第2話 人は怒ると誰しも怖い

あれ。いつ寝たっけ。明日は朝から英語のテストがあったな。明日赤点だと、土曜に補修があるから勉強しないとな。

「んー。あと5分したら本気出す。」


枕が違う。落ち着かない。気持ちが悪い。

「ちょっと。起きなさい。」

そう言って、俺のムニムニの頬に鞘を突き立てる美人さんがそこには居た。

更に、その後ろにはガタイいいゴリラのようなオッサンが居た。


見つめ合う俺と彼女、時間はまるで永遠かのようにすら感じる。あっ…これから恋が始まる俺は確信した。満面の笑みを浮かべ俺は彼女の鞘を手で払う。


「おはy..」

「あなた、私の手柄どうしてくれるの!」


俺の胸ぐらを掴み、殺意剥き出し、如く怒り心頭なのは美人なお姉さん。


「えっと…」


美人の女の子に胸ぐら掴まれて、俺は思った…いい匂いと。

彼女は続けて、抜刀し、刃先を俺に向け


「大輔さん。殺しましょう。この人、殺して核を摘出しましょう。」

無表情に淡々と怖いことを言われる。

女の子に刃物を向けられ、俺は思った…これがメンヘラか!



「まぁまぁ。落ち着きなよ。志麻ちゃん。」

「流石に一般人を殺すのはまずいでしょ。」


ゴリラのおっさんがウホウホ言い出した。


「こんにちは、赤塚刹那君。俺は魔獣討伐連盟、関東支部、チーム大葉、班長、大葉大輔といいます。こっちは俺の部下の真島志麻です。」


この大輔と名乗るこのゴリラは、俺に起こったことを説明してくれた。


俺が触った宝石は魔獣の核ということ…触れた核は俺の体内に入ったこと……体内に入ったら核は人間に魔獣の力を与えること…そして、バナナは美味しいこと。



「体はもう元気動きそうだな。戦闘訓練室で軽く体を動かそう。試してみたいだろ?自分の与えられた力って奴を。」



このおっさんはわかる奴だ。俺の与えられた力って奴を試してみたい。素直にそう思ってしました。

俺は寝ている間に夢を見た、鹿のような、山羊のような頭を待った魔獣になって生活する夢を…

夢の中では俺は何日が過ごし、群れの中で力の使い方を学んだ。


「あの夢は、魔獣に乗っての現実だったのか…」


俺はつい頭によぎった言葉が口から出る。




ジャージに着替えさせられ、俺は学校の体育館くらいの大きさの戦闘訓練室にいる。

準備体操、屈伸、軽いジョギング。

いつもより体が軽い。これも魔獣の力って奴なのか。


「赤塚くん。そろそろやろうか。」

ゴリラがウホウホ言い出した。


「いいんですか?本気を出して。」

まず何をやるかもしらないが今の俺にできないことはない。


「大輔さん、やるって何やらすんですか?」

「志麻ちゃん、もちろん実践組手だよ。」

ニヤっと彼女の口角がイヤらしく上がったのがわかった。ゴリラの隣いた彼女が突然俺の目の前に来た。


「構えてください。手加減はしますから。」

彼女は刀を外し、ゆっくりと床に置いた。

空気が重い。

男尊女卑をするつもりじゃないが、流石に俺にもプライドがある。


「志麻ちゃん、スポーツマンシップに乗っ取って握手。」


そう言って差し伸べた俺の手は、彼女の手の甲で軽く弾かれる。


額に汗をかき、精一杯の背伸びがこの言葉だった。

拳を構える彼女。グーでやる喧嘩なんて小学生ぶりだ。


俺の手を弾いた彼女は一瞬眉間にシワを寄せた。

「来ないからこちらから行きますよ。」

一瞬ニコッと笑い、彼女は人間とは思えない速度で俺との間合いを詰め、溝打ち一発。

その衝撃で体が一瞬、宙に浮き俺は膝をついた。


「おーい。大丈夫かー?」

ゴリラがウホウホ言っている。


声が出ない…体が動かないはずだった。

案外いけるか。いけるな。

「女に喧嘩で負けるわけにはいかないな。」

蹲ったまま、俺は彼女の脛を目掛けて足蹴りを一発。


しかし、ジャンプで避けられる。

体勢を整えて、両手を胸まで上げ、防御の構える。

その途端、上げた両手ごと蹴られ壁まで吹っ飛ぶ。

「弱いんだから本気で来なさい。使えるなら魔人の力使っていいから。」


新人相手に、調子乗ってるなコイツ。

「志麻ちゃん。やってやるよ。後悔しな。」

志麻ちゃんは、また眉間にシワを寄せた。

志麻ちゃんって呼ばれるのが嫌いなのか。


志麻ちゃんは再度、俺との間合いを詰めるが、彼女のパンチを紙一重で交わした。


今度はさっきまでとは違う。

志麻ちゃんもそれに気がついたのか直ぐに間合いを取り直した。


「突然いい動きになったわね。それがあなたの力なの?」

「後悔しないうちに、降参しな。俺は女性は殴りたくはない。」

俺は真剣に勝ったと思った。俺の能力は強い。


5分後、立場は逆転した。


彼女は膝を付き、俺に懇願した。

「アンタ、何をしたの!」

いいリアクションをするな。

ニヤっと俺の口角がイヤらしく上げた。

ニヤニヤ、ニヤニヤ。


夢で魔獣が使用していた能力は

触れたものの体力・攻撃力・防御力を下げるというものだった。

魔獣たちは敵に噛みつき、弱らせて狩をしたり、

邪魔な岩の強度を下げて破壊したりしていた。


彼女のパンチ、キックは5分もすれば子供のそれと同じくらいの強さになっていた。


彼女の連続コンボ全て俺の顔面に直撃、少し痛い。

今の彼女は立つこともやっとのように見える。


この子に会ってずっと思っていた。

美人で、強くて、なんか上の方から話して来るこの子、俺とはステータスもスペックも全然俺より高い。多分、周りからチヤホヤされるいい人生を歩んで来ているであろう。女じゃなければ、俺は3秒でぶん殴っていた。そんな思いを込めて言い放った。


「俺の下まで落ちて来い。この雑魚が!」


ハイスペック美女に罵倒、最高のシチュエーションだ。

俺の人生に一変の悔いなし。

そして俺の放った暴言に等しい決め台詞は、彼女をブチギレさせた。

「殺す。」

「ブファァぁ」

踏ん張りも効かない、立つことがやっとな彼女が正拳突きをした瞬間、俺は奇声を上げ、壁まで吹っ飛び、気を失った。

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