第28話 その後と、その後・・・
「来たな・・・」
シンドゥがそう呟くと、弱弱しく明滅している球体が下から浮き上がってきた。。。
シンドゥはそれを荒々しく鷲掴みし、球体の傍で囁く。
「・・・見ていたぞ。。。諸悪の根源め!!!」
「ヒっ、ヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「俺が冷静で居られる内に聞いておこう。俺の世界への侵入経路、お前の上役への報告方法、そして残りの仲間の所在、諸々全てを。。。なに、時間の事は気にするな。
たっぷりゆっくり二人の時間を楽しもうじゃないか。。。どんな悲鳴を聞かせてくれるか、楽しみだ。。。
そうだ、映像を記録しておこう。それを見ながら後で一緒に酒でも飲もうじゃないか。。。」
凶悪な殺気を放つシンドゥを目前に、気を失うルーラン。二人の宴がこれから始まろうとしていた。
あれから1か月、これだけ面倒な戦後処理になるとは想像もつかなかった。
まず一番面倒だったのが各地の寺の一斉クレームだ。やれ罰当たりだの、宗教弾圧だの、寺や僧を焼き討ちしたことに対する非難が来ているらしい。そもそも俺がやったという証拠は残っていないのだが、状況証拠からするに俺がやったと考えるのは妥当だし、実際そうだし。
クレームの直後、俺は直ぐさま焼け跡に大量の大工を投入した。同時に穏健な宗派の住職と僧侶を用意し、「山火事に巻き込まれた悲惨な事故」の復旧を世にアピールした。こういうのはスピード勝負、スマホやSNSが無いこの時代で、噂の拡散速度が緩いのは救いだ。各地の宗教団体の有力者の精神操作を行い、浄世日宗延歴寺焼討ち騒ぎの幕をひっそりと閉じさせた。
次は非難させた赤子を含む女子供、総勢2,000人。子供たちは意識を取り戻したものの、当時自分たちがどういう状況だったかを理解しており、全員が深刻なトラウマを抱えている様だ。また母親達も全員が衰弱しており、精神的にもかなりのダメージを受けている様だ。焼討ち事件のねつ造より、こちらの方が自体は深刻だった。隔離されている地域から夜な夜な大人の女の叫び声や子供の泣き声が聞こえてくるらしい。どうにかしてやらないと。。。
「さて、どうしたものか。。。2,000人も居るから空いている平野に村でも作って、のんびりとしてもらおうか。」
「御屋形様、それよりもまず、彼女達の心の手当てをしてあげないと、あの人たち自殺してしまいますよ。」
「子供達の心も手当てしてあげないと、あのままでは将来とんでもない快楽殺人鬼になってしまいます。」
「分かってる分かってる。。。人格が変わるかもしれないからあんまりやりたくねーんだけどな。。。サル、正吉、源三、精神操作で過去の記憶を改竄しよう。。。この人数は多少骨だが、やらなきゃダメな案件だな。」
その日から、朝から晩まで、順番に、記憶の定着が強い大人の女は俺が、子供はサル、正吉、源三が記憶の改竄を行った。と言っても、大幅な改竄ではなく、戦で家が無くなり、野党に襲われたとか、父親、母親が亡くなり子供たちが徒党を組んで仕方なく盗賊になって人を襲っていたとか、マイナーチェンジに留めた。頼った寺の僧たちに慰み者にされ続けたとか、爆弾を巻き付けて人間爆弾になって人を襲っていたとか、そういう記憶を残すわけにはいかん。俺達は隔離地域から精神操作を終えた者を次々と移していった。夜な夜な聞こえてきた泣き声はどんどんと小さくなり、聞こえなくなったのはそれから一月後だった。
「御屋形様、お疲れ様でした。」
「ふぃーー、終わった~~~~~~」
俺は最後の一人を終え、バタッとあお向けに倒れた。気力の消費はそこまで多くないが、彼女たちの記憶に触れるにあたり、彼女たちの怒りや恐怖、硏如達への憎悪に触れなければならない。ドス黒い何百人ものマイナスの感情に触れ、心に来た。。。知らずと頬に伝うものがあった。
クソがッ!!!それもこれもクロアとかいうクソのせいだ。面倒事に俺やシンちゃんどころか罪のない人間を巻き込みやがって!!!だんだんオヤジにも腹が立ってきたぞ。。。エライさんなんだからこんな状況になってるのは分かってただろうし、天界からの使いをドンドン送り込んだらイーじゃねーか!!!
クソオヤジの顔が思い浮かぶ!!気のせいか高笑いが聞こえてくる!!!吹き上がる怒りの神気、地面と建物が揺れ始め、異様な気配が周囲を充満していく。サルと仮面衆達が震え上がる。
「御屋形様、八つ当たりしないで下さい!!!」
見かねた蝶が俺を諌める。最近嫁(蝶)が俺の扱いを心得てきている。何を考えているかまでは分からないらしいが、どういう状態にあるのかは想像つくらしい。
「・・・あ~、すまんすまん。その通り、ただの八つ当たりだ。はぁ~。。。よし、仮面衆とサルは戻っていいぞ。蝶、晩酌だ、つまみも。その後は、膝枕。耳かきも。寝間着はどこだ、寝間着。
ほら、はようはよう。くつろぐ時間がどんどんなくなるではないか。」
ワガママ放題の俺を置いて、サルと仮面衆が帰っていく。
「ハイハイ。ほら、寝間着は何時もの様に布団の横にありますよ。晩酌とつまみは用意させてます。」
あークソっ、と言いながら着替えて、ドカッと座布団に座る。あーだこーだ、俺は色々と愚痴を言い、蝶はフンフンと聞き流し晩酌をする。ときどき自分もクイっと飲む。
晩酌を終えると今度は蝶を布団の上に座らせて、ドカッと膝の上に頭を乗せる。蝶はいつも良い匂いがする。
あーそこそこ、と言いながら耳かきの丁度良いポジションをねだる。ハイハイと返す蝶。
時々尻を触る。耳奥をガリっとやったり、フゥ―と耳穴に息をかけて反撃する蝶。
そんなこんなで二人で床に就き、今日一日が終わっていく。
その次の日、俺はシンちゃんことシンドゥと久々に会話することに決めた。
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