第34話 侍女は膝かけを探す

リディア様にどうぞ、とリンクスさんに出して頂いた新品の膝掛けがない。

確かに、この椅子に掛けて下さっていたのに!

リンクスさんに聞こうにも、狩りの準備で上に行っている。

リディア様にもう少し待って下さい、とは言ったが早くしないと!


「アン!ここの膝掛けを知らない?」

「知らないわ、誰か知らない?」


周りを見ても誰も知らないようだか、私は見逃さなかった。


オズワルド様を夢見ていたメイド二人が顔を合わせクスッとしたのを!


「あなた達、膝掛けをどこにやったの?」


私は二人のメイドに、詰め寄った。

こっちは時間がないのよ!

つまらないお遊びに付き合っている暇はない!


「言いがかりね。平凡な主人と無能の侍女だから、膝掛けぐらい準備出来ないのよ」


リディア様を平凡だと!

その下品な笑いはリディア様を嘲笑しているの!?


「オズワルド様の目にも止まらない下品なメイドがリディア様を侮辱することは許されませんよ!」

「なんですってぇ!!」


メイドは怒りに任せて、私をひっぱたいた。

負けるものか!と私もひっぱたいてやった。


そこからは、大騒ぎだ。

ワーワーッとひっぱたき合い、メイド二人はリディア様を侮辱する。

許せなかった。


そして、騒ぎを止めたのは、リンクスさんだった。


私とメイド二人はリンクスさんの前に並んで立たされた。


「一体どうしてこうなったのか、きちっと説明してもらいましょう」


リンクスさんは怒っていた。

私より年下だが、リンクスさんは静かな声で言うも、迫力があった。


メイド二人は私が急にひっぱたいたと言い訳した。


「マリオンはどうですか?」

「リディア様を侮辱しました。許せません。それに膝掛けも隠されたと思われます」

「膝掛け?」

「まだ見つかりません」


リンクスさんは、その場にいたアンに、オズワルド様の膝掛けをとりあえず出し、狩り用の馬車で準備している下僕に渡すように指示した。


「膝掛けはどこですか?」


リンクスさんは、額に青筋が立っていた。

メイド二人は口を割らない。


「…先程ランドリーで仕事をしてましたね。そちらを探しますか」


リンクスさんが連行するように、メイド二人を連れ私もついて行った。


そして見つかった所は、使用済みの洗濯物の入った籠の中だった。


どうせ、私を困らせたらすぐに出すつもりだったのだろう。

あっさり見つかったから。

ひっぱたき合いがなければ、大騒ぎにもならなかったとも思った。

だからといって、リディア様を侮辱することは絶対に許しません!


「メイド二人は今すぐに荷物をまとめなさい。狩りが終わるまでに邸から出るように」


メイド二人は青ざめていた。


「そんなっ、…侍女は!?」

「リディア様は、オズワルド様の大事な方です。このブラッドフォード家に嫁ぐ大事な方ですよ。メイドが侮辱することは許されません」


リンクスさんの迫力にメイド二人は、立ち向かえなかった。


出て行く時に持って行く推薦状も、リンクスさんはこの事をしっかり書くと言われ、二人は、そんな推薦状を持って行けるはずもなく、推薦状無しでメイド二人は邸から去って行った。


「マリオンさん、暴力は止めて下さいね。そんな顔では、上の階に行けませんよ」

「すみません」


ひっぱたかれ、赤くなった頬を自分で押さえながら、謝った。


「こちらもメイドが失礼しました。リディア様は、これからも大事に致しますので」


リンクスさんや他の使用人はリディア様を軽んじてないことはわかってます。


こうして、下らない膝掛け事件は幕を閉じた。


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