SF ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years
第6章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 4 平成三年 智子の行方(6)
第6章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 4 平成三年 智子の行方(6)
4 平成三年 智子の行方(6)
きっと智子は、二十三年より以前の時代に行ったのだ。そして電池の切れてしまったデジタル時計を肌身離さず大事にしていた。そう考えれば体型の変化だってありえることだし、
――不規則な生活や、米兵との食事であんなに太ってしまったか……?
きっとそうでもしなければ、十六歳の智子が生き抜くことは難しかった。
そしてそんな日々のスタートは、昭和二十二年だったのか? それよりもっと前なのか?
剛志は静止画を見つめたまま、智子が行き着いた時代について必死になって考えた。
そもそもマシンに浮かび上がる数字は、間違いなく時間移動したい年数だ。だから去年に戻りたければ、ただ〝1〟とだけ入れればいい。
つまり昭和二十二年に行ったのなら、智子はマシンの数字を〝36〟としたことになる。
――俺は、彼女にちゃんと説明したはず、だ……。
ただ本当なら、剛志も一緒にいるはずだったし、一人で乗り込むなんて完全なる想定外。それでも戻ったマシンに乗り込んだなら、昭和三十八年に戻ることだけで必死なはずだ。
だとすれば、数字をいじろうなんて考えるだろうか?
――何を思って、〝36〟なんて数字を入力したんだ?
そう思った時ふと、ある考えが浮かび上がった。
――もし、〝38〟と、入れたんだとしたら……?
昭和三十八年に、なんとしても戻りたい。そんな気持ちのまま、
――20のところを〝38〟と変えたんだとしたら……?
智子は、昭和二十年の三月十日に行ってしまったことになる。
慌てていれば、まあありそうな話だ。何より三年間もあったなら、あの時代で生きていく術だって身につくだろう。そして昭和二十年なんて時代に着いた後、彼女はどんな苦労を味わったのか? どうしてあのような死に方を、智子はしなければならなかったか?
こうなって、彼はどうしても知りたいと思った。できるなら、あの写真の場所を探し出し、さらに亡骸がどうなったかを調べなくてはと強く思う。
ただ正直、智子が死んでいたと知って、予想を遥かに超えてショックは軽いものだった。
可哀想で、強い悲しみを感じはした。しかし現実感には乏しくて、言ってみれば辛く悲しい過去を思い出したという感じに近い。
そんなだから余計に、あの時代の智子を知りたいと願うのだろう。
きっとこれが今じゃなければ、十六歳の智子と再会するよりもっともっと前だったなら、こんなこと考えるなど当分の間はなかったはずだ。
そうして剛志は次の日に、さっそくあの番組を放送していたテレビ局へ向かった。
番組で使われた写真について、お尋ねしたいことがある。剛志が受付でそう伝えると、「担当者をお調べします」と返され、それからけっこうな時間待たされた。ところが担当でも写真のことはわからないとかで、結局制作会社の連絡先だけを教えてもらった。
制作会社に尋ねても、どうせ教えてなどくれないだろう。そんな諦め気分のままで、剛志は電話ボックスから制作会社へ電話をかける。すると二度ほど相手が変わって、番組に関わったという制作スタッフがやっと出た。
「あの番組に出てきた写真の中で、日本の古い写真に写っていた女性のことを調べていまして、ぜひとも、あの写真の出どころを教えていただけませんでしょうか?」
剛志が電話口でそう告げた途端、なんとも呆気ないリアクションが返った。
「ああ、あれですか、いいですよ、ちょっと待っててくださいね」
それから少々待たされはしたが、すんなり写真の出どころが判明する。
驚くことにその持ち主は、剛志のように問い合わせてくる人物を期待していたらしいのだ。だから制作会社との通話を切って、そのまま大学教授だという持ち主に電話をかけた。
考えてみれば当然だが、勤め人が平日の昼間っから自宅にいるはずがない。それでも妻らしき女性が電話口に出て、明日の土曜なら家にいるはずだと教えてくれた。
剛志は午後一時に伺いたいと伝えて、次の日時間ぴったりに、菓子折りを手にして大学教授の元を訪ねる。すると本人はちゃんといて、剛志の来訪を約束通り待っていてくれた。
高城……滋。島根県の松江市出身だという彼は、見るからに学者風の雰囲気だ。
さらに細身でメガネを掛けているせいか、なんとも神経質そうな印象を受ける。年齢は剛志と同じくらいに見えたが、聞けばあと数年で定年退職となるらしい。
「わたしの父親は、戦前から警察に勤めていましてね。その父も二年前、九十歳で亡くなりました。母親はもっと前に亡くなっていたんで、空き家となった実家を、わたしが暇を見つけて整理していたんですよ。そうしたら、父の書斎から事件の資料などがたくさん出てきましてね。実はその中に、例の写真もあったんです」
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