第42話 私の名は…

「刹那くん!ものすごく暇なのだよ!」


ちょっと黙って欲しかった。


「いや。静かにしててくださいよ。

もうすぐ来るはずですから。」


杏先輩と俺は敵を草陰に隠れ、待ち伏せしている。

が、もう十分ほど経つのだが追手は来なかった。

おかしい。俺たちはそんな早く走ってないはずだ。杏先輩も居るし、俺は足を怪我している。


「もう諦めたのだよ。きっと。」

杏先輩の緊張の糸は既に切れていた。

しかし、ほんとにそんな気がする。

せっかくの反撃の機会なのに残念ながら追手は帰ってしまったようだ。


「俺たちにしては頑張ったな。志麻ちゃんが心配なんで引き返しますよ。」

俺達はそう言って草陰から出た。


「うぉぉ。」

声を上げたのは俺でもなければ、杏先輩でもない。

追手の女だった。


金髪の少女は俺をじっと見ている。

俺も咄嗟に戦闘態勢に入った。


「あっ……。

フっフっフフフっ。異世界の方々、こんにちは。脱兎のように逃げていたお前たちが何故こんな草むらから…。はっ。さては私の戦略的トラップ…」


高飛車に、そして高らかに笑う彼女は俺たちを小馬鹿にしたようにペラペラと話し出す。

が、突然現れた俺達に動揺は隠せていない。


「コイツ。『うぉぉぉ』って言ったのだよ。絶対に驚いてたのだよ。なのに戦略とか言ってるのだよ。」

杏先輩に俺は激しく同意をするが、あくまでも敵である。どんな奴かもわからないので注意は怠らない。


「杏先輩。下がってください。コイツも覚醒してるはずです。」


「さすが、異世界の侵略者。私が覚醒者と言うことも既に知っているのか。私の名はト…」


「いや。コイツ絶対三下なのだよ!驚いたことを隠せてないし、コイツきっと私より弱いなのだよ。あんなヤツ刹那くんがポカンと殴れば一発なのだよ!」

杏先輩は相手に聞こえるようにハッキリと話していた。


おかげで彼女の名前が聞き取れなかった。


「杏先輩。ハウスです。ハウス。ちょっと俺の後ろにいてください。」


俺、先輩を後ろに下げた。


「すいませーん。さっき名前のなんて言ってたか聞こえなかったのだよ。もう一回言ってくれない欲しいのだよ。」

聞こえなかったのはお前のせいだろ。


杏先輩は止まらない。

一度名乗った相手に、再度、名前を聞き直しやがった。絶対あの人怒ってるだろ。


「ん?…フフフ。そこまで馬鹿なら、もう一度名乗ってやろう。私の名はトルファ。そして能力はレ…」

「アイツっ。私のこと馬鹿って言ったのだよ!プシュポーン‼︎」


おい。やめろ。アンタが馬鹿だから馬鹿って言われたんだよ。

相手が能力言いかけてたのにアンタの声で掻き消されたぞ。


「先輩。馬鹿なんて言ってないですよ。異世界人が日本語話してるんだからきっと誤訳ですよ。」


「…………。フッ。知らないのかい?私たちの先祖の中には多くの異世界がいてね。この辺りは君たちの言う日本語は浸透していてね。我々が昔から君達の文学を学び、そして君達に復讐を…」


「あいつ。わざと馬鹿って言ったのを謝らないのだよ!プシュポーン‼︎ちょっとポカンしてくるのだよ!」


なんか訳ありみたいだったが、話を半分以上無視して杏先輩はトルファと名乗る女を殴りに行った。







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