第39話 事の終わりに・・・
「・・・とりあえずそっちの事情を話せよ。もう話せるだろ?」
「分かりました。順を追って話をさせていただきます。」
死んだあと、俺たちの魂はシンちゃんの世界へと昇った。シンちゃんにお願いして、座敷部屋風の部屋を用意してもらいそこで話を聞くことにする。
俺はお茶なんかも出してもらいながら、ゆっくりくつろいでいる。なんだったらお茶を用意してもらったカワイイ天使らしき事務員と軽く冗談を交わすくらいに。明知のハゲはなんだか居心地悪そうだ。そりゃ殺した元上司が目の前にいりゃどうしていいか分からんよな。
色々と頭の中を整理しているのか、明知はゆっくりと語りだす。
「発端は殿が命じた穢土の調査でした。実地検分にて私が現地に赴くと、突然視界が闇に染まり、何かが私の身体を乗っ取ろうとしているのが分かりました。」
あー、やっぱりなー。。。今回の件、俺のスケジュールをある程度知っていて管理できる上位軍人に、直接現地視察を命令した俺の判断ミスだったな、と痛感するイオンだった。
「私も何日かの抵抗を試みましたが、私の中の暗い部分、闇の本性といいますか、そこがだんだん、だんだんと大きくなり。。。
殿さえいなければ、玉若様と同時にこの世から消すためには、その後の世の天下は、などと考えるようになり、また体力や身体能力が大きく増していき、自分で何でもできる様な全能感に包まれました。
私を乗っ取ったと思われる意思が私の中を充満していき、その意思の知識を共有する中、私はとんでもない事に巻き込まれているんだと理解しました。
かつて味わった事のない多幸感のなか、それでも、過去の記憶や経験が、何とかこの事態を収束させなければ、と意識の隅で抵抗をし続けておりましたが。。。
簡単ですがこれが、今回の件の顛末です。。。」
「・・・あー、すまん、悪かった。憑依の原因が分かってないまま、お前を現地に派遣して申し訳なかった。今回は俺の間違った指示でお前も死なせてしまったな。」
「え!?」
突然の謝罪、それも頭を垂れての深々とした謝罪であった。現世では決してあり得ない事態に固まる明知。そして続けざまにイオンは、そもそものこの憑依の件や、この世界全体の危機についての説明をしていく。
「・・・成程。。。分かり申した。。。殿は、、、いや、イオン様がどうしてこの世界に降りられたのか、今理解いたしました。
私を乗っ取っていた意識はそこまでの情報を与えられておらず、ただこの世に降臨した神の使いを殺すことだけ命じられていた様で。。。」
「ちなみにその意識とやらは、別の世界から派遣されてきた神らしくてな、今頃この世界の神であるシンちゃんに捕獲されて、それはそれはひどい拷問を受けているぞ。お前も見るか?3日は飯が喉を通らなくなるぞ。」
「結構でございます。。。イオン様、つきましては二つほどお願いがございます。」
「なんだ、言ってみろ。今回の件、神の政争に人間が巻き込まれた案件だ。しかもお前は俺の判断ミスで死んでしまった様なもんだからな。できる範囲での融通はさせてもらうよ。」
「では、まず一つ目、私の最後の声を妻や子供たちに伝えたいのです。この件の真実に迫る事が言えないのは重々承知しておりますが、愛している、の一言と、今後の身の振り方について、伝えたく。」
「分かった。それは夢枕に立つという方法で実施しよう。俺も家族と家臣に伝えなきゃいけないことがあるしな。お互い今回の件の辻褄はそこで合わせよう。」
「ありがとうございます。殿もご家族の夢枕に立つという事で、都合が良かったのですが、二つ目の願いは家族の安全について、です。
今回の件、私は謀反人として世間から認定され、有能な天下人を殺した悪人として後世まで語り継がれるでしょう。私だけなら良いのですが、その風評被害は私の親類、縁者まで影響します。せめて私の家族だけでも安全を確保できるよう、残った殿のご家族、部下たちに指示していただけないでしょうか?身を隠す、偽る、何でも結構です。今は無理でも今後幸せな人生が送れるように、と。」
お前は家族思いだなぁ・・・と声をかけるイオン、同時に、残してきた蝶や玉若ともう触れ合えない現実を認識した。
これまでの転生地獄と違い、今回は自身の成長や、家族の成長、そして何より、家族との幸せ、人と人とのつながりを実感できた人生だった。
蝶の艶のある長い黒髪。膝枕の時の優しいひとみ。柔らかい玉若の頬っぺた。夫婦二人でオムツを代えた事など、今思い出しても貴重な時間で幸せな体験だった。仮面衆の連中も良い奴らだったよなぁ・・・。
「・・・イオン様。。。」
突然黙り込み、頬に涙を伝わすイオンを心配して明知が声をかけてきた。
「あぁ、すまんすまん。わかった、二つ目も確かに承った。」
「・・・蝶様や玉若様、そして家臣の皆には大変申し訳なく思っております。。。」
涙の理由を察した明知、こういうところが出来が違うんだよなぁ、こいつは、と思いながら涙を袖で拭う。
「お前が気にするこっちゃねーよ。すまんな、気を使わせた。
分かったよ。後は俺とこの世界の神とで話をする。もう少し調べなきゃいけないことがあると思うから、暫くこの部屋で休んでいてくれ。家族の事は絶対何とかするから。信用できないかもしれないけど、任せといてくれ。」
「ありがとうございます。」
部屋の扉を閉めて、シンちゃんの所へ案内してもらう。今後の話をしなくちゃな。
おっちゃん、居る?と、執務室らしい部屋に入ると、そこには血まみれになったオッサンの魂が天井から吊り下げられ、真っ赤な怒りのオーラと湯気だった汗を発するシンちゃんの背中が見えた。手にはノコギリとペンチ、が握りしめられ、ムチや刃物、針などの拷問器具がそこらに散らばっている。
すぐさまバタンとドアを閉め、何も無かったかのように廊下を歩く。さて、蝶や玉若にはどう伝えようか?と思考を切り替えるイオンであった。
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