせ、セシルの治療も書類に残しているんだろ」


ライア様は、腕を組み思考を巡らせていた。

ライア様は何というか、オズワルド様に似ている。

タイプは違うが思考が似ているのか、まるで悪巧みを巡らせているように見えた。


「オズワルド様はどうしますか?」

「明日の午後にリンハルトの邸に行く。お前達は午前に行って話をつけろ。出来ないなら、俺が午後に話をつける」

「そうですか。では午前中に方を付けます」

「そうしろ」


そして、やっと部屋に二人で戻ると、きちんと暖炉には火が点されており部屋は温かった。

お茶もポットにちゃんとある。

さすがマリオン、気が利くわ。と思った。


「オズワルド様、高みの見物をするんじゃなかったのですか?」

「…少々セシルに同情した」

「セシルさんに?」


オズワルド様はこっちに来いと私を引き寄せ私はオズワルド様の広げた足の間に座った。


「セシルは虐げられていた。おそらくそこをリッチにつけ込まれたのだ。リッチは精神魔法を使う。トラウマを刺激され、セシルは気付かない内に生け贄に選ばれたのだ」


何と言っていいかわからない。

あまりにもセシルさんが不憫だった。

可哀想と言葉に出すことも躊躇してしまう。


「…きっとレオン様がセシルさんをお助けします」

「そうだと期待はしてる」


そう言いながらオズワルド様はもたれるように抱きついてきた。


「今日は疲れた。もう寝る」

「はい、お疲れ様でした」


オズワルド様は本当に疲れていたのだろう。

いつも私が先に眠るのに、今夜はあっという間に寝息を立てていた。

オズワルド様の顔を見ていると無事で良かったと思った。

地響きが起きた時は本当に心配したのだ。

あの時は非力な自分を恨みそうだった。


そして、オズワルド様の手を握りしめ私も眠りについた。






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