第12話 右側が騒がしい、そして痛い
吉豊師:12歳
降雪で空気の冷たさが喉奥を刺激するある日、俺はちよと二人で港町の外れに来ていた。正吉、源三は任務の報告書で忙しそうだ。
雷太は雪降りに喜び庭かけまくり、ねねはこたつで丸くなっている。一人暇を持て余していたちよがついてくると言うので、今日は二人行動だ。
着物の上から厚手の外套を羽織っているが、着物ってやつは足元が冷える。気の循環をさせ続けることで多少マシになるが、寒いものは寒い。
「雷太とねねは別にして、あいつら忙しそうだな。」
「そうね、勉強が進んで読み書きができるようになってから、お兄ちゃん他の人たちに仕事を頼まれる機会が増えちゃって。」
「出来るヤツに仕事は集中するもんだ。お前もちょっとは手伝えよ。」
「いいじゃん、御屋形様もこうやってカワイイ女子と二人で出かけられるんだから。」
「はぁ、顔がカワイイっつーのはそうかもしれないけど、もうちっとは大和撫子の気品やらおしとやかさが無いもんかね。」
「・・・しょうがないじゃん、物心つかないうちに兄妹二人で忍の里に放り込まれて、師匠も皆も優しかったけど、忍の技以外教えてくれなかったしさ。こんな腕も脚も太い、日焼けして、必殺技を持ってる女子なんて。。。もう今で既に貰い手が無いよ。。。」
「どうしても貰い手が見つからなかったら貰ってやるけど、ちょっとは「大和撫子」の勉強の素振りだけでもしとけ。」
「はぁ、そうね、勉強だけでも・・・ってえっぁ?今なんて言いましたかしら?」
「貰い手が無かったら貰ってやるっつったんだけど。」
「・・・・・」
耳まで真っ赤にしながら、何故かバシバシ右腕を叩いてくる。
なんだ、うれしかったのかよ?よっぽどこういう色恋沙汰をする機会が無かったのだろうな、かわいそうに。見ためもかわいらしいし、多少凶暴だが性格もかわいらしい。なによりまっすぐだ。嫁にするのには何の問題もない。
どんより雪曇り、冷気が顔をパシパシと刺激する。痛騒々しい右側を多少意識しながら、俺たちは目的地へと向かう。ちよはまだバシバシまだ叩いてくる。あれから結構時間がたってるのに一言も喋りやがらねー。そろそろ右腕が痛い。
しばらく歩いて、途中の茶屋で団子を食っている間、何をしているところなのか?と、ちよにさんざん聞かれたが、着いてからのお楽しみとだけ言っておいた。更にそこから歩く事30分ほどで、俺たちは目的地にたどり着いた。ツンと化学薬品の様な臭いがする大きな屋敷だ。
「俺だ、入るぞー。」
とだけ言って、門からずかずか中に入っていく。
「これは吉豊師様、こんなむさ苦しい所へようこそ、どうぞ座敷の方へ。。。」
背はそれ程高くないが、ガッチリとした体形と、ゴツゴツした手が印象的な男だ。親分肌で職人気質のこの男には、この国平定に向けていずれ大きな役割を担ってもらう。
「久しぶりだな、国友。満足できる鉄砲は作れたか?」
国友は若い時分に酒井という町で修行を積ませた鉄砲鍛冶だ。俺は火薬や鉄砲がこの後何十世紀も戦争のKeyになることを知っている。この時代、既に鉄砲はこの国に伝わっていたが、実用化はされていなかった。平定加速化の為、鉄砲の技術と開発を独占し、実用してアピールし、雄田家には逆らえない、というまで刷り込まなければならない。その為、俺は数年前から私財を使い、国友を酒井に修行に遣った。
「はい、吉豊師様の助言が大変有用で、、、おかげさまで最近では100間(200m弱)ぐらいは安定して狙いを定める事ができ、戦鎧であれば貫通する鉄砲ができそうです。」
「そうか、御苦労。量産にはもう少しかかると思うが、あと数年後には500丁単位で発注するからな。資材や職人を今のうちに集めておけよ。これはこの半年の活動費だ、また来る。期待してるぞ。」
ドスンとした音が、麻袋に詰めた金の重さを伝える。
「ありがとうございます。ご期待に添える様精進致します。こちらはつい最近完成しました試作品でございます。以前の物より威力が格段に上がっております。火薬の配置位置と、弾丸の形状を改善致しました。お納め下さい。それでは、作業の方に戻ります故。。。」
国友は簡素ながらもしっかりと心のこもった挨拶をし、作業に戻っていく。
「さぁ、帰るか。」
「えっ、何?これで終わり?鉄砲鍛冶に会って、お金渡して、鉄砲の試作品受け取って終わり?こんだけ?」
「国友はもともと職人気質だしな。あと世間話なんぞで作業の邪魔をして、鉄砲の技術研鑽が滞ってはいかん。」
今後雄田軍の戦術の要となる鉄砲技術を国友という人材に託し、鉄砲の試し射ちを楽しみにしながら、帰るのであった。
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