第7話 少年少女5人、いや6人か

それから約3時間後、一部の家臣しか知らない俺の隠れ家にて。


「オイ、起きろ。」

お面を外しながら、頬をぱちぱちと叩き、全員の目を覚ます。


「・・・(ここは)」

「逃げようとしたり暴れられたりされるとめんどいからな。あとお前ら忍らしいから、念の為それな。」

手足を縛り、自害防止の為に荒縄をかませ、お面はそれぞれの前に置かれている。


「一応伝えておくが、ここは俺の隠れ家の様なところだ。周りに人はいない。


・・・と言う事で、自害しないならその荒縄を外してやるが、どうだ?」


翁面を被っていたヤツがうなずく。


「良し、明かりをつけるぞ。」

蝋燭に火がともり、5人の顔がはっきり照らされていく。


「・・・やっぱりなー。よくよく見るとお前らスゲーガキじゃねーか。」

声、力、体形、攻撃した時の感触などでそうではないかと思っていた。


「・・・お前も大して変わらんだろう。。。ガキにガキ呼ばわりされたくない。」

翁が言う。細面の釣り目の少年。年のころは12、13くらいか。


「・・・殺すんだったらさっさと殺しなさいよ!!!」

こちらも釣り目。般若も同じような顔で、こちらは少女だ。二人はアイコンタクトをしながら何かサインを送り合っている。


獅子面は細目、細面。童子面は丸目、丸顔の少年、鬼面は俺より年下くらいのたれ目の少女だ。皆口を閉じている。


「で、お前ら何処の者だ?」


「言うと思うのか?」


「ハァ~・・・生殺与奪がどちらにあるのか分からない訳でもあるまい。サッサと喋った方がお互い時間の節約になる。あと、嘘をついたと分かった時点で面白いことが起きるから、とりあえず語ってみろよ。」

そういいながら俺は気を頭頂部から放出し、それぞれに意識を繋いでいく。


「・・・俺たちは北の国から。。。戦で国が潰れ、里がなくなり、皆散り散りになった。残ったのは俺達だけだった。」

(ふむ。。。)


「5人だけで生きていくには金が要る。身元不明の子供が5人だけで生活するなんて周りからすりゃ怪しいだけだ。でも俺たちは殺しの術以外何も知らない。金を稼ぐための術も、ニコニコ周りと溶け込む術も知らない。知っているのは生きていくには金が必要だということ。金のある所から金を奪って何が悪い。。。」

(ふむ、ここまでに嘘は無いな。世の中に怒りの感情を持っているようだ。)


「親、兄弟は?」

「いない」

(翁と般若の心が揺らいだ。)


「嘘だな」


その瞬間、

「アァアァ、あァアァあァアァ、アぁアアアアああアアーーーー」

般若の顔が紅潮し、汗ばみ、身体をクネクネ、モジモジと捩じらせる。股からは失禁の跡が染み出ている。


「その女のある感情と神経を触っている。あと1分もすれば快楽の内に悶え死ぬぞ。それはそれで幸せかもしれんがな。」


「!!!俺とそいつは兄妹だ。そっちの三人は血がつながってない。皆親はいない。」

その瞬間、ガクンっと般若の顎が落ち、再び失神した。


「つまんねー嘘つくなよ。俺に嘘は通じねー。とりあえず話せるだけ話せ。後の事は俺が決める。」


「・・・わかった。」


意識操作の修行で得た力だ。相手の心、感情に同調し、嘘を見抜き、ある程度考えていることを同調させ、こちらから脳内神経伝達物質をコントロールもできるようになった。


俺は水桶を持って来て、般若に上からぶっかける。バチバチと頬をひっぱたくと目を覚ました。キッと睨まれる。


「すまねーな、でも兄ちゃんが嘘つくからだぞ。まぁ誰ともわからねー正体不明のガキに自分の肉親さらしたくねーのは分かるがな。


で、里を出てから何人殺した?」


「国の追手、山賊、俺たちを騙して奴隷にしようとした大人を十数人ほど。」


「フム、・・・でお前たち、これからどうしていくつもりだった?」

「・・・・・・・・・」


「足を洗ってまともな職につくのか?」

「・・・・・・・・・」


「このまま盗賊を続けて、いつか捕まって死罪になりたいか?どうせ死罪になるならこのまま俺が引導わたしてやろうか?ん?」


「・・・・・・・・・」


「だんまりじゃわかんねーよ。誰か何か答えろよ。」


「・・・しょうがないじゃないか。さっきも言ったけど身寄りのない俺達がそっと暮らしていける場所もないし、まともに暮らしていく知恵も知識もない。


あるのは忍びの業だけ。それを活かすのはこういう事しか思い浮かばない。生きるために自分の技術を活かして何が悪い!!!」


その瞬間、翁の左頬から乾いた音がした。びっくりした顔で俺を直視する翁。正視する俺。


「この5人は小さい頃からの仲間だよな?お前よりかなり年下のガキもいるが、そいつにこんな汚れ仕事させてどうすんだ?汚れ仕事しかねーのは仕方ないかもしれない。けど、もし俺がとんでもない鬼畜だったらお前らとっくに死んでるか、奴隷商に売られてるな。


お前の妹なんて、中身はともかく外見はこんなだ。どうなるか容易に想像つくだろ?


お前の考え無しな判断がコイツ等全員を危険にさらして、結果、こうやって危機的な状況にあるんだよ!!!自分の判断が仲間の命を危険に曝してるのがわからねーのか!!!


どーなんだ、まただんまりか!!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かってる。バカな事してるって俺にだって分かってるさ。俺たちだって真っ当な職について、真っ当な金で飯食っていきたい!!でも国の追手がどこまで俺たちを追っているか分からない。5人そろって定住できる安寧の場所なんてないじゃないか。


なぁ、お願いだ。俺の首一つで済むんだったらそうしてくれ。コイツ等は見逃してやってくれよ。俺が指示してやらせた事だ。


頼むよ。コイツ等だけでも助けて下さい。お願いです。お願いします。。。」


妹の少女が唾を飛ばしながら大声で叫び始める。

「ちょっと待ちなよ!何独りで責任取ろうとしてんのよ!!!私たちも納得してやってたんだし、同罪よ!!!」


細目の少年が小さいながらもハッキリとした声で喋りだした。

「正吉。お前が死んでどうにかなる状況じゃない。自分一人死んだら何とかなると思うのはお前のいつもの悪い癖だ。すまない、責任は年長の俺たち二人が取る。小さい三人は見逃してくれないか?」


丸顔の少年が続けざまに、

「ま~たそうやって源三兄ちゃんは格好つける。5人同罪でしょ?おとなしくお縄について役所の判断待とうよ。死刑は回避してもらえるように情状酌量を訴えようよ。」


たれ目の少女はというと、

「正吉兄ちゃんも源三兄ちゃんもいなくなるのはヤダ。このお兄ちゃんにゴメンナサイして、今回は見逃してもらえないかな?」


5人がギャースカ騒ぎ始めた。意識を通して仲間思いの純粋な気持ちが伝わってくる。


コイツ等の意識に触れるのは心地良いな。決めた!


「分かった。」

風切音がしたその直後、5人を縛っていた縄が切れた。


「えっ?」


「お前ら、仲が良いのは分かったけど、腹減ってねーか?飯食いながらこれからの事話そうぜ。」


驚き、一歩も動けない5人。俺は囲炉裏に鍋をセットし、肉やら野菜やら味噌やらを用意する。


「翁、囲炉裏の準備。火つけて。そこの野菜と豆腐切って鍋に入れとけ。」

「は、ハイ!!」


「般若と鬼、こっちに来て飯炊きを手伝え。裏に井戸があるから水汲んで来い。」

「はい!はい!?」


「獅子と童子は風呂を沸かせ。薪は裏にあるから、早くしろ。」

「はい!?」


心根は歪んでない。まっすぐ正直だ。ただ、環境が悪く道を外しそうになっていただけ。コイツ等は俺が預かると心に決め、飯の準備をしていく。

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