10 シンフォくん



 現れたのは、初めて会った気がしない少年だった。


 その少年は、大男の背後から近寄っていたらしい。


 どこから持ってきたのか分からない角材で大男を殴りつけ、呆然としている私の腕を掴んだ。


「逃げるぞっ!」


 そして、彼に引っ張られるまま人通りの多い場所まで逃げる。


 大男の姿はすぐに見えなくなった。


 息を落ち着かせた頃、私はもしかしてと思って口を開いた「ひょっとしてシフォンちゃん?」。


 目の前の少年は紛れもなく男の子だけれど、この前受け取った手紙の事を思い出したのだ。


 すると、男の子は気まずそうに「あー、うん。シンフォだ。間違えて文字を覚えてたから」と述べる。


 名前からして女の子だと思っていたけれど、実はあの文通友達は男の子だったらしい。


 意外な事実に驚いた。


 女の子だと思っていたから、気安く文通できていたけれど、男の子だと最初からしっていたら、身構えていたかもしれない。


 何度かのやり取りを経た今なら、シフォンちゃん、ではなくシンフォくんは良い人だってわかっているけれど。


「でも、どうして助けてくれるの?」

「人を助けるのに理由が必要なのか。それに、友達だろ。フィアの事が心配で屋敷の近くをうろうろしてたら、なんか大変な事が起きてたみたいだから、追いかけてきたんだ」

「そうだったんだ」


 これまでためてきたお小遣いの貯金をはたいたり、人脈を駆使して人に聞いたりして、ここまで来てくれたらしい。


 私はこれまでの事を、詳しくシンフォ君に教えた。

 すると、シンフォ君はとてもビックリした表情になった。


 当然だろう。妹の偽物がやってきて、しかも邪神の巫女になっていたのだから。


「邪神がとりついて、巫女になった奴は、生贄として多くの人を殺していく。歴史の中でも、何人もの人が犠牲になったって聞いた。大変だ。噂では、あと一人か二人で、邪神が復活するための生贄になっちゃうとかいってた」


 自分達の手に負えない案件だ。


 だから、騎士や偉い人を頼るのが良いのだが、ユフィにことごとく先手を打たれてしまっている。


「だったら、邪神でも予想できない所に助けを求めるしかない。隣の国に行こう」

「えっ」

「普通だったらこの国の王様に助けを求めるところだけど、そんなのたぶん予想されてるだろうし」


 それは確かにそうだけれど、言った事もない国に行くのは勇気が必要だった。


 それに、他の国の人の話を信じてくれるかどうか分からない。


 すると、シンフォくんが大丈夫だと笑った。


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