第2話 二人目の私が生まれた日
ある日、バイトに向かう車の中である曲を聴いていた。
(曲名も歌詞も思い出せるけれど、この曲を聴いて新しい自分と会話をしてしまう人が出る可能性を恐れているため、あえて伏せますね。)
その時、私は週末デリヘルで働いていた。
一日、多い時には11人の相手をした。時間でいえば、最長で19時間労働。
週末毎日来てくれる、ある一人のお客様が与えてくれたご飯をいただき、別のお客様からは、ご好意で睡眠時間を与えていただいていた。
ある種、恵まれていたと、私は思う。
仕事には全力を尽くした。たとえどんなお客様であっても、リップサービスから接し方に至るまで、全力で時間をかけてサービスに努めた。
もちろん本番はなしだったが、フィニッシュに、あるお客様に教えていただいた「スマタ」と呼ばれるであろう行為をすることで、本番した気持ちになってもらうことが得意だった。「スマタ」にもいろいろあるが、またそれは別の機会に。。。
本番と勘違いをしてしまうお客様の多かったこともあり、少し罪悪感を抱きながらも、私は、デリヘルという仕事に対し、正当に仕事をしようと心に決めていた。
金曜の夜、20時になると出勤し、家に帰るのは月曜の朝5時。
睡眠時間2~3時間以外は、お客様の相手をした。
実際に働いていた仲間以外には、この本数・労働時間ですら信じてもらえないことが多かった。。。他の女の子たちと会話したりトランプで遊んだりする余裕のある日もたまにはあったが、ほとんどを外(ホテル)で過ごしていた私にとって、あの頃の週末は地獄そのものだった。
話を元にもどすと、ある日私は、バイトに行くために車を運転していた。
時間は夜の19時頃だったろうか。
雨が降っていた。
ワイパーが動く音をかき消すように、大音量で歌を歌って聴いていた。
ふと、女の人の声が、聞こえた気がして、音楽のボリュームを下げた。
話しかけてきていたのは、自分だった。
特に驚くこともなく、私は会話を続けた。
もう、内容は思い出せないが、なにか、「代わりにやってあげようか」的な提案だったような気がする。
私は、迷いなく、提案を受け入れ、初めての人格交代を味わった。
たまに、仕事の最中で、元の私に戻ることもあったが、基本的にしていることは同じ内容のようで、特に仕事に支障が出ることもなく、私は、その続きを続ければいいだけだった。
「こんにちは」
声をきっかけに、おそらく人格の入れ替わりは行われた。
ほぼほぼ、伺って、時間が来て、車に乗り込む。
この繰り返し以外の仕事の記憶がない状態で、家に帰ることが多くなっていった。
今、あらためて思うと恐ろしいが、当時の私には、ラッキーでしかなかった。
財布の中には、毎週末20万を超える大金が入っていた。
週末の「アキナ」の誕生だ。
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