第3章  1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 5 過去と未来(6)

 5 過去と未来(6)

 



 となれば、智子が昭和五十八年にやって来たのも、同じようなミスを犯したんじゃないか?

 火事から智子を救おうとしたなら、昭和三十九年だってよかったはずだし、さらに言うなら、次の日くらいにしておいてくれれば、智子もこんな経験せずに済んでいる。

 彼女によればあの時、あの辺りは見渡す限り火の海だったらしいのだ。さらに伊藤自身にも危険が迫っていたろうし、どちらにしても余裕のあるような状況じゃない。

 そもそも伊藤は、どうして殺されなくちゃいけなかったのか?

 ――あいつはいったい、何者なんだ?

 そして火事の日、ナイフを振りかざしていた写真の男も、やはり未来から来たのだろうか?

 すべてが謎で、断言できるところなどほとんどない。それでも……唯一、

 ――遠い未来では、日本人もあんなに背が高いんだ……。

 そんなことだけは、素直にそうなんだろうと思うことができた。

 一方剛志は残念ながら、いわゆる現代の日本人を代表するような体型だ。

 身長は一メートル七十センチギリギリあるが、脚はお世辞にも長くない。最近は腹に肉も付いてきて、まさに中年オヤジに片足以上突っ込んでいる。

 それでも同世代の平均身長より五センチ高いし、幸い髪の毛だってフサフサだ。とはいえ十六歳だった自分と比べりゃ、お世辞にも若いだなんて言えやしない。

 もちろん智子の方だって、あの頃の剛志の方が百倍いいに決まっていた。それになんと言っても、あの時代の剛志も、智子が戻ればどんなに喜ぶことだろう。

 ――そうなれば、俺の人生だって違ったものになっているかも……?

 彼女が過去に戻った途端、三十六歳の智子がこのマンションに現れるのか? それとも有名デザイナーとかになっていて、バリバリの独身だなんて方が断然可能性高そうだ。

 さらにそんな時、新しく生み出された記憶は一瞬にして入れ替わるのか?

 ただ、どうなってしまうにしても、剛志の思うベストは一つだけだ。

 智子を元の時代に送り届けて、本来あったはずの時の流れに戻したい。

 そう思い至って、剛志はそれ以上考えるのをやめた。そして眠そうな目をしている智子へそろそろ寝ようと告げたのだった。

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