最強の悪徳プロデューサーに俺はなる!~だからスキャンダルは勘弁な!刺されるから。え、なんでアイドル皆寄ってくるの~

くろねこどらごん

第1話

「レッツ!プロデュゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッスッッッッ!!!!!」




 四月某日。まだ桜の咲き誇る街中に魂の叫びが木霊する。




 おっと、自己紹介が遅れたな。


 俺の名前は高内修司たかうちしゅうじ。今年の春から芸能事務所に入社する、ピッカピカのプロデューサー一年生だ。




 夢はでっかく芸能界を牛耳る名プロデューサー!ただし悪とつくがな!


 魑魅魍魎が蔓延る芸能界で、アイドルを輝かせたいなんて甘いことは言ってられねぇんだよ!それで私腹が肥やせるか!




 これから数多くのアイドルを使い潰し食い物にしてのしあがり、甘い汁を吸いまくってやるぜぇぇぇぇっっっっ!!!




「頼もぅっ!」




 大いなる野望を胸に抱きながら、俺は事務所の扉を勢いよく開け放った。




「研修を終え、本日より配属となりました、高内修司です!馬車馬のようにバシバシ働いていきますので、これからよろしくお願いいたします!」




「お、おう…よろしく…今年の新人はえらく勢いがいいな…」




 同時に頭を下げ、社会人の基本である挨拶をこなすのだが、俺を迎えたのは机に座る年配の社長ひとりだった。




「他の方はいらっしゃらないのですか?」




「今は担当アイドルのレッスン見に行ってるんだよ。そもそもうちは零細だから人数も限られてるしな…それと入社早々悪い話になるんだが、君に担当してもらうはずだった候補生の子が都合が悪くなって辞退してしまったんだよ」




 何だって!?マジかよ!?




「それって、俺には今担当するアイドルがいないってことですか!?」




「本当にすまない。こちらの落ち度だ。悪いけど、高内くんも担当ができるまでは先輩の補佐をして仕事を…」




 おいおい、そんなの冗談じゃないぞ!?


 俺はスターダムを駆け上がる男だ。初っぱなから躓くなんて縁起が悪いこと、あってたまるかよ!




「担当アイドルがいないなら、自分でスカウトしてくればいいんですよね!?」




「え、いや、それはまぁそうだが…」




 よっしゃ、言質頂きぃっ!




「わっかりました!では街にスカウト行ってきまーす!!!」




「あ、おい君ぃっ!」




 そのままバビュンと反転し、俺は再び事務所の扉を開けて駆け出していく。


 5分くらいの出勤になっちまったがこれも業務のうちだ!結果を出せば問題ない!




