第3話 八罪呪源 暴食


 村について人気のない場所で1人でトレーニングしようと思ったら尾行してきた黒髪黒目の男、ジンに似た武器を持って質問してきたけど、何言っても攻撃してきそうな敵意を露わにしている。


 俺この村に来てから歩きながら独り言しかやってないのに、この敵意の向かれようは理不尽と言うか理解不能だ。



「ただの旅の途中だ、どっか筋トレできる場所無いか探しながら歩いてただけだ」


「気配は上手く消しているようだが、貴様のような凶悪な呪い持ちがこの村に何の用だ」


「だから旅の途中だって言っただろ? 呪い持ってたら旅すらしちゃいけないのか?」


「貴様のような者が何もしない保証などないだろう」


「出たよ…過去呪い持ちが~って下りだろ? なんだよ過去にやらかしてきた奴がたくさんいたからって今を生きてる奴らは全部悪か?」


「悪じゃない理由も存在しない、それに悪影響を撒き散らす危険が大きいのは事実だ」


「…どうせ何言っても同じだろ? その腐った正義面と発言、聞いてるだけでイライラしてくる」



 黒髪の男もその気だったのだろう、俺が言い終わる前から魔力を刀に集中させている。



ーーバチッバチッ!



「雷と…霧?」



 男の体に何本かの稲妻みたいなのが走り、刀から霧みたいな視界を遮るような魔力が薄く広がっている。

 全然見えているが、少し足元が霧がかってきている、構えているんだろうが鞘から抜いていない。

 そういえば居合っていう技があるってジンが言ってた気がするな、それにけっこうな殺気の質だ。



「その凶悪な呪いが悪影響になる前に…斬る」


「デカい呪い=悪って考え…叩き潰す」



 魔力を集中させる。

 思った以上の魔力量だったのか男の顔が一瞬驚いたような気がするが関係なんてない、油断はしないし接近戦に自信あり気な雰囲気だから何時斬りこまれても対応できる力が今の俺にはある。

 右手に魔力をさらに集中させる。本当なら本体を呼んでも良いけど目立ちすぎる。



ーーバチッバチバチッ!



 男の足に稲妻のような魔力が走り続ける。重心を低くしたってことは来るな。



「紫電一閃ッ!」


歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン



ーーガキンッ!



 稲妻のような尾を引いて、きっと首を狙ったんだろう刃は俺の体を軽く2週ほどしている伸びた状態で出てきた『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』に防ぐ、少し驚いている男の刀を危険承知で掴み宣言する。



「『暴食グラトニー』」



 俺の右手のひらに獣の口のような刻印が浮かび上がる。




ーーバチッッ



 その瞬間、男の刀にも纏っていた雷の魔力と霧の魔力は音をたてて消えた。



「なっ!」



 魔力が消えたことか、刀を手掴みしてきたことかどっちか分からないが驚いた声を出しながら強引に俺の手から刀を引き抜いて後ろに飛び退く男。

 少し掌が切れたが、それ以上のものが手に入った。『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を出して消費した魔力吸収までと遠いが、「『暴食グラトニー』」はただ喰らうだけの呪罪なんかじゃない。



「『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』殺しは禁止だ」


「くっ! 蛇腹剣かっ!」



ーーギャリギャリギャリッ!



 凄まじい速度で伸びながら襲いかかる『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』、俺に敵意を向け続ける限りは俺が操作しなくても勝手に『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』がやってくれる。しかも手動より何倍もの精度と速度だから少し余裕を持てる。


 その間に「『暴食グラトニー』」で喰らった魔力の性質を頭の中で整理する。「『暴食グラトニー』」は魔力を喰らって回復するだけじゃなく、喰らった魔力の性質を理解することも出来る優れものだ。



ーーガキンッ! ズゴォーンッ!



「くぅっ! なんて速さだ」



 男は足に纏わせていた雷の魔力を体中に纏わせていてバチバチ煩い人間になっている。でも『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の攻撃を凌げるほどの速さと剣技があるようだな。



「なるほど…あの雷は身体能力を爆上げして、霧の魔力は切れ味を上げ続ける力か」



 俺は足下に薄く広がっている霧の魔力にしゃがみこんで右手を入れ込む。



「喰らえ『暴食グラトニー』」



ーーブビューンッ!



「くそ! 魔力を吸えるのか!」



 俺の右手に霧の魔力が凄い勢いで吸収されていき3秒ほどで足下を覆っていた霧の魔力は全部吸い終わった。

 まぁまぁ回復できたな。



ーーガシャァァァンッ!



