第3章 無頼の稲妻 信念なき暴食

第1話 平穏な一時


「フォルカさん私より歳上なんですから呼び捨てでいいですよ」


「あぁ…よろしくフィオナ」



 ディオスクリ歌劇団を離れて3日ほど、俺たちはさらに北を目指している。王都に近づいてくる分、騎士団の連中に見つかる可能性は高くなるけれど、だからといって追わない理由にはならない。

 もう少しするとジンが一泊した村があるそうなので、そこで1日休もうと言うことになっている。 

 馬車の先頭には、エルとロロっていう本当に大丈夫なのかっていうコンビだが、ロロが大丈夫っていうので任せている。



「そういえば劇場出る直前に帝国騎士の第8部隊? だからの副長に襲われたんだよ」


「何故それを早く言わないのですか?」


「…まぁなんとかなったから忘れてた」


「帝国と言うとアルカナ騎士団だな」


「えぇ…王国騎士団のライバルのようにやり合っている騎士団ですね」


「しかもなかなかの大物だったようだな」


「騎士ってよりも暗殺者って感じだったな」


「帝国は実力主義ですからね。騎士というよりも実力者の寄せ集めに近いです」



 とりあえず国を守る存在であれば形には捕らわれていないってことか、その言い方だと王国騎士団は選ぶ際に条件があるような言い方に聞こえるな。



「王国騎士はなんか選抜基準なんてあるのか?」


「各師団の団長や副団長になるには、多くの基準と試験をクリアしなくてはならないですからね」


「大変なんだな」


「帝国は噂だと殺し合いのようなもので立場を決めれるそうなので」


「本当に実力主義なんだな」



 俺を襲ってきたおじさんも相当な実力者だったし、なんとなくだけどベテラン臭がしたんだよな。



「王国騎士団は第0師団から第10師団まで存在しています。各師団役割は違いますが王都に全師団集まっていて各地に派遣されます。この時期だと王都に収めるものを各地に回収に行っている時期です。遭遇する確率は高いですし、強力な呪いの気配のあるフォルカとジンさんは狙われるはずです」


「まぁ…どこに行っても歓迎なんてされないだろうな、帝国の騎士さんだって襲った理由は凶悪な呪いだからって言ってたしな」


「それが…今の世界の考え方ですからね」


「それを変えてやるにはどうしたもんかな」


「襲い掛かってくるなら分からせてやるしかないな!」


「旅をしながら見つけるしかないな」



 襲い掛かってくるならやられる訳にはいかないし、呪い持ちだからっていう理由で襲ってくるなら、その考えが違うって分からせてやらないといけない。



「私の力も使ってくださいね!」


「そうだな…」



 フィオナの『悲魂に響けアフェクシオン・流星歌カトル』は人に自分の発する声を何ものよりも届かせることが出来る。聞く耳もってないやつにも聞かせられるから頼れる部分はきっと多いはずだ。



「あぁ…本当に頼りにしてるよ」


「はいっ!」



 ジンとはまた違った明るさのあるフィオナだけど馴染むのが速くて、エルが特に懐いているし他のメンバーとも仲良くなっている。戦闘の特訓も軽くだけど一緒にやってくれているし、雰囲気を盛り上げてくれて助かっている。



「王国騎士で出会ったらヤバいやつとかいるのか?」


「四騎士と呼ばれている、第0師団~第3師団の団長は王国でもトップクラスの実力と言われていますし、騎士団顧問のエルゼン様もお歳とは言え王国の伝説とも呼ばれている方です」


「なんともカッコいい呼ばれ方してるんだな」


「ふむ…刃を交えてみたいものだな!」


「そういう強くて民から信頼されてるような奴らが、この世に色々言ってくれると楽なんだけどな。今の俺たちじゃ世間を変えるには発信力が無さ過ぎる」


「それは言えてますね」


「ならそいつらを倒して名を挙げればいいさ!」


「なんの理由も無しに襲うんじゃやってることが悪のそれだろ」


「なかなか難解なことを言うな」


「今は進みながら考えるしかないか…」



 とにかく戦う状況になってしまったり、悪い奴がいたら許さず進んでいけば何か見えてくるものがあるかな。

 それに悪い奴を追い続けていけば同じような考えをもった連中に出会えるかもしれないし、今は進むしかない。







ーーガントル領 北部 谷



 あれから夜になり、後半日ほどで到着するが急がず見えてきた谷で休むことにした俺たちは晩ごはんを食べながら予定を決めている。



「もうすぐジンが言ってた村にゃ、宿確保と物資と王国騎士がいないかの確認で別れるにゃ」


「そうだな」


「フォルカなんて魔術かけてなきゃとんでもない気配だから出来るだけ人目につかないようにしてるにゃ」


「困ったもんだよな」



 帝国のおっさんに襲われたように、どっかしらの騎士や呪い持ち狩りみたいなのに遭遇したら有無を言わさず斬りかかってきそうだから困る。

 村の傭兵やってるような人たちは上手くやれば避けられそうだけど、気配感じるのが上手い人だと、すぐに見つかって襲われそうだから面倒な話だな。



「関係ない話だけど聞いても良いですか?」


「どうしたにゃ? フィオナ」



 恐る恐るフィオナが手をあげて聞きたいことがあるとアピールしてくる。フィオナの視点は俺のほうをむいているけど、俺に聞きたいことでもあるのか?