「待ってろよ、俺の金蔓ぅぅぅぅぅっっ!!!」




 俺は勢いそのままに、まだ見ぬアイドルの試金石を求め、街へと繰り出すのだった。




「あ、嵐のような男だったな…」




 唖然とする社長を置き去りにして。












「さーて、やっぱスカウトするなら渋谷かな?それとも原宿のほうがいいじゃろか」




 それから時を置かずして、俺は駅のホームに立っていた。


 理由は明白。スカウトのための遠征だ。


 俺の初プロデュースに相応しい子とのエンカウント率を少しでも上げたいからな。


 俺は手間暇を惜しまない男なのだ。




「まぁどちらに行くかは電車に乗りながらでも考え…」




 もうすぐ電車が到着する、その時のことだった。


 俺の隣を横切るように通りすぎるひとりの陰。


 長い黒髪から溢れた甘い匂いが、俺の鼻をくすぐった。




「って、ちょ、あぶなっ!」




 だけど我に返るのは一瞬だった。


 なんせ俺が立っていたのはホームに引かれた乗車位置の最前列だ。


 その先には段差があり、鉄の線路が引かれている。




「おっ、とぉっ!」




「え、きゃっ!!」




 咄嗟に女の子の手をひっつかむと強引にこちら側へと引き戻す。


 それと同時に電車がホームへと滑り込んでくる。


 間一髪セーフであったようだった。




「あ、あぶねー…ギリギリセーフ…」




「なにするんですか…」




 ホッとしていると、腕の中でなにかが震えた。


 視線を落とすと、そこには先ほど助けたばかりの女の子の姿が。


 どうやら無意識のうちに抱き締めてしまったらしい。




「あ、わ、わり!つい咄嗟に…」




「なんで死なせてくれなかったんですか…!」




 すぐに手を離すも、相変わらずその子は震えていた。


 顔はうつむいていて見えないが、改めて見るとスタイルのいい子だ。


 背筋はしゃんとしているし、髪もしっかり手入れをしているのか、綺麗な光沢を放っている。見える範囲では少なくとも、肌も白くて染みひとつない。




 職業柄か、こんな時だというのに俺は目の前の少女に見入っていた。


 彼女の背後で流れるように発車する電車にも、気付かないほどに。




「死ぬって、なんで…」




「私は、もう生きていたくないんです…だから楽になりたかったのに、それを貴方が…!」




 そう言うと彼女は顔を上げ、キッと俺をにらみつける。




「………!」




 そして俺は今度こそ言葉を失うことになる。




 目の前の女の子の顔が、あまりにも美しかったからだ。




「もう嫌だ…なんで上手くいかないの…」




 固まる俺をよそに、彼女は両手で顔を覆い隠し、さめざめと泣きだした。




「あ、君…」




「うっ、ううう…」




 う、うーん。これはどうしたものだろう。


 困り果てて周りを見渡すのだが、ただでさえ人気の少なかったホームは列車が過ぎ去っていったことで、もはや人っ子ひとり見当たらない。




(こりゃ自分でどうにかするしかなさそうだな…)




 とはいえ、これはある意味チャンスかもしれない。


 俺はこの時既に心に決めたことがあったのだ。なるべく優しく彼女の肩に触れると、ビクリと体を震わせ、少女は再び俺を見上げた。




「なぁ、ここじゃなんだから、場所を変えないか?君と少し話がしたいんだよ」




 俺の言葉に少し戸惑いを見せながら、彼女は小さく頷いた。












「――――なるほど、千葉さんは、学校でいじめられていたんだね」




 場所は変わって駅から少し離れたとある公園。


 そこのベンチに並んで座り、俺は静かに彼女―千葉静ちばしずかの話を聞いていた。




「はい…それでもうなにもかも嫌になって、今日電車に飛び込もうと思ったんです。でも私どんくさいから、結局高内さんに止められちゃいました」




 自嘲するように千葉さんは呟く。


 その横顔は憂いに満ちているが、それも彼女の魅力のひとつに思えてしまうのは、俺が既に魅了されているからだろうか。




「俺は止められてよかったと思ってるけどね。目の前で死なれちゃ、さすがに後味悪すぎる」




「……すみません」




「いいって。結果的に助けられたわけだしね。なにより、君みたいな可愛い女の子とこうして話すことができるなんて、言っちゃ悪いけどついてるとすら思ってる。千葉さんのことを救うことができて、本当に良かったよ」




 我ながら、ちょっとキザな言い回しになってしまった。


 印象を良くしたいがためだったが、さすがに少し恥ずかしい。




「そんな…私なんて…」




 幸いなのは、千葉さんの反応からして手応えがあったことだろう。


 内心胸をなで下ろしながら、俺は本題に入ることにした。




「なぁ、死ぬつもりだったというのなら、俺に君の命を預けてくれないか」




「え…」




「ああ、いや、ただの例えだよ。本当に命を賭けて欲しいってわけじゃない。だけど、千葉さんが良ければ、俺と一緒にアイドルを目指してくれないか?俺は君を、本当の意味でも救ってあげたい」




 財布から名刺を取り出すと、千葉さんに手渡した。


 彼女は俺の言葉に半ば呆然としていたため、強引に握らせる形となったが、やがて名刺と俺の顔を、何度も交互に見比べ始める。




「え、アイドルって、私が…?」




「ああ、直感したよ。君ならきっと、トップアイドルになれるって。俺は君をプロデュースしたいんだ」




 俺は逆に千葉さんの顔を真っ直ぐに見つめ、己が気持ちを伝える。


 なんの実績もない俺にはこうして誠意を見せることしか今はできない。




「でも、私なんかが、アイドルなんて…」




「いいや。大丈夫だ。君ならできる。俺が君を変えてやる」




 弱気な姿勢を崩さない千葉さんに、俺は強い言葉をかけ続けた。


 言葉には力がある。何度も何度も言い聞かせることで、それが本心からの言葉であると、君を信じているのだと、心に響かせることができるのだ。




 俺の言葉に彼女は大きく目を見開き、やがて視線を彷徨わせたが、最後に小さく「少し考えさせてください」と言葉を残し、公演をひとり出ていった。




「ふぅ…」




 俺は取り残されたベンチで、ひとり息を吐く。


 あの様子だと、可能性は五分五分といったところだろうか。


 出来れば来て欲しい。俺はどうしても、彼女をプロデュースしたくなってしまったのだから。


















 なんせ金になりそうだからなぁっ!!