「ぐわぁっ!」



 雷の魔力で速さを爆上げして凌いでいた男も耐えきれなかったのか『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』に吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた様子を見て、一旦『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を呼び出したときの長さに戻す。


 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』はぶっちゃけ攻守に隙の無い強力な技なんだけど、出し続けるにも魔力使うし、伸ばし続けるにも魔力使うから燃費の良い技とは言えない。

 まぁ燃費率差し引いてもかなり素晴らしい技と言えるけどな。


 そんな感情が伝わったのか褒めろと言わんばかりに頭を差し出してくる『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』。



「…『嫉妬エンヴィー』が怒りそうだけど、本当に最高なやつだよ」



 そういって褒めてやる。

 まだ終わってないし、油断なんてもちろんしていないけれど『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』は俺の精神とリンクしてるから余裕をもって視野を広くしとかないと、いくら相手の感情に反応するからって何があるか分からない。



ーーバチバチッバチッ!!



 倒れている男からなかなかの雷魔力が放出されている。先ほど以上に体に纏わせている魔力量が多くなるってことは、さっきより速く鋭くなるってことだろう。



ーーバチッ!



 男の姿が消えるように見える、相当速いんだけどまったく見えないレベルじゃないし、その殺気を消さないと意味なんてないぞ!



ーーガキンッ!



 最初と同じように『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が防いでくれる。

 だけど防がれた男の目は全然死んでなんかいない。ただ同じことしてきてるはずはないだろうな!



「走雷刃!」


「『啜る大喰らいグラトニーストロー』」



ーージュルッ!



「なにっ!?」



 きっと触れている『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を通して、俺に雷の魔力をぶつけたかったんだろうけど、そんな見え見えの攻撃にあたるほど俺はお人よしじゃない。

 『啜る大喰らいグラトニーストロー』は3分以内に喰らった魔力だったら右手から半径2m以内だったら触れてなくても吸い込んでしまえる技。



ーーガキンッ!



「くっ! 触れてなくても吸えるのか!」


「緊張感が足りねーよ」



ーーギャリギャリギャリッ!



「ぐぅっ!」



 飛び退いた男に追撃で伸びた『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が右肩を浅く斬る。これで『嫉妬エンヴィー』の監視マークを付与できたら良かったんだけど『嫉妬エンヴィー』本人がいないと出来ないのが痛いところだけど贅沢言ってられないな。



「はぁ…はぁ…やはり凶悪だ」


「正当防衛だろ」



 まだ余裕ありそうな感じがする。上手く気絶させたほうが良いんだろうけど、この村の人間っぽいしどうしたもんか。



「”雷化”」



ーーバチバチバチッ!



 男の体を再び雷魔力が纏う。 

 身体能力が上がるし、反応速度も向上するらしいけども突っ込んで来るだけじゃ単純だけど他に何かあるのか?



「新技見てやるほど優しくねぇーぞ!」



ーーギャリギャリッ!



 こちらから『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を伸ばして攻撃する。きっと速さで避けて仕掛けてくると読んでるけど。



ーーバチッ!



 正面から迫らせた『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を避けてきた。先よりも速くて左右どっちに避けたか見えなかったけど、居合ってのは攻撃だす方向が決まってるだろ!



ーーガキンッ!



「どうやって読んでいる!」



 方向は分かったけれど足の腱を斬ってくるとは想像できなかったけど、なんとか『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の力で守れた。こんだけ殺気増し増しだから神速で反応してくれるのが助かる。

 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を押し込めるパワーがないのが救いだな。

 にしても迂闊に近づきすぎだろ!!



「『啜る大喰らいグラトニーストロー』」



 再び男を纏っている雷魔力を吸い尽くす。先ほどよりも量が多くて少し違う感じの濃い雷魔力だな、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を安定して維持させられる分は吸えたから良い感じだし、長引かせるのは怖いからそろそろどうするか決めないとな。



「くっ! どんな力だ!?」



 後ろに飛び退いて距離をとりながら睨みつけてくる男、さすがに魔力を纏わせるのに躊躇いがあるようで突っ込んでくる気配も消えた。

 呪い持ちと戦った経験が何度かあるんだろう、たぶん俺の使っている力に統一性が見えないから混乱しているんだろう。『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を刻印から溢れ出る魔力で出したから呪いって認識は出来たけれど、まさか魔力を吸うなんて言うまったく関係性が見えない力もあるからしょうがない。



「そろそろ諦めてくれないか? 別に村に被害を出そうなんて思ってない。お前みたいに襲ってくるなら話は別だけどな」


「凶悪な呪いは存在だけで! 人々に恐怖を与える!」


「それはお前らみたいな奴が呪い持ちは問答無用で全員悪って言いふらしてるからだろうが!」


「まるで良い呪い持ちが多いみたいな言い方だな」



 男が立ち上がって再び鞘に納めたままの刀に魔力を纏わせる。もう何言っても結果は同じなんだろうか? 今後こんなようなやつをどうしていくんだ?



「良い呪い持ちがいるかなんて見もしようとする気がねぇー奴らに何言っても変わらねぇーのか?」



 こちらも魔力を集中させる。

 相手は魔術が得意なタイプには見えない。刀中心の接近戦を得意としていて速さで翻弄してくる『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が無かったらきつかった相手だ。

 何度も同じことを繰り返されるほど男も単純じゃないだろう。


 これで終わらせる。

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