第9話 大したことない奴に限って大したことある

気がついた時には、仰向けに寝て空を見上げていた。夜になっているのがわかった。焦げ臭い匂いと頭から流血、火傷と多分骨折もしてる。あー死にたい。というか死ぬなこれ。


「なーにやってるの?刹那きゅん。」

ゴリラがウホウホ言っている。


「ゴりさん。頭痛い。俺、死ヌかも。」


「まぁ、話せてるしそんな大した怪我じゃないだろ。意識もある。問題ないな。俺のいうこと聞かないからだぞ。教本読んでろって言ったろ?」


「ご…めンな…サい。」


口の中も切ってるのですごく話しづらい。たった一発しか食らっててないのに。もう戦いたくない。

怖い。怖い。怖い。


「怖い。痛イ。」


「あーわかった。わかった。今度からちゃんと俺のいうことは聞くか?」


「…聞ク。」


そう俺から言質をとってすぐにゴリラは、血のついた俺の頭に触れた。


「はい。終わりー。」


体が光に包まれ、暑いとか痒いとかゾクゾクするとかそんなのが一気に流れて、みるみるうちに身体が治っていくのがわかった。


「もう治ったろ?俺の能力だ。身体でもモノでも、最大24時間前の状態に戻すことができる。」


早く治せよ!部下が死にかけてんだぞ。このゴリラ!とぶっちゃけ思ったが、俺の心には安堵しかなかった。


「俺、生きてる。」


目から涙が溢れて止まらない。死ぬのも怖くないとも思って爆弾魔と戦ったが、生きててよかったと心から思った。


「今日はもう遅いから、こっちに泊まるぞ。まぁ明日は土曜だし学校も休みだろ?壊れた建物直すから手伝え。それと本格的に明日から修行やるから。このままじゃお前多分、即死するわ。」


そう言って宿屋へ俺を連れてってすくれたゴリラはジャバーニくらいカッコ良かった。


恐怖と安堵で傷は治っても頭はヘトヘトだ。

宿屋には着いては俺はひたすら寝るだけだった。



次の日朝、ゴリさんはいない。能力で怪我人を治療をしないといけないからだ。


あんな顔だが、能力は間違いなくS級に有能なのだ。

大したことないなと思ってた奴ができる奴だとなんかテンションが下がる。


もう一眠りしよう。

そういえば、修行してやるとか言ってたけど俺はどうすればいいんだろうか。

志麻ちゃんがきてくれるのだろうか。


コンコン。コンコン。


そんなことを思っていると志麻ちゃんだろうか。ドアをノックする音がした。


「はぁーい。」


俺がドアを開けると、そこには知らない大人が立っていた。

「こんにちは。大葉班長に頼まれて、修行をつけにきた木場瑛人といいま…」


一瞬、時間が止まったかのように見つめ合う俺たちは、以前にもこんな出会いがあったかのような気がした。


「貴様ー!ここであったが100年目!よくも志麻ちゃんの前で恥をかかせてくれたな!」


この前あった変態ストーカーだった。


「あー。誰かと思えば変態ストーカーさんじゃないですか。チェンジで。」


「誰が変態だ!俺は羞恥心が人の何十倍もあることで、好きな女子と話せない健全な男子だ。」


「健全な男子は好きな女子の家の前で、女子の友達に絡まねーよ。そもそもお前は俺に負けてるだろ。帰れ雑魚が。」


「俺だってな!お前みたいな奴の修行に付き合いたくはないわ。大輔さんがお前を鍛えることができたから志麻ちゃんとツーマンセルで任務につかせてやるって言ってくれたからな。こっちも渋々だ。」


「結局、目的は志麻ちゃんじゃねーか。」


「俺は好きな女のためには俺は死さえも怖くない。」


ストーカーの鏡ですね。

そんなゴミトークをして木場瑛人は俺を半強制的に町外れの広場に連れてこられた。


「てめーがなんで弱いか教えてやる。」


「何イキってんだ。お前は俺より弱いだろう。」


俺は一度勝てば、一生勝てると信じている。


「貴様!俺が油断をしたのをいいことに舐めたこと言ってくれるな。汚名を返上してやる。抜け!どちらかが戦闘不能になるだ。」


「雑魚ごときに本気を出すのは俺のプレースタイルではないが。面白いやってやる。刀とか持ってないので武器なしでお願いします。」


両者は構えた。

「話は聞いたぞ。昨日、爆弾魔に殺させかけたらしいな。実践スタイルでやるぞ。」


そう言って瑛人は地面から木刀を取り出した。

「何それ。かっこいいー。瑛人さんって刀とか使うの?」


「え?うん。使うよ。俺の能力で影に空間を作ることができる。それで影に武器とか収納することができるんだ。」


「えーかっこいい。ちょっと見せてー。」


俺が至近距離に近づこうとした瞬間に木刀でぶん殴られて吹っ飛んだ。


「貴様の能力はお見通しだ。また触れようとしたな。」


「ちっ。バレたか。」


それからは酷いものだった。


まず、俺の攻撃は当たらん。木刀とのリーチ差を縮める術を俺は知らないから全て手で受けていた。

多分だが指が骨折している。


だが爆弾魔ほどの恐怖はコイツからは感じない。


「どうした。もう終わりか。お前が俺に勝ったのなんてな。まぐれもまぐれ、大まぐれだ。」


武器を使ってる奴に何でこんなに言われないといけないんだ。


俺は顔面パンチを間合いに近づくことにした。


「素人だな。頭かち割れろ。」


そう言って瑛人は俺の頭に木刀を叩き込んだ。

だが、叩き込んだ木刀はバキバキに折れている。

俺は能力で木刀の強度を最弱まで下げていたからだ。


俺のパンチがようやく当たった。

これで終わりだ。あとは逃げるのみ。


「当てたぜ。瑛人くん。俺の下まで落ちてこい。雑魚が。」


瑛人はニヤッと笑い、俺との間合いを開けた。


「5分くらいだな。確か。お前の能力は。5秒で俺はお前を片付ける。」


「お前、またカンチョーやる気なのか。この変態ストーカーアナリストめ!」


「やめろ。アナリストとか言うな。ア○ルバーストはやらねーよ。

お前の時間稼ぎに付き合うことはないからすぐ終わらせるぞ。」


そう言って俺の影に瑛人は触れた。

まるで泥沼にハマったかのように俺の足は影に飲み込まれた。みるみるうちに首までの高さでまで埋もれ、俺は拘束された。

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