第120話 闇に溶ける 5

中に入るとヒースは柱の影からリッチを観察するように見ていた。


「何をしとるんだ?」

「…来たのか?」

「まあ一応」


ヒースが観察しているリッチを見ると、魔方陣に魔水晶を置き、何だか祈っているようだった。

リッチは弱っているのか動きが遅く、引きずるように魔方陣をゆっくり廻っている。


「あれは何の魔方陣に見える?」


ヒースが聞いてきた。


「生け贄…の魔方陣に似てるな」

「…だが、生け贄がないぞ」

「何もないな」


邪悪な魔法使いの成れの果てがリッチになったとも言われており、リッチの最終目的はデイモスリッチになることだと言われている。

生け贄を捧げ、力を得るつもりなのだろうか。


リッチをヒースと観察していると、急にコイコイというように手招きをしたり、腰が悪いのか腰をさすったり、しまいにはゲハゲハと笑い出した。

骸骨に腰の痛みがあるかはわからんが。


「オズ、あれはなんだ?急に笑い出したぞ」

「知らん」


リッチの気持ちなんか知らん。


「生け贄が欲しいのか?」


そう言いながらヒースは俺を見た。


「俺は生け贄にはならんぞ」

「…オズが大人しくするとは思わないが…闇の魔力を欲しがっているんじゃないのか?」


「…大人しく…?」


その言葉にヒースと同時にピンときた。


「「セシルだ!!」」


「あの顔の魔素はリッチがつけた生け贄の印だったんだ!」


何となくわかった。

セシルは魔水晶を取りに来た時にでもきっとここでリッチに会ったのだ。

そしてセシルは闇の魔力を持っていた。

生け贄に選ばれたんだ。


「ヒース、この廃墟は破壊するぞ!魔方陣も残さない方がいい」

「生け贄の魔方陣は禁忌だし、しょうがないな」


そして、魔法弓を構え放ち、光の矢をリッチに向かって射った。

ヒースはリッチが外に出ないように魔法弓の攻撃に合わすように一気に大地の壁をリッチの周りに展開した。

ヒースの出した壁に矢で射たれたリッチが磔のようになるが大人しくしてる訳がない。

リッチも闇魔法で攻撃してくる。

リッチの闇魔法は精神魔法もある。

過去のトラウマや想い出を幻覚のように見せるのだ。

リッチの魔法は受けたくない。絶対、あのリディアが倒れた時を見せられると思った。


「ヒース!下から突き上げろ!」


そして、俺は闇の触手を伸ばし反物のようになった闇に乗り廃墟の邸の天井を突き抜け上からの攻撃に回った。

闇の触手を一纏めにして大きな槍の型を造り、ヒースが突き上げた岩に体を貫かれたリッチが盛り上がるように廃墟の邸から飛び出るように出てきた。

そして、リッチを中心に闇で造り上げた槍を上から貫いた。

リッチは断末魔のように叫び、闇に溶けるように消えた。


廃墟の邸も破壊される威力だが、もう要らん。


そのまま、廃墟の中に戻らず、門の前にいる魔法騎士の前に闇に乗りフワリと降り立ち、すぐに浄化できる者は浄化を始めてくれと言った。


「アスノーム様は?」

「もう出てくる」


そう言うと、ヒースが崩れかけた廃墟の邸からマントを頭に掲げ、頭を保護するように走りながら出てきた。


ヒース、と声をかけようとした時、黒い闇の塊が勢いよく天に昇るように邸を貫き飛び出てきたと思った瞬間、ある方向に向いて飛んで行った。


凄く嫌な気配だ。

ヒースもその場にいた魔法騎士達もあの黒い闇の塊の先を見ていた。




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