第10話 嘘と強欲


 『八罪呪源アマルティア・オクト』が1つ『強欲グリード』。

 何か出る訳でもなく外見にこれと言った変化はない、『強欲グリード』の力は許可をもらった対象の何かしらの力を一定時間奪うことが出来る能力。


 あんまり使い慣れてないけど正直に突っ込んでもやられそうな気がするから搦め手が使いやすい『強欲グリード』で行く。



「ふふっ……魔力の質が急に変わったね」


「そこまで分かるんだな」


「少し敏感肌でね」



 魔力色が変わったから外見的には分かりやすいけど、実際にどんな感じの魔力になったのか理解するのは難しいけど、簡単そうに隻腕剣士は聞いてくる。

 魔術はまったく使えないけど他の部分は飛びぬけてるってタイプのだな、ジンと似てるけど正直レベルが違う。


 頭の中で『強欲グリード』の声が響く。



『へっへへへ! 面白い姉ちゃんだな! 殺されんじゃねぇーぞ!』


「あぁ…やってやるさ」


「行こうか」



ーーザッ!



 再びこちらに向かって走ってくる隻腕剣士、蠅がいなくなったからか先よりも速い。それに微笑みながら近づいてくるので少し怖い。


 俺はしゃがみ込んで、地面に手のひらを重ねて魔力を少し放出する。



奪封クルック


「っ!?」



 言葉を発した瞬間、隻腕剣士の体がぐらついてその場で停止した。立っているのも大変そうな表情を浮かべて足下を睨んでいる。



「初見で堪えるのか」


「…また面妖な」



 『奪封クルック』は話しかけられない無機物などを対象に何かを奪い封じる技、1つしか奪えず、他の物を奪う場合は一度解除しなければならないし、奪えるものは制限や範囲は細かくあるものの、地面から摩擦係数を奪って封じた。俺以外は普通だったら立ってられないと思うんだけどな。


 理論的に言えば、地面に完全に垂直に力を掛ければ滑らず立てるんだけど、まさか初見で出来る人がいるなんて思わなかった。

 


「アンタのその身体能力が羨ましいよ、俺に”くれない”もんか?」


「ふふ…次はどんな面妖な技なのか気になるけど、返答はよしておこう」


「『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』」



 動けなくしといて『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』なんて卑怯だって思われるかもしれないが、そんなこと関係ない! まずは勝つことに全力を注ぐのみ。



ーーギャリギャリギャリッ!



 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が隻腕剣士にむけて伸びていく、少しでも重心がズレれば立ってられないはずだし、バランスさえ一度崩してしまえば『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の速さで捕えられる。



「ふふっ……」



――ヒュンッ—―――パリンッ



「なっ!」



 隻腕剣士が地面に掠る程度で剣を振ったら 『奪封クルック』が解除された!? 俺が解かなければ基本解けないはずなのに何しやがったんだ?

 でも今のが奴の呪いや特殊な力に関連してくるもんなんだろ。



―――ガキンッ!



歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の攻撃を難なく凌ぎながらこちらに向かってくる、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』も勢いよくパワーのある攻撃だが、軽そうな振りで凌ぐってどうなってる?



「そろそろ終わりかな?」



―――バキバキッ! ジャキンッ!



「化け物かよ」



 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』がバラバラにされてしまった。魔力を注ぎ込めば元通りになるのだが、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が効果が無いことが分かった以上、これ以上使い続けても同じだろう。



「どっちも化け物みたいなものだろう?」



 隻腕剣士が後3mのところまで来た。


 戦闘経験は少ないけれど、俺なりに距離を詰められないようにしたつもりだったのに簡単に近づかれてしまった。

 でも隻腕剣士の力はおかげでなんとなく分かった気がする。



「概念だろうが目に見えない能力だろうが「斬る」力か」


「さすがに見破られてしまったね」


「しかも目がいいのか…力が及ぼされている箇所が視えてる」


「それも正解だ」



 化け物かよ。


 『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』は何かを対象に力を及ぼす概念技みたいなもんだが、それもお構いなしに斬って無効化するなんて馬鹿げた力だ。



「降参かな?」


「いや…こっからだ」



―――ゴウッッ!!



「ほう」



 『強欲グリード』みたいんば搦め手も効果が無いとなると厳しいけれど、心の中で『我ト契約セヨ』って言ってくるから、一か八かかけるさ!



「『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』」



 俺の体から赤黒い魔力が巨大な渦となって周囲の物を吹き飛ばす勢いで溢れ出す。隻腕剣士は少し飛び退いて距離をとってくれた。

 正直人間相手の集団戦で有効だと思っていた呪罪だから、この場面で使えるのか不明だけど信じるしかないな。



呪罪真名トゥルース・シン 『メフィストフェレス虚言を貫き通した王様』」



―――ゴゴゴゴゴゴッ!



『ガッハッハハハハ!!』



 『虚飾ヴァニタス』の『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』、いつもはただの頭蓋骨だったはずが、煌びやかな宝石が何個も着いたローブを身に着け、骨の指には豪華な指輪までついていてどこぞの王様かと思うような全身キラキラした骸骨が宙に浮いている、これまた豪勢な玉座に座って高らかに笑っている。


 そしてすでに『メフィストフェレス虚言を貫き通した悪魔』に『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』したことで発生している能力がある。

 俺も今、頭の中に情報が入ってきたから戸惑っているけども力の名は『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』。


 自分に対して都合の悪いことは起こる前に都合の良いことに塗り替えることが出来るっていう聞くだけだと反則みたいな技だ。

 ただどうにかして後ろで座りながら高笑いしている骸骨王様に攻撃されてしまった場合は元の『虚飾ヴァニタス』に戻ってしまうデメリットがある。


 けど骸骨王様のところに辿り着くまで、こちらの都合悪いことは全部都合よく変換できるから下手するか、相手がこちらより魔力量も呪いの強さも上回れていなければ無傷だっていけるはず。



「俺の残った魔力、ほぼ全部もってくのかよ」


『当然ノ対価ナリ!』


「急に魔力の質も何も感じなくなってしまったのは何かな?」


「さぁ…疲れたんじゃないのか」



―――ザッ!



 隻腕剣士に向かって勢いよく走り出す。


 さっきまでだったら即真っ二つにされていただろうし、隻腕剣士も近づいては来ないだろうと思っていたはずだ。

 距離をとり続けたかった俺と接近戦に持ち込みたい隻腕剣士だった図式が急に変わったことで驚いてやがるな。


 そこは狙いどころだ!



―――ヒュンッ! ヒュンッ!



「何が…?」



 隻腕剣士の細剣がブレるように振るわれている、遠慮なく俺を斬ってるんだろうけど『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』を信じて良かった!

 俺自身も斬られてないというか都合よく全部外れてるし、相手のなんでも斬れるんだろう能力も都合よく発動していない!


そして俺が放つ蹴りもきっと!



「はぁぁっ!」



―――ドゴォッ!



「ぐぅっ!」



 回避するような動作を見せていたが都合よくいいところに直撃させられた。


 これが『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』か、俺の魔力をほぼ全部持っていくだけのことはある。

 技は他にもあるけど打てないってことは魔力量が全然足りてないってことだ。普段はエコなのに真名になると燃費悪いって性格悪い呪罪だな。


 吹っ飛んだ隻腕剣士を少し様子を見ながら近づいてみると、薄っすら笑っているのが分かる。立ち上がって俺を見るとさらに良い笑顔を浮かべた。



「私の力は発動しないし、君の攻撃は避けたつもりが直撃するなんて、随分都合の良い力だね」


「そこまで冷静なアンタのほうが凄いよ」



 使い始めて1分もたってないんだけど気付かれるもんなのか、それとも食らう側からすれば分かりやすい力なのかもしれないな『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』って。



「攻略してみせよう」


「される前に決着をつけるさ」



 蹴り一発じゃもちろん終戦には至らずか、魔力がないのが痛いけれどこのまま行くしかないな。

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