第4章  1963年 - すべての始まり 〜 6 剛志の勝負(4)

 6 剛志の勝負(4)




 顔にガツンと衝撃があって、気づけばテーブル席に突っ込んでいる。

「こら! 剛志! なんてことしやがるんだ!」

 そんな声で一気に、失いかけた意識が我に返った。途端に店の客たちが集まってきて、剛志は何人かに抱き起こされる。そしてその時客たちは、「ミヨさん」「ミヨさん」と口を揃えて、大丈夫かと呼びかけた。

 あれは、剛志がこの時代にやって来て、まだ三日目くらいのことだった。

「考えてみりゃさ、剛志の事件騒ぎなんかもあったから、旦那の名前、ちゃんと聞いてなかったんだよな」

 なんて呼んだらいいのかと、正一が覗き込むようにしてそう聞いたのだ。

 だから剛志も一旦は、素直に名井と言いかける。ところがまさにその瞬間、なぜだか不意に言ってはダメだという気になって、剛志は急に口ごもり、それでも言葉を続けてしまった。

「みょ……、ミヨ、とでも、呼んでください」と誤魔化して、かなりぎこちない笑顔を見せたのだった。

「へえ、ミヨさんか。なんだか変わった名前だね、ミヨさん、ミヨさんね、よし! これから旦那はミヨさんだ!」

 そうして正一はその日から、彼のことをミヨさんミヨさんと呼ぶようになった。

 そのうちに、年の頃が同じくらいのフナが彼と話すようになる。そうなるとあっという間に、例のメンバーからもミヨさんミヨさんと呼ばれるようになっていた。

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