 あの美貌!あのスタイル!さらにあの儚い雰囲気があれば、男なんてイチコロよぉっ!!




 絶対稼げる。あの子は間違いなく売れる。


 その確信があったから、慣れないシリアスな雰囲気でここまで会話をしてきたのだ。




「ふひひ。早く連絡こないかなー♪」




 そうすりゃ俺はあっという間に一流プロデューサーの仲間入りよ!


 これぞ棚ぼただ。向こうからカモがネギしょってやってきた!!




「ククク……ハーハッハッハッ!!!」




 俺は勝利の笑みを大いに浮かべ、盛大に高笑いを解き放つ。






「ママー、あの人頭おかしいよー」




「シッ!見ちゃいけません!」




「…………」




……お、俺は悪のプロデューサー!周りの目なんて気にしないぞ!……ぐすん。






 なんやかんやあったが、彼女から連絡があったのは、それからすぐのことだった。














「―――さて、それでは今話題のアイドル、千葉静さんの登場です!」




 彼女の名前が呼ばれた途端、大歓声が響き渡る。


 今日はとある音楽番組の生収録があり、俺は舞台裏で静の出番を先ほどまで、今か今かと待っていたところだった。




「まさかこうもトントン拍子に進むとはなぁ…」




 静がアイドルとなり、俺は彼女の担当プロデューサーになってからは、まさにあっという間の日々だった。


 俺の見込み通り、静にはアイドルの才能があったのだ。


 いや、予想以上と言ってもいい。デビューから一年も経たないうちに今を時めくトップアイドルのひとりとなっているのだから、本当に大したものだろう。




 ワー!ワー!




「うん、緊張もしていないみたいだな」




 今では自分に自信のなかったあの頃の面影など微塵もない。


 ファンに笑顔で手を振る余裕すらある。




(ククク…この調子なら間違いなく俺は出世間違いなし!トッププロデューサーとして静を出汁に、業界の甘い汁を吸いまくってやるぜぇぇぇぇぇっっっ!!!)






 ………………




 …………




 ……








「プロデューサー。私は、貴方のことが好きです」




 どうしてこうなった




 ライブが終わった直後、事務所に帰ろうと運転する車内で、俺は静に告白されていた。




「好きです」




「え、いや」




「好きです」




 押しが強い。めちゃくちゃ強い。


 運転中ということもあって、この圧力から逃げられそうにない。


 気が付けば、俺は追い詰められていた。




「お、俺はプロデューサーだぞ!アイドルと付き合えるはずがないじゃないか!」




「それならアイドルは引退します。私は貴方のためにアイドルになったんです。あの時、命を預けて欲しいと言いましたよね?あの瞬間から、私は貴方のものになったんです」




 お、重い!重すぎる!




 そこまでの意味を込めたつもりなんて、全くなかったんですが!!!




「なら、俺にも頼みがある。お願いだ。まだアイドルを続けてくれ」




「……それは、私と付き合ってはくれないということですか」




 う、やめろよ。そんな泣きそうな顔をするのは!


 悪徳プロデューサーの良心が痛むじゃないか!




「そうだ。さっきもいったが、俺はプロデューサーだ。俺は輝いている君の姿が見たくて、静をアイドルの道に誘ったんだよ」




 と、とりあえずそれっぽいことを言って誤魔化そう。


 大丈夫、俺は稀代の天才プロデューサー。口先はいくらでも回らぁな!




「プロデューサー…」




「わかってくれ。俺はまだ、静にアイドルとして輝いていて欲しいんだ」




 そう告げると、静は顔を伏せながら小さくコクリと頷いた。




(ふぃー、セーフ!!)




 内心冷や汗かきまくりだったが、どうやら上手くいったらしい。


 なんとかなってなによりである。




(しかし、これはなぁ…)




 俺がなりたいのは芸能界を牛耳る名プロデューサーだ。


 担当アイドルと付き合うなどと、許されるわけがない。


 しかも相手は未成年ときたら、逮捕待ったなしじゃないか。


 いくら悪のカリスマを目指す俺でも警察は怖い。ていうか、職を失ったら人生詰む。




 いや、それ以外でも静はトップアイドルで、今や多数のファンを抱える身だ。なかには狂信的なファンもいることだろう。




 バレたら刺される。間違いなく刺される。




 夢半ばにしてデッドエンドとか、絶対嫌だ!