「フォルカの呪いはどういったものなのですか? なんか複雑な力がたくさんあるって言ってましたけど、聞かないほうがいいですか?」


「私も知らないです」


「俺も知らないことのほうが多いぞ」


「私も…」



 フィオナの発言にロロ以外の全員が待ってましたと言わんばかりに追撃してくる。

 正直多すぎて話すのが面倒なんだけど、話せる部分だけでも教えておいたほうが何かあったとき役立つのか?


 ロロ以外のメンバーの顔を見ると我慢できないかのように待っている。



「そんな気になるのか?」


「そんな複雑な呪いは見たことも聞いたこともありません」


「戦う時に気を付けたほういいことが多いなら今のうちに知っておいたほうが楽だ」


「気になります!」



 ただの興味関心は置いといて、ジンの意見は納得できるな、確かに『八罪呪源アマルティア・オクト』の力は俺以外が対象になるから巻き込みやすいってのも考えておくと教えといたほうがいいのか。



「長くなるから俺なりの言葉でいいか?」



 全員激しく頷いてくれている。とても話しづらい空気で正直嫌だな。



「ちなみのこのメンバー以外に漏らすなら…その漏らした状況にもよるけど、今は仲間だろうと容赦できないかもしれない」



 その俺の一言で緊張感が高まる、特にエルとフィオナはごくりと唾を飲み込んでいる。親しき中にも礼儀ありだし、『八罪呪源アマルティア・オクト』は俺のすべてだから基本知られたくはない。



「『八罪呪源アマルティア・オクト』は8つの力で、それぞれ性質も違えば、それぞれを発動しているときに放てる技もまったく違う。でもどの技も発動している呪罪の性質を応用したものになっている。1つずつ簡単に性質を説明してくよ」



 いきなり8つ教えて覚えられるかどうかは分からないけど、とりあえず覚えておいて欲しい部分を教えとくか。



「最初は『虚飾ヴァニタス』だな。ジンやリーシャは食らったことあると思うけど、『虚飾ヴァニタス』発動中に範囲内に居る誰かが「恐れ」「怯え」なんていう感情を抱くと、その感情を増進させて、こちらの魔力量も増える力だ。とりあえずビビらず落ち着いていればどうにかなる」


「聞けば簡単に聞こえるが、やられた立場としては難解な能力だな」


「気付かれると無力に近いものですね」


「まぁ魔力はかなり使うけど、発動する呪罪は切り替えれるからな。細かい技説明していると朝になるから次行くけど、2つ目は『嫉妬エンヴィー』って言って、小さい子の形してるんだけど、話しかけた相手の感情を引き出して暴く能力みたいな感じで、後は監視や集団戦に役立つ技があるな。この『嫉妬エンヴィー』だけ他の能力より一歩進化してて、ヴァネッサさんのときに出てきた青いドレスの人だな」


「とんでもなく速くて伸びて大きくなっていた剣を持つ人ですね」


「あれは剣なのか?」


「剣の性質のある生き物だよ、ちゃんと生きてるし呼吸もしてる」


「でも可愛い人でしたよね。フォルカにすっごい甘えてました」


「そこは呪罪それぞれの性格次第ってとこかな」



 『嫉妬エンヴィー』は唯一『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』していて、相性も良くて波長も合う、どの呪罪も使う相手で代償は無くなったけど、それでも使いやすいし話を聞いてくれるから助かっている。



「んで、その一歩先の力が『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』っていう契約なんだけど、それすると契約した呪罪の力の1つがいつでも使えるらしいんだ。でも使える技は変更できず、消費する魔力も大きくなる」


「にゃ~、『嫉妬エンヴィー』の技のうちどれかを、いつでも使えるようになったのかにゃ~凄いにゃ」


「どんな技に決めたんだ?」


「エルとロロ以外は見てたと思うけど、こいつだ」



ーーゴウッ!



 右手に魔力を集中させる、正直何もない時に出したくないけど寝る前だし短時間なら魔力消費も少なくて済むからお披露目程度にはいいだろう。


 フォルカの右手に青黒い魔力が集まっていき、右手のひらに一本の剣ギザギザして先端が蛇の頭になっている一本の剣が握られていた。



「その剣はお母様との戦いで青い髪の子がもっていた剣」


「あぁ…『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』って言うんだ」


「さっきまで話してたやつだな」



 俺が名前を呼ぶと、グネグネと動き始めて頭を撫でて欲しいのか位置を調整してじっと待っている。



「主人と似て甘えん坊だな」



 撫でてやると音は出さないけれど目を閉じて気持ちよさそうな感じを出している。



「本当に生きてるんだな」


「あぁ…本当に可愛い奴だよ」



 そう言って『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を消す。短時間呼んだのは申し訳ないけど、けっこう魔力使うからしょうがない。



「ほ、ほかにも契約とやらをしたら、そんな凄いのが使えるんですね」


「今の俺じゃぁ、他の奴らはまだまだ認めてくれないけどな」



 全部と契約出来るのは何時になるのかなって考えながらため息をつく。正直魔力量と相性の問題だから、簡単に解決できるもんじゃないんだよな…。


 俺はそんなことを考えながらまだ長くなるからと、とりあえずお茶を入れなおした。

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