第6話 前向きって言う才能

志麻ちゃんのマンションの前には、黒い隊服を着た男が1人、立っていた。多分マトウの人だ。

そして俺の方をめちゃくちゃ睨みつけている。


「貴様ぁぁぁ。そこに直れぇぇぇ!」

やばいやばいやばい。変な奴に絡まれた。

俺は目を逸らし、透かさず、志麻ちゃんの後ろに隠れる。

どう見えても年上、圧倒的な先輩感。俺は奴に萎縮した。

一度後ろを振り返り、人を居ないこと確認して、志麻ちゃんの陰からじーっと彼を観察する。


「志麻ちゃん、誰あの人俺たちにめちゃくちゃ、ブチギレてるんだけど。」

「うーん。知らないわ。少なからず私の知り合いではないわ。」

彼女は澄ました顔でそう言った。


「俺の志麻さんからすぐ離れろぉぉぉ。」


おい。今、俺の志麻さんって言ったってことは志麻ちゃんの知り合いだろ。


「志麻ちゃんのこと知ってるみたいだぞ。俺のとか言ってたけど志麻ちゃんの彼氏とかじゃないよね」

「刹那くん。言っていいことと悪いことがあるのよ。あんな不審者が私の彼氏なわけないじゃない。そーいえば、組織の中に私に対して不幸の手紙を何枚も送って来たり、大輔さんに、”同じ班に入らせてくれないと俺は何をするか分からない”と脅して来たり、管轄外なのに私のマンションに入り込もうと失敗して、今に首を切られそうな男がいるって聞いたことがあるわ。」


それってつまりストーカーなんじゃないのか。

「お、お前名前すら知られてねーじゃねーか!」


「そんなわけあるか!俺は志麻さんとは10年来の親友。木場 瑛人だ!」

ここで自己紹介するの……。

ってか10年来ってめちゃくちゃ知り合いじゃん。



「貴様ぁぁぁ。あと5秒待ってやる。すぐに志麻さんから離れてこっちに来い。命までは取らないでやろう。」

こわい、こわい、こわい、志麻ちゃん助けてよ。


「あの不審者なら、あなたの能力使っていいわ。私も困ってたし、ちょっと倒して来てよ。」


だからその不審者はアンタの知り合いだろ。


「無理だよ。能力使ったら勝てるかもしれねぇーけど、こえーよ。無駄に声出す不審者なんて相手にできねーよ。無理無理無理。」


俺がびびっていると、志麻ちゃんは呆れたのか俺を横に引っ張り出して、不審者に突き出した。


「名前も知らないお兄さん、私の彼氏が相手になるそうよ。死ぬ気で戦いなさい。」


おいぃぃ。彼氏って俺のことか、俺のことなのか。

絶対、不審者さん、ブチギレるじゃん。


「名前も知らないお兄さんだとぉぉぉ。貴様ぁぁ。名前も名乗らず、志麻さんに付き纏っていたのか。この変態め!!!俺の彼女に何してくれてるんだぁぁ。」


この不審者もしかして、自分を彼氏だと思ったのか。そうだよね。さっき改めて名乗ってたもんね。けどお前の声は志麻ちゃんには届いてないんだよ。気づけ、バカ。変態。


俺が志麻ちゃんから少し離れた瞬間、奴はものすごいスピードで俺にラリアットをかけ吹っ飛ばす。

「志麻さん。大丈夫でしたか?俺の後ろに隠れてください。」

「刹那くん大丈夫?」

「大丈夫です。志麻さん。心配ありがと。」

お前は刹那くんじゃないだろ!

あだ名だと思ったのかこいつ。


「志麻さんとやけに仲がいいな。殺すぞ。」

こわい。色んな意味でこわい。お前の耳は飾りか。

覚醒者を知っていると言うことはコイツも本当にマトウの一員なのだろうか。


「お前能力を使えば俺に勝てるとか言っていたな。使ってみろよ。覚醒者。」

吹っ飛ばされてまだ立てない俺を、見下ろし激怒しているこの男喧嘩慣れしてるのはすぐにわかった。


「俺が勝ったら、志麻さんを生涯のパートナーにさせてもらう!!」





「うわー。ドン引くぅぅぅ。」


「えー。絶対やだなぁ。そこまで刹那くん信頼してないんだけど。」


俺の時間が止まった気が一瞬したが、先に膝をついたのは変態ストーカーだった。


「少し、くらったぜ。」

何を?何をくらったの?今まで結構なショックを受けることがあったけど、

出来れば今すぐに、砕けてほしいんだけど。


「志麻さんの意図を汲み取って、デートに……」

「いや。」

食い気味に志麻ちゃんは言った。

「なら…」

「いや。」

さらに食い気味に志麻ちゃんは言った。

「お前の命をもらう!(悲)」

俺も見てて悲しいわ。


「おい、少年。今お前は俺が拒絶され、心がヅダボロになっていると思っているだろう。」

うん。思ってるよ


「しかし、好きと嫌いは表裏一体。嫌よ嫌よも好きのうち、と言う言葉がある。」

やべー全然わかってない。


「行くぞ。」そう言って変態ストーカーは俺に殴りかかって来た。ガードをし、目を瞑ると視界から変態が消えた。


どこに行った?わからん。視界には居ない。

上にもいない。奴は覚醒者だ。どんな能力かわからない以上打つ手がない。


「奥義、アナルバースト。」

その一言で悪寒が走り全てを察したが、気づいた時には俺は地面にキスをしていた。ケツを抑えて……。


「クックック、ガハハハ。貴様に志麻さんの隣は100年早い。今日から俺が彼女の隣に鎮座する。はぁ。はぁ。」


「テメェ。命もらうって言ったじゃねぇか。カンチョーなんて舐めてんのか。」


「バカか。人の命などそんな簡単に取れるか。それにな取ろうと思えば、お前の命なんぞ5秒もあれば取れる。早く立て。はぁはぁ」


だが、しかしもう、俺の勝ちだった。

「はぁはぁ。言うんじなねーよ。この変態が、まだ変態ポイント加算させたいのか?」


次第に汗が滲み出る瑛人。


「はぁはぁ。何をした。毒でも盛ったのか…。」


「お前は汗だくだな。ラリアットされて5分程度経ったか?そろそろ足にくる頃だろう。毒なんて盛らねーよ。俺の能力だ。」


「な…に……?」


「俺の下まで落ちてこい。雑魚が。」

俺は一発、変態の顔面をぶん殴ってやった。


変態、木場瑛人はそのまま気絶した。


「さすがね。刹那くん。瑛人を倒すなんて。」

瑛人ってやっぱり知り合いだったのか。

「結局なんの能力だったかわからなかったけど、コイツ強いの?口だけ?」

「うん。別の班の人だけど弱くはないかな。頭はアレだけど、能力は時空間系だし、かなりレアな方よ。」

コイツすごい奴なのか。

能力の解除を行い、瑛人を道端に寄せて俺たちは本部に向かった。

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