第6話 ログ 1-6

 黄門の印籠か、はたまた不動明王か。

 眼前に身分証を掲げ持ち、見よがし突き付け姿勢に無言で待つ事しばし。

 私の顔とを二度三度往復した視線が定まり、可憐な口許が小さく、疑問形に動く。

「……警察?」

 だいたいあってる、今はそれで十分。

「貴方を保護に来ました、魔法取得者、天森 創あまもり はじめさん」

「さくらい、しゅういち、さん? 」

「巡査部長です」

 軽く敬礼。

 もちろん、実際には、に、準じる待遇。

 警察学校入学してーの交番勤務実績つみーの、何年掛かる? 。

 で、その間どうする、誰がやる。

 今日本で、綾香様を例外に私以外適合者が存在しないこの職務を、だ。

 で、公職派遣登録即採用、という経路で就業、現場に出された。

 嘱託大学生誕生の件はとりま以上。

 

 チュートリアルようやく終了、さて。


「こまるなあ、お兄さん」

 少し高い位置。

 廃材の山から痩身中背の影が、呼びもせず、向こうから姿を現わした。

「これでも手間掛けて呼び出したんだ、獲物の横殴りはマナー違反だよ? 」

 精一杯の虚勢か、それとも素か。

 声も姿も、若い。

 しかし内容に比して発せられたその響きは平板で、かつ冷ややかだ。

 昨日今日ではない経験値も感じさせる。

 悪い感じに先手を打たれた。

 くどいが、まず交渉。

 悪しく決裂したら、の手順は変わらない。


 いや。

 いうほど悪くはない。


 間合いを謀る視界の隅にその変化を感じていた。


 女神、降臨。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る