第14話 隠者


 ヴァネッサさんの休ませて、元気な劇団員たちで復旧作業が始まった。本来なら俺たちは今日中に去る予定だったが、なかなかの戦闘だったので1日追加で休ませてもらうことにした。

 

 そして何故か今、フィオナさんとサンドラさんのと一緒に食堂にいる。サンドラさんが出来れば聞いていて欲しいとのことだったので仕方ないけど、なんか居づらいな。



「その…さっきも言ったけれど、ごめんね色々と」


「それはもういいんです、サンドラ姉様」



 フィオナさんがきっぱり言い切る。サンドラはそうくるだろうなっていうような表情をしている。



「これからもご指導よろしくお願いします!」



 フィオナさんが深く頭を下げてサンドラさんにお願いする。呪いの力もコントロールすることが出来て、念願の歌うことが出来るようになったからだろう。



「それはお断りよ」


「「えっ?」」



 フィオナさんと同時に俺も同じような気の抜けた声を出してしまう。まさかここに来て断るってどういうことだ?



「どうせ当分復旧に時間かかるから、夢だった世界でも旅してきたら?」


「復旧手伝います!」


「せっかくだからこの期間で世界を知るのも1つだと思うわ」


「……」



 この人数がいない中、旅してこいなんて何を考えているんだか、別に仲良くやればいいのにな。

 フィオナさんはショックなのか俯いている。せっかく呪いを克服して姉と歌えるようになったのにって思ってるだろうな。



「でも決めるのはフィオナよ、他の人にも意見を聞いてみるといいかもね」



 そう言ってサンドラさんは食堂を出て行ってしまった。って俺を呼んだのは話の後の今の時間をどうにかしろってことかよ!

 部外者が口を出しすぎると良いこと無さそうだから嫌なんだけど、どