第11話 都合の良い不都合


 『虚飾ヴァニタス』を『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』したことにより、自分に都合の良い様に事象を起こす『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』で完全に形勢逆転のように感じるこの戦い、でも隻腕剣士は楽しいのか笑っているし、俺は俺で魔力がほぼ『メフィストフェレス虚言を貫き通した悪魔』にもっていかれてるので打撃技で攻めるしかない。



「いくら便利な力でも穴はあるはずだからね…探そうか」


「そんな暇あたえるかよっ!」



―――ザッ!



 当たり所が良ければ魔力が無くたって一撃でダウンをもっていけるはずだ、『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』が発動してる今なら「都合よく」良い場所にあてれるはず!



「はぁぁぁっ!」


「ふっ!」



―――ガキンッ!



 俺の右ストレートは、隻腕剣士の左手甲で防がれてしまった。

 薄く見えるけどなかなか頑丈だし、『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』が発動中に簡単に凌がれたんだけどどうなってるんだ?



「なるほど…君にとって都合の悪くないことは防げないんだね」


「そういうことかよっ!」



―――ガキンッ! ガキンッ! ズゴォッ!



 何度か手甲に当てられたけど、良いところに当たる攻撃もある。隻腕剣士はわざと完全に避けるのは無理と判断して、まずまずな場所に攻撃があたるように誘導してきている。

 それでも『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』が不都合と判断された場合も出てきて、俺の攻撃が良い場所にヒットすることも何度か出てきている。



「これではジリ貧だなっ」


「やられる前にやってやる!」



 『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』発動中は後ろに座っている骸骨王様に触れられたら終わってしまうからそれまでに決着をつけないといけない!

 俺に攻撃は当たらず一歩的に仕掛けているのに全然決めきれないのは単に実力差なのか? もしそうだったとしたら…。



「この実力差も俺にとっては「不都合」だ」


「っ!?」



―――ズガァァンッ!



 身体的実力差をしっかり認識した瞬間、急に身体のキレが良くなって隻腕剣士をとらえることが出来た。

 …なるほど認識も必要って訳か、何が「不都合」なのか明確化することが出来れば思うだけで『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』は発動しれくれるのか。


 俺の蹴りで吹き飛ばされた隻腕剣士が、さすがに少しフラつきながら立ち上がって、再び剣を構えてくる……と思ったら力を抜いて笑い始めた。



「凄い力だ、今の私では厳しいな」


「降参してお縄についてくれ」


「盗られて売却までされたものを取り返すまでは捕まってられないな」


「…それはなんとも言えないな」



 被害者でもあるけど、人ぶっ刺した加害者でもある。確かに盗られてしまったものが何であれ取り返したいのは当たり前なんだけど、あの狐面との関係も聞いておかないとな。



「君が気になっている狐さんとの関係だが、私もよく知らないから聞かないほうがいいよ」


「…よく聞きたいことがわかったな」


「刺した私よりも殺気がむいていたからね」



 隻腕剣士がそう言って笑うと、隻腕剣士の姿が空間ごと歪み始める。すぐに止めてやろうかと思ったけれど『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』の範囲外に出ていることに気付いた時には、もう遅かった。



「わざと吹っ飛んだのかよ」


「蹴られたのは不都合ではないだろう?」


「くそっ…次は逃がさない」


「ふふっ…私を捕まえたかったら王都においで」



 そう言って隻腕剣士はどこかへと跳んでいった。どうせ狐面の魔術なんだろう。

 …王都か。








 一端の脅威が去り、なんとか動けたおっさんと黒髪剣士は刺されてしまった盗人の手当てに急いだが、残念ながら間に合いそうにない。見事に心臓を貫かれており血も流しすぎた。



「……呆気ないものだな」


「…そうだな」   



 ジンがぽつりと呟く、正直やってきたことがやってきたことなだけに少し因果応報のような気もしなくはないが、こんなあっさり死んでしまうと何か言葉にできない感情が浮かんでくる。


 他のみんなは村を出る最終準備をしてくれている、騎士団はおっさんが俺に負けたし、被害も出ていることから深追いはしてこないようだ。



「盗人の母親は息子が死んだことを教えてもらえるのかな?」


「認知症とやらはよく分からぬが……会わない内に忘れてしまうのかもしれんな」


「盗人はどう生きていくのが正解だったのかな?」


「……それが見えなかったから盗人になったのだろう」


「それもそうか」



 親の介護に時間も力も全て奪われて、それだけじゃ生きていけないから盗みまでして2人で生活してきた果てがこれって言うのは正しい世の中なんだろうか? 自ら手を伸ばさない、伸ばせない人たちは救われない世界が果たして良い世界と呼べるものなんだろうか?

 盗みは確かに罪だけど、生きるために仕方がなかった罪というのは犯した者にすべての責任があるのか? 正直分からないし、母のために結局、命まで支払った盗人は何のために生まれてきたんだろうな?」



「世の中…難しいもんだな」


「なんだ? そんなに想うことがあるのか?」


「…命が軽いなって」


「簡単に命が奪えてしまう時代だからな」


「…出来ることをしなくちゃな」


「そろそろ戻るとするか」


「あぁ…最後に宿の人に挨拶しとかないとな」



 なんとも言えない感情を胸に仕舞い込んだまま、俺はとりあえずジンと一緒に宿に戻っていった。









 宿の人に挨拶もしっかり済ませ、本当は盗人の母にも会っておきたかったが騎士団とこれ以上顔を合わせても良いことが無さそうなので、俺たちは颯爽と街を去ることにした。


 現在は少し時間はかかるが王都にむけて馬車を走らせている。


 リーシャとエルが先頭で走らせてくれているので、ロロとフィオナとジンの4人で今回の件について話し合っているところだった。



「まず隻腕剣士と狐仮面は仲間ってことが1つ」


「とんでもなく強かったんだろ?」


「あぁ…俺が言うのもなんだけど、反則的だったよ」


 実際に『暴食グラトニー』と『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』して魔力が爆上がりしてなかったら『虚飾ヴァニタス』との『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』が出来なかったから危ないところだった。


 なりふり構わず周囲の被害も考えなかったらいくらでも方法はあったけども場所が場所だっただけに危なかったと今でも思う。


 でもあの事件も含めて2体との『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』が出来たので自分でも明確に分かるほど魔力が上がっているのが分かる。



「とんでもない上がり幅にゃ」


「8体全部と契約する頃には、世界で1番魔力を持つ男になってるかもな!」


「そしたら有名人ですね」



 感想が子どもみたいな3人に少し気が抜けるが、『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』をしたことで『暴食グラトニー』と『虚飾ヴァニタス』の技を1つずつ常時使えるので悩ましいな。



「みんなに相談があるんだけども」



 1人で決めていてもあれなので、みんなの意見を聞きながら習得する技を決めることにする。

 戦闘に関してはロロとジンのほうが適切なものを思い浮かべてくれそうだから面白い話し合いが出来そうだな。


 俺たちは馬車が止まって休憩になるまでひたすら習得する技について話し合った。

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