第45話 真の敵は後ろにいる。

立ち尽くすトルファは肩で息をしている。


「はぁはぁ。手こずらさせてくれたな。異世界人め。なかなか手強い奴だったが、私の敵ではないってことだ。」


ポーションを飲んだと言ってもやはり死闘と言える戦いだ。

身体にはガタが来ているようだった。



しかし、この女は忘れていた、奴の存在を。

音を立たず背後に回り込む、奴の存在を。



俺はうずくまり開かない瞼を精一杯開いてそれを見ていた。


「刹那くんに何するのだよ!プシュポーン‼︎」

トルファの後ろからガッシリと腹部をホールドし、そのまま海老反り。

杏先輩のジャーマン・スープレックスである。


トルファは頭から地面に突き刺さる。

叫び声を上げることなく、地面と頭部が鈍い音を立てて衝突し、そのままノックアウトしたのだ。


………


…大丈夫?…刹那くん大丈夫なのだよ?」

どのくらい寝ていたのか、俺は気を失っていた。


トルファはツタでぐるぐる巻きに縛ってあったが、まだ気を失っているようだった。


「刹那くん!私たち勝ったのだよ!」

杏先輩は嬉しそうにそう言っていた。


「あ…うん。」

俺は正直喜べなかった。男として杏先輩を守れなかった。男としてこの女に負けたのだ。

悔しくないわけがない…


「我々の勝利なのだよ!例え、女の子との殴り合いに負けても!私たちの勝ちなのだよ!」


おい!そんなこと言うな!少し気にしてるんだから!


何であんな技を使えるんですか?って聞きたかったが、それよりも傷の手当てが先だ。

俺は足の怪我もしてるし、殴り合ったせいで顔も腫れあがっているし、全身痛い…


痛くなかった。と言うか怪我をしていなかった。


「杏先輩、怪我が治ってるんですが…」


「さっき、それが持ってた瓶を飲ませたら傷がみるみる塞がったのだよ!すごい薬をコイツが持ってよかったのだよ!」

そう言ってトルファを指差した。


初めてこの人と一緒に行動していいと思えた。

「あ…ありがとうござい…」


「毒か薬かわからないものだったけど治ってよかったのだよ」


前言撤回。やはり杏先輩だ。


「おい!それはどう言うことてすか?

なんの確証ないものを寝てる俺に飲ませたんですか?」


「違うのだよ!私が飲む前に飲んで大丈夫なものか確認したかったのだよ!刹那くんを毒殺しようとなんてしてないのだよ!」


それを一般的に毒味と言うのでは?

死ぬ可能性もあるのでは?


少し腹は立ったが先輩のおかげで身体は回復していた。痛いところもなければ、疲れなのども感じず、すこぶる調子が良かったのだ。


が、しかし制裁として、1発チョップを頭に喰らわすことにした。

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