(ここいらが潮時なのかもしれないな…)




 俺は強くアクセルを踏み込むと、事務所までの道を急ぐのだった。
















「おお!君があのトップアイドル、千葉静を育て上げたプロデューサーか!うちでの働きを大いに期待しているよ!」




 それから数週間後。俺は違う事務所の門を叩いていた。




「はい!任せてください!」




 そう言って、俺は大きく胸を張る。


 ん?なんでここにいるかって?それはもちろん移籍したからだよん。




 そもそもあそこは零細事務所。芸能界のトップを走る俺には相応しくない場所だったからな。


 キャリアを積んでステップアップしたってわけよ。社会人として当然のことをしたまでだ。




 決してめんどくさくなって静を置いて事務所を出たわけじゃないぞ!ほんとだからな!




「さて、それでは君にはあるアイドルを担当してもらいたいのだが、任せてもいいかね?」




「もちろんです!」




 おっといけね。今は余計なことを考えてるときじゃないな。


 仕事に集中しなければ。




「あの、私引っ込み思案で…そんな自分を、どうしても変えたくて…」




 ふっ、どんな性格だろうが問題ないぜ!


 俺は天才プロデューサー!どんなアイドルだって育ててみせる!




「大丈夫。俺に任せて欲しい。それに、無理に変わる必要なんてない。君は今のままで十分魅力的だ。今の君の良さを伸ばす方向でいこう。責任は全て俺が持つよ。だから俺を信じてくれ」




「プロデューサー…!」




所詮男なんざチョロイからな!


この子には俺がついていないとと思わせたら勝ちよ!


この子に大量に貢がせてやるぜ!!そうすれば結果的に俺の名声と地位も鰻登りって寸法よ!




(ちょっと躓いちまったが、ここで俺のプロデューサー人生はリスタートだ!)




ここから再び駆け上がってやる!


 そして俺は、アイドル界のドンになるんじゃあああああああああああ!!!!!!
















「プロデューサー、貴方のことが好きです」






 …………あれぇ?






 当然ながら、俺は逃げた。




 だ、大丈夫。次があるさ!










「次の担当アイドルは元気のいい子だし、明るいイメージで売り出して皆に好かれるアイドルに…」




「私、プロデューサーのことが好きなの!」






 …………Why?






 また逃げる。だから未成年はダメっつってるだろ!!親御さんにだってどう説明すればいいんだ!大事なお子さんをお預かりしてるのに、手を出したら彼らに対する裏切りになるだろうが!






 だ、大丈夫!まだ当てはある!


 気付けば業界で名が知られるようになってきたからな!これも日頃の行いの賜物だ!!






悪徳プロデューサーだって命は惜しいし夢がある!


 まだ俺は刺されるわけにはいかないんだ!!!








 ………………




 …………




 ……








「好きです」「愛してる」「結婚しましょ♪」「逃がさないから」






「だあああああああああああああああああああ!!!!!」






 なんでどいつもこいつも告白してくるんだよ!?


お前ら皆トップアイドルだろうが!?自覚あんのか!?




「ち、畜生。もう移籍できる事務所がないぞ…」




 スキャンダルを恐れて移籍しまくっていたら、いつの間にか業界の隅から隅まで渡り歩いちまった。


 金はめちゃくちゃ貯まったし、人脈も山ほどできたが、どうしてこんなことに…




「こ、このままでは俺の野望が…はっ、そうだ!」




 いっそ自分で事務所を作ればいいんだ!そうだ!そうすりゃ地道にやっていけば、必ず活路は開けるはず!




「俺はまだ夢を諦めないぜ!」




 俺は絶対芸能界を支配するプロデューサーになってやる!!!














「プロデューサー、きましたよ」




「新しい事務所ですか、また二人三脚で頑張りましょうね」




「プロデューサーとなら私、頑張れるから!」






 ガヤガヤガヤ……






「………………」






 トップアイドル、集まっちゃった。






「な、なんでこんなことに…」






 俺は、俺はただ悪の道を突っ走り、最強のプロデューサーとして芸能界の頂点に君臨したかったんだ……


 ただそれだけなのに、なんでこうなるんだよ!?スキャンダルで破滅なんて真っ平だぞ!?刺されて死ぬのも絶対ごめんだ!




 なのに、こんな状況詰みやんけ!誰か俺に夢を叶えさせてくれよぉっ!!!




「ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」




 広々とした事務所内に、俺の魂の咆哮が木霊するのだった。






なお、普通に一大アイドルグループを結成したら大当たりして大ヒットした模様。

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最強の悪徳プロデューサーに俺はなる!~だからスキャンダルは勘弁な!刺されるから。え、なんでアイドル皆寄ってくるの~ くろねこどらごん @dragon1250

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