第6章  1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 3 革の袋(3)

 3 革の袋(3)

 



 そうして二人が出て行って、あのマシンだけが残された。すでにそこに階段はなく、ポッカリ浮かんでいたあの入り口も消え去っている。

 そんな光景を見ているうちに、剛志はマシンの中を覗いてみたいと思い始める。

 だがあの時、マシンが反応したのは智子だった。彼女は紛れもなく搭乗者だったし、

 ――この段階で、俺はまったくの部外者、だしな……。

 だからダメでもともとと、剛志はマシンに手を近づけたのだ。

 するとなんとも呆気なく、銀色に光り輝く扉が現れてくれる。

 そこでようやく思い出した。あの三人組が現れるちょっと前、おんなじことを考えて、剛志はその手を近づけたのだ。もしもあの時、マシンが反応していなければ、きっと違った未来になっていたはずで、反応したからこその今なのだ。

そしてあの時と同様マシンはしっかり反応し、目の前にはちゃんと階段が現れている。  

 もちろん恐怖を感じないわけではない。ただ今回は、触れていけない場所は知っている。だからちょっとの間なら大丈夫だろうと、現れたばかりの階段をゆっくり上がっていったのだ。

 浮かんでいる座席に腰を下ろすと、やはり全身を包み込むように変化した。

 その時ふと、彼は思い出したのだ。確かこの足元に……そう思って下を見るが、そこにあったはずの袋が見当たらない。

 ――どうして……? 俺は、確かにあの袋をつかんで……。

 袋にあった金のおかげで、どれほど助けられたかしれなかった。

 ――記憶違いか? いや、そんなことあるわけない!

 あの金がなければ、間違いなく今の剛志はなかったはずだ。

 ――ならどうして? ここにあれが置かれてないんだ!?

 そんなことを思いながら、剛志は床に這いつくばった。しかし袋どころか、チリ一つだって落ちゃいない。これが何を意味しているか? を必死になって考えた。

 二十年前、伊藤が智子を乗せた時点で、あの革袋は置かれていなかった……?

 だとしても明日の午後には、あの袋の金はちゃんとここにあるはずだから、

 ――すなわち……それまでに誰かが、金を用意するということだ。

 そしてその誰かとは? 五十六歳になっている剛志本人しか考えられない。

 ただ今回は、あれに乗って過去に戻るのは智子の方だ。だから、金なんか用意する必要はないだろう。そう思い、安心しかけたのもほんのつかの間。

 突然、雷に打たれたような衝撃とともに、急転直下の疑念が思い浮かんだ。

 ――ちょっと待て!

 ――ちょっと待て!

 ――ちょっと待て!!

 彼は思わず立ち上がり、首だけ捻って外の景色に目をやった。

 ――二十年前だって、五十六歳の俺はいたはずだ。なのにどうして、三十六歳の俺が過去に行くのを止めなかった?

 もしかしたら、それは止めなかったのではなくて、

 ――止められなかったのか!?

 全身に、怖気が走った。

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