第8話 予測できた結末
蹴り飛ばしたおっさんが再び戻ってくる。
さすがに無数の蠅が舞っている状況で魔力を放出するような真似はしてきていない、雷魔術と『
右腹部の鎧が砕け散り、その部分を少し気にしながらおっさんが鋭い眼光をむけて尋ねてくる。
「恐ろしい呪いの力だ……野放しにはできん」
「その管理精神が腐ってるって言ってんだよ」
斧を構えてこちらの様子を伺ってきている。
騎士団としての信念があるんだろうけど、その信念ぶち壊させてもらうぞ。
俺の上のほうに魔力を喰らって少し大きくなった蠅を集める。しっかり見てないと動き続けている蠅の大きい奴だけが一ヵ所に集合してるのは分からないと思うけど。
「『
「何が来る?」
上空に集めた少し膨れた蠅をおっさんに向けて突撃させる。
決して速くないけど一直線じゃなく、蠅が認知している限り追い続けることが出来るのが『
「むっ!」
ーーザッ!
まじか! 気付くのかよっ!
確かに他の蠅と違って直線では動いていないけど明確に対象に向かっているから蠅を1匹1匹見分けるくらいじゃないと反応できるはずないんだけど化け物だな。
だけど全部上から迫るだなん間抜けな技じゃないからな。
ーードガァンッ! ドガァンッ!
「ぐぉぉ!」
『
1匹1匹の最大威力は底が知れてるけど無数に増える蠅が連続で爆発することが出来ればかなりの力を発揮できるけど、強い衝撃が与えられると勝手に爆発しちゃうのが弱点だし、発動中は近づきづらいのが難点だな。
ーーバチッバチバチッ! ジュッ!
「この蠅がいる限り使えんと言うのか!」
「魔力出したのが迂闊なんだよ」
ーードガァァンッ! ドン!ドガァンッ!
一瞬ではあったけれどおっさんの魔力を喰らった蠅が一斉に大爆発をする。連鎖して爆発し規模が大きくなり続けるので避けるのは難しいだろう。
「でもやれてる気はしないんだよな」
ーーガシャン
爆風と煙の中から出てきたのは鎧がほとんど砕けてしまい、『
「何故生かした?」
「団長さんとしてやってほしいことがあるんだよ」
「それに乗るとでも」
「どうしてもやらないって言うんなら、この後抵抗してくる残りの騎士団まとめてどうするか考えなきゃな」
「……」
出来れば団長さんの指示で盗人の母さんを王都に連れてって施設に入れてくれると助かるんだけどな。でも断って抵抗するなら騎士団1人残して叩き潰して無理やりにでも連れてってもらうことにしないといけない。
「まだ本気を出していないだろう?」
「本気と言うより確実で安全に勝てる手で攻めていっただけだ」
「……負けか」
負けを認めたようで『
『
とりあえずおっさんに頼むとするか。
「まぁ敗者は大人しく従ってくれ」
「貴様らの疑惑と盗人の母とやらの件だろう」
「あぁ…しっかり責任もって施設に住まわせてやってくれ」
「……頭が痛くなる話だ」
「命あるだけ助かったと思ってくれよ」
戦いも終わってこれ以上抵抗する気はないようなので、おっさんと一緒にジンたちのところへ少し急いで戻らないと面倒なことになりそうだな。
疲れたけど歩かなくちゃな。
「おっさん戻る体力はあるか?」
「なんとかな」
とりあえず動けそうだし大丈夫か、正直『
「……その呪いはどうなっている?」
「教えると思うか?」
「…愚問だったか」
呪いってのは基本的に幅広く何か出来る訳じゃなくて、その人のこだわりや強い欲望や想いがその人を縛りながらも特殊な力を発するのが呪いだから俺みたいなのは見たことなかったんだろうな。
軽い雑談しながら歩いていると、盗人男をとらえているフィオナとエルとロロがこちらにむかって走ってきていた。
盗人男は箱のようなものを持っている。
「フォルカさん騎士団の金銭を盗んだ人捕まえました!」
「ボロボロです! 大丈夫ですか?」
きっとロロが抑えてくれたんだろうけど元気いっぱいにフィオナとエルが報告してくれた。
やっぱりこいつがまたやったのか。
「やっぱあんただったのか」
「この金があれば! 母ちゃんを王都で安全なところで住まわせられるんだ!」
「その金は村の方々が王都に納める分と私たちに旅費も入っている。君が困っているのは承知だがやっていることはただの犯罪だ」
「黙れ! 何が王国騎士団で平和の守護者だ! 守るどころか話を聞こうともしないじゃないか!」
「どんな理由にせよ戻ってジンたちを止めないとな」
◇
ジンとリーシャが防戦ながら戦っているのが見えた、技量は囲んでる騎士団より遥かに上のようでジンが少し遊んでいるようにも見える。
カズトってやつは完全に剣技で押されてるように見えるな。
そんな戦闘を見ておっさんが大きく息を吸う。
「おしまいだぁぁぁ!!」
なんとなく耳を塞いどいて正解だった…。
おっさんの大声で戦っていた騎士団とリーシャ&ジンは完全に手を止めた、そして何人かの騎士団員がおっさんの姿を見て寄ってくる。
「団長大丈夫ですか!?」
「我らの金銭を盗んだ犯人を捕まえた、我々に目撃情報を寄こした者が盗んでいたのだ!」
「やはりそうだったか」
ジンも予想していたようできっと今の状況も予想して防戦してたんだろう、普段は何考えてるか分からないけど大人で良かった。
と思ったけど黒髪剣士が手応えなかったから燃えなかった説のほうが大きく感じてきたな。
「こいつは王都に連れていく、それと村から1人王都に連れて行くことになった準備をしろ!」
「そ、それって!」
驚いたように黒髪剣士が叫ぶ。
「ふむ…リーシャの言った通りにすることになったのだ」
「何故です団長!? そこの呪い持ちを放置してもいいのですか!?」
「意味も無く人を襲う輩ではないと判断したのだ。よしこいつを連れていけ」
こちらにやってきた二人の騎士に盗人男は連れていかれる。こればかりは仕方ないことだ、本人が犯した罪なのだから償わないとな。
母の話は聞いているだろうから丁重に王都まで運んでくれることだろう。
ーーガシャンッ!
「なっ!?」
誰かが倒れる音がしたと思って振り返ってみると、盗人男を連れていた騎士2人が倒れており、長い銀髪で黒いコートを腕を通さずに羽織っている女剣士が盗人の首に細剣をあてていた。
「誰か動けばこいつと倒れている騎士は殺す」
「どっかで見たことあるな…」
なんか見たことある感じがするけど思い出せない。
「エルフリッドの街で揉めてた人です」
「…確かに」
エルが小さい声で教えてくれた。隻腕で呪い持ちってことで他の冒険者から報酬のことで色々言われてた人か、正面から顔は見てなかったから分からなったけど、そんな人が盗人に何の用だ。
「確証は無いが…以前この村に寄ったときに物を1つ無くしてしまってな」
「……」
隻腕の剣士は盗人に尋ねるように語り掛ける。
「私の小袋を盗んだのは貴様だろう?」
「な、何の話だよ!?」
「この村に旅人から盗みをする奴がいるという噂を聞いてね」
「し、知らねぇよ!」
どうにか盗人の首に添えられている剣をどかして普通に話をさせてやりたいけれど、隻腕の剣士さんは相当怒っているようだ。
騎士団の連中も仲間の命を握られていて下手に動けず、おっさんも感じてるんだと思うけど、あの隻腕剣士はとんでもない実力者だってなんとなく感じる。
「今なら罪が少し軽くなるかもしれないぞ?」
「……わ、悪かった! 俺が盗んだんだ!」
「どこへやった?」
「生活の足しにと…売っちまったんだ」
「そうか……」
隻腕の剣士が盗人の首元から細剣を引く。そのまま一度ため息をついて落胆している。
「いかんっ!」
「償うと良い」
ーーブシュッ!
「あ…」
盗人の心臓だろうと思われる位置を細剣が貫いていた。
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