第25話 っていうか、


敵は天界に連なるものに違いない。このレベルの精神操作、感知能力は俺にある程度近い能力があるはずだ。


「・・・さて、皆も気づいての通りだ。敵は気の大きさではなく、存在の大きさの様なものを感知している。言い方は間違っているかもしれないが、魂の存在力の様なものが分かるんだろう。単純に気配を隠蔽するだけではダメだ。気の流れを自分の周囲に留めて置くだけでもダメだ。自分の存在を、魂の大きさを小動物くらいにしないと気付かれる。


気付かれたら最後、少年兵が火薬を積んで向かってくる。やれやれ。。。」


「御屋形様、その存在やら魂やらを小さくすることはできるんですか?」


「内在する気を小さく、極論、無にするという事は、水や石になるようなもんだからな。。。どれ、やってみるか。。。」



気の流れを掴み、循環を薄く、緩慢に、同時に周りに自分の存在を溶け込ませて自然と一体化。。。存在そのものが希薄になってくる感じ。。。気の全体量がグググっと低下していく、がこれはこれで慣れないとしんどいな。


「凄いです、御屋形様。そこに居るのに、全く気にならない。」


「・・・ウン、コツを掴んできたな。お前たちもやってみろ、薄く、ゆっくりと、細胞そのものの気の放出を押さえ、止まるギリギリくらいの速度でゆっくり循環させるんだ。最小限の生命活動だけを維持する感じだ。完全に止めてしまうとその生命活動自体に支障が出るから注意しろ。」


各々訓練をはじめ、5、6日が経ち、ようやく全員存在力を制御することができた。これにより、全員が小動物レベルまで存在の大きさを制御できるようになり、気の操作レベルも一段と上昇した。


「良し、これでもう一度仕掛けるぞ。月の光も多少出てきているが、仕方がない。これでダメなら、もう一度検証しよう。」


深夜同時刻、念には念の為、寺からかなり離れた場所から気配を遮断し、バラバラに5方向から、ゆっくりと進んでいく。前回と同じポイントまで進行しても兵が出てくる気配は無い。


予測は正しかった。敵は存在の大小を認知できるらしい。おそらく気配察知の能力を突き詰めていくと、こういう事ができるようになるのであろう。敵の能力は未知数だ。注意を怠れば、こちらが死ぬ。。。


そろそろ延歴寺です、と雷太の念話が飛ぶ。良し、潜入開始だ。。。




寺。。。。。。神に平和、平等、繁栄、そして愛などを祈る場所ではなかったか。個人の性欲を発散する場所では決してない。


(なんなんだ、ここは。。。)


少年兵は爆薬を体に巻き付け、微笑みを浮かべながら宙を仰ぎ見ている。

僧兵は酒をまき散らしながら、女人を弄ぶ。

限界まで磨り減らされ、事切れた女子供は焼かれ、埋められ。。。


・・・焼却し、祓って弔おう。。。


子供らよ。お前たちは俺が責任を持って面倒見る。安心しろ。俺か俺の仲間たちが一生をかけて本当の笑顔を取り戻してやる。


憐れな母親達よ。お前たちは自分で自分の運命を決めるが良い。もし正気に返り、死を望むならば、痛みも感ずる間もなく介錯してやる。それでも生きるというのであれば、場を与えてやる。


決意を胸に、硏如の元へと向かう。




男は仏像の前で正座し、読経をしていた。絶妙な強弱での読経、伸びた背筋、荘厳かつ厳正、厳格なる様は、奇しくもイオンが描く僧侶のそれであった。


「・・・硏如か?」

イオンは確信を持ちながら尋ねると同時にステータスを確認した。


・名前:研如

・年齢:38歳

・神力:289,051,284


9つに継がれた豪奢な袈裟を着込んだ僧侶が振り返り、に答える。

「・・・貴方様がシンドゥ・ラカン・マーヤの使者殿ですね。初めてお目にかかります。今世での名は硏如、真名はルーランと申します。」


「仮面衆、下がれ。俺が相手をしなければならない相手の様だ。。。」


研如の正体は自分と同じく天界に属する者であった。自分と同じレベルの神力に初めて会ったイオンは危険を感じ、仮面衆を下がらせた。


神力自体はイオンよりも低いが、神力を100%発揮できていない自分と、神力を100%運用できる可能性がある研如とを想像比較した結果の判断だった。


「承知しました。気を付けて下さいませ。。。」

仮面衆5人の気配がこの場から消える。


硏如の出した名前はシンちゃんおっちゃんの真名であり、硏如も天界からの転生者であることを意味する。成程、何故この世界の戦乱が多く、穢れが淀んでいるのか、分かってきた。


「どの神の手の者だ?」


「私がその質問に回答するとお考えでしょうか?」

慇懃無礼とは正しくこのことだな。言葉の端々に俺への侮辱を感じる。


「答えるバカであって欲しかったよ。」


その瞬間、全身の筋力、五感を活性化し、棒手裏剣を放つ。俺の本気の手裏剣は銃弾よりも速く、重い。頭、胴体、足、上、横、逃げ道を塞ぐ様に放たれた手裏剣は、壁と床を突き破り、地面に刺さっていく。硏如が座っていた場所には袈裟だけが脱ぎ置かれ、本人は上空へと回避していた。


速い。逃げ場のない空中へと手裏剣を放つも、独鈷で弾き返される。


天井を蹴り、壁を横に走る硏如は向きを変え、俺への接近戦を挑んできた。硏如から放たれる正拳、蹴り、手刀、かなりのレベル。仮面衆でも一撃で倒されるな。退避させといて正解だ。


暫く攻撃を受け、躱しながら相手のレベルを推し測っていく。


・・・速いが身体能力は未だ俺のレベルに到達していないな。。。良し。


そう判断した矢先、扉、壁、天井から少年兵が飛び込んできた!!!


自爆しようと、次々にまとわりつこうとする。スピードがまるで違うので、追いつけないと判断するや、俺の行く手を予測し、自爆していく。爆発を避けようとしたところを先回りし、爆発。。。爆発で俺を誘導し、追い詰める。。。


硏如の口角が上がる。少年兵10数名が俺を取り囲もうと動いていた。


「あなたの事はここ数年調査していました。シンドゥに連なる者であるという事は直ぐに分かりましたよ。でもこの寺は私が何百年もかけて作った神の砦、神兵が守る永久機関。何者にもこの聖地を汚す事能わず。


ほら、神兵が聖戦にその命を捧げていく様を見なさい。あと130年もすれば彼らは天使として称えられるでしょう。」


研如は恍惚とした表情で子供達に特攻指示を出す。子供たちは虚ろな笑顔のまま爆散する。


・・・そして、俺の怒りは頂点を迎える。

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