11 脱出



 シンフォくんは私のペンダントを示して説明する。


「お前にあげたペンダントは、実は隣国のお偉いさんからもらったお宝なんだぜ」

「そうだったの?」

「お忍びでこっちの国に来ていた時、ちょっとしたことで困っていたから助けてあげたんだ。そしたらくれた。何でも邪神の力をはねのけるすごいお守りらしい」


 それで、と私は納得する。


 私だけは邪神に操られなかった。


 ユフィの魔の手から逃れる事ができたのだ。


 それは、やはりこのペンダントのおかげだったのだろう。


 その国にいけば邪神に対抗する力もあるかもしれない。


 私は「うん。分かったその国に行こう」と決断した。


 けれどその前に、もう一度屋敷に戻る必要がある。


「だけどお母様に一度会っておきたいの。ユフィに操られてると思うけど、その時から一度もあった事が無いから」

「でも、危ないぞ」


 私は、心配するシンフォ君にその理由を詳しく伝えた。

 それは、邪神の思惑を打ち破るために必要な事だった。


 私はただ逃げまわっていたわけではない。

 その行為は、大切な人達を守る事にもつながる。


「分かった。じゃあ、屋敷に戻ろう」


 私達は、来た道を引き返す事になった。







 もどってきたお屋敷は、表面上はとても静かだった。


 静寂につつまれている。


 こうしてみると、私が経験した事は全部夢じゃないかと思いそうになる。


 でも、きっと現実だ。


 シンフォ君と私はこそこそ移動しながら、屋敷の中へ入れそうな場所を探していった。


 窓からのぞき込むと、時々使用人たちの会話が聞こえてくる。


 彼らの様子を観察していくと、どうやら父とユフィは屋敷にいない事が分かった。


 どこかに出かけているのだろう。王都リヴァイバルに出掛けているとか使用人達が言っていた。


 これは絶好の機会だ。


 私は、換気のために開けられていた窓から侵入して、お母様の元へと向かった。


 この時間なら、日課の読書をするために中庭のベンチにいるはずだ。


 お母様はいた。


「フィア、心配したのよ! もうどこにもいかないでちょうだい」


 表向きは普通の様に見えるけれど、周囲に視線を向けて、使用人達の気配を探っているように見えた。


「お母様、ごめんなさい。でも、きっとまた助けに戻ります」


 お母様は私が逃げたとみると、使用人を呼び始めた。


 人が集まる前に退散する。


 これで、私のやるべき事は終わった。

 

 あとはこの国を出るだけだ。


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