第4話 災難は終わらず

ーーバチバチッ!!



雷狼四閃らいろうしせん!」


「『獄犬のヴォミット三嘔吐サーベラス』」



 真っ直ぐ突っ込んできた男に向けて右手のひらを向けて技名を叫ぶ。あんまり技名を言わなきゃいけないのは嫌なところだし、その分ロスがあるけれど真っ直ぐ来るならやりやすい!



ーーズガァァーンッ!



 同じ相手から3種類の性質が違う魔力を喰らうと放てる「『獄犬のヴォミット三嘔吐サーベラス』」。

 取り込んだっていう事実をリセットしてしまうデメリットはあるけど相手の魔力性質に相性が良い力をもった橙色をした霧のような魔力を広範囲に放てる技。


 その霧に突っ込んできたら大変なことになるけどどうだ?



ーーカランッ



「ガァァァ!」



 雷魔力を全身に纏ってかなりの速度で突っ込んできた男が刀を手放して霧の中で悶え苦しむ。

 「『獄犬のヴォミット三嘔吐サーベラス』」の霧中に吸い込んだ3種類の内1つでも出している人が入ると、その魔力を腐らせて酸のような状態にする。体に纏っていたよう男は全身に焼けるような痛みに襲われてるだろう。



「これで終わりだな」


「ぐぅぅ……はぁ…くそ…」



 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の先端を悶えている男にむけて尋ねてみる。

 まだ諦めて無さそうだけどこの霧中じゃ魔力練るたびに腐り果てていくだけだ。



「別にアンタを殺しても呪い持ちや魔族に対する印象なんて変わらない。見逃してやるから村にいる感ほっといてくれ…んで考え方を改めてくれ」


「なっ! ぐぁぁ…くそ…」



 倒れた男にそれ以上声はかけず『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』に心の中でしっかり礼を言って戻す。

 なんとなくだけど、あの男はどっかに所属している剣士やら騎士なんだろうな。お休み中だったのか知らんけどあの正義感をもっと広く世界を見てから発揮してほしいもんだけどな。


 トレーニングどころの疲労感じゃなくなったから戻ろうと思い歩いてきた道を戻ることにした。







ーー高地の村 宿



「その特徴は…きっとカズトですね」


「なんだ知り合いか?」



 無事に宿をとることが出来た俺たちは部屋に入り、今日俺を襲ってきた黒髪黒目の剣士について話をしていた。

 ちなみにフィオナとエルは疲れたのか一緒に寝てしまっている。

 あの黒髪剣士、ジンと同じ武器を使っていたからジンの同郷なんて思ったけれどリーシャの知り合いだったらしい。



「王国騎士学校の同期です。彼は私の記憶では王国騎士団第6師団所属だったはずですが、きっとここが故郷で休暇中だったのでしょう」


「目立つにゃって言ったはずにゃ~」


「みんなと別れてすぐ尾行されたんだよ、たぶんだけど村に入った時から狙われてたと思う」


「彼が諦めるとは思いませんが、闇討ちするような人物でもありません」


「刀を使うのか…面白そうだ」


「無理に戦おうとするなよ」


「分かってるさ」



 同じ武器を使う人間として単純に技量を比べたかったんだろう。俺は戦闘ってよりも搦め手で勝ったようなもんだ。

 でもさすがにジンほどの使い手には見えなかったし、ジンほどパワーと突進力があるわけじゃないから大丈夫だと思うけど。



「明日の昼過ぎにはここを出る予定ですから、それまでは大人しくしておいたほうがいいのでしょうか?」


「そこそこ痛い目には合ってもらったから、すぐに回復するとは思えんけどな」


「あぁ…そういえばだが」



 何かを思い出したかのようにジンが声をあげる。



「ここ最近様々な物が盗まれる事件が多いようだ。村に寄った旅人も被害にあっているらしい」


「物騒だし馬車の中が危険かもしれないな」


「順番に馬車で休むにゃ~」


「せっかく宿をとったのに…」



 リーシャが分かりやすいぐらい落ち込んでしまっている。だけど盗まれると困るような物は置いていないけど無いなら無いで買い足さなければいけなくなってしまうからな。



「では最初は俺が行ってこよう!」



 たぶんだけどジンは俺と黒髪剣士の話をきいてもしかしたら面白いことが起きるかもしれないと思って意気揚々と出て行ったけど、盗人に何期待してるんだか。



「まぁ順番来るまで休むか」



 なんだかんだ疲れたし、呼ばれるまでせっかくの宿を楽しまないとな。







ーー高地の村 宿の外 



 手入れのされていないボサボサ茶髪で髭を生やした中肉中背な1人の男が周囲を見渡しながら姿勢を低くして動いている。

 その男の先には1台の馬車がある。馬はおらず遅い時間なので誰もいないと踏んでいるのだろうか、慣れた手つきで馬車を調べ始めた。


 扉の前に立った男は細い鉄の棒みたいものを懐から取り出す。



「悪く思わないでくれ…これも生きるためなんだ」



 扉の鍵にむけて鉄の棒を差し込もうとした時。男は後ろから何か嫌な気配を感じた。



ーージャキッ



 振り向くよりも前に男の首元には刀が向けられていた。あまりの恐怖に男は声を発することもできなかった。



「ふむ…ただの盗人か、つまらんな」



 この馬車の持ち主一行の1人でもあるジンが刀を盗人に向けながらそう呟いた。彼はフォルカの話を聞いて自分も誰かと戦いたいと思い自ら監視を志願したのだが、特に戦闘力も無さそうな男が盗人の正体でガッカリしていた。



「こういう場合は斬り捨てればいいのか?」


「い、命だけは助けてくれ!」


「貴様は盗んだもの返してくれと叫んでいる者に返したことはあるのか?」


「そ、それは…」


「殺すと後に面倒になりそうだから連れて行くか」


「あぁぁ…」



 絶望する嘆き声をあげながら盗人の男はジンに連れられて宿の中に入っていった。








「捕まえるの速すぎないか?」


「まだ2時間も休めていません」


「それは俺に言われても困るな」



 さっそくジンが盗人を捕まえたと言うことでフォルカとリーシャは眠りについたばかりだったのに起こされてしまったのだ。

 特に宿で寝るのを楽しみにしていたリーシャは少し怒り気味だ。



「こういう場合どうするんだ?」


「村長に報告するべきですね。すぐに王都から騎士が寄こされると思います」


「勘弁してくれぇ! 頼む!」


「何故勘弁しなくてはいけないのですか? 罪を犯したのは貴方です」


「まぁこればっかしはたくさんの人に迷惑をかけたんだから償わないとな」



 なんか普段は世間様の敵になるようなことばっかりやってるけど、差別や迫害とこういった強盗は違うからな。

 迷惑かけた分償うのが当たり前だと思うけど、さすまじい嫌がり方だな。



「母ちゃんが1人になっちまう! 母ちゃんは1人じゃ生きていけないんだ!」


「なら何故このような強盗を繰り返すのです? いずれこうなることは分かったはずです」


「どうしようもなかったんだよ! 俺の母ちゃんは認知症って言って本人にはその気は無くても認知機能が弱くなり続けてて目を離すと何しでかすか分からないんだよ! 今だって起きちまってたら何してるか分からねぇ」


「そういった方に住む場所と医療設備を整えた施設が王都にあったはずです」


「王都に行く金も施設に入れる金もないんだよ! 親戚も伝手も何もねぇんだ」



 盗人ががむしゃらに叫ぶ。咄嗟の嘘にしてはリアルだったからどうなのか分からないけれど、本当だからと言って許されるもんではないけどな。



「だから見逃せと? 理由があれば何をしても許されると?」


「母ちゃんさえどうにかなればすぐにでも出頭する!」


「盗みを働こうとした私たちにそのような話をして信用するとでも?」


「まぁ…王都に行ってもらうのは確定として、その盗人の母さんとやらもほっとくのも問題だな」


「どうしますか?」



 リーシャとジンはこれ以上面倒ごとに関わるのは勘弁って感じがするけれど、もし盗人の言ってることが本当ならば、盗人の母ちゃんは1人にしてはいけないのかもしれない。



「とりあえず俺とジンで見に行くよ…リーシャは休んでてくれ」


「俺は必要か?」


「なんだかんだ大人だからな」


「仕方ない…行こうか」



 俺たちは盗人に案内させ盗人の母を見に行くために夜遅いが家へと向かった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る