第36話 [番外編1] やらねばならぬ時がある。

影を取り出したかのような漆黒の鎌はこれまで何人もの敵を瑛人と共に切り刻んできた。


「かっかっかっ。木場よ。貴様程度でこの武蔵が殺せるのか。」


刃を瑛人に向ける武蔵は高々に笑ってみせた。

武蔵が直線的に瑛人に近づき、切り込む。

瑛人は大きな鎌で防御するのがやっとだった。

直撃……鎌ごと肩から腹部にかけ、大鎌の持ち手ごと、刀で斬られた。



しかし大窯の持ち手で多少は防げたが、傷は浅くなかった。


瑛人は鎌を捨て、倒れ込み、そのまま敵を抱き抱えた。


「どおした?女を守ると言ったようだが。それでは守るというよりただの盾。いや。盾にもなっておらぬな。ただの身代わりか。ワシは男と抱き合う趣味はないんだ。不快だ。離してくれ。」


倒れ込んだ瑛人を鼻で笑い、しがみついて来た瑛人を払おうとする。


しかし、瑛人は離れない。

しがみつき、動かない。


武蔵は瑛人は瀕死と決めつけていたが、右に左に体を揺さぶり、刀を振りあげようにも瑛人が密着し、さらに手首を持っているため、振り上げることすらできない。


「えーい。鬱陶しい。離せ。貴様はワシに負けたのだ。さっきの女をワシによこせ。」


抱きついて来た瑛人は、頑として離れようとしない。


「おい…………。お前……。俺の話聞いてないだろ。志麻さんさえ守れればいいって言ったよな。はなから、お前の攻撃を躱そうとか、カウンター入れようとか思ってないんだよ。捕まえれば俺の勝ちなんだからな。」


そう言った時は武蔵の膝は既に影の中にする沈んでいた。


瑛人は敵に体をベッタリつけ、相手の腕を掴み、じわじわと影の中に入っていく。


「離さんか。貴様ワシの刀を持つでない。」

「離さねーよ。てめーを影に閉じ込めて俺は一人逃げさせてもらう。俺と一緒に影の沼に沈んでくれ。」


体が半分入ったところで敵を突き飛ばし、瑛人は影から出た。


「流石に抜けれないだろ。この影沼は俺の神供次第で底無し沼にも、お前の体にピッタリな形に変えることもできる。お前の影の中に沈め。サムライ野郎。」


「沼というには実に重いな。まるで熱のない溶けた鉄だ。腕が動かん。……しかし……ワシにも能力があると思わんかったのか。」


武蔵は笑みを浮かべ瑛人を見た。


突然、武蔵の体が爆発的にデカくなったのだ。

体は影の沼の容量より大きく、また相手の神供が瑛人のそれより大きかったため、影の沼は周辺の地面ごと爆発した。

そしてそこには、負傷した5mほどの巨大のオーガがいた。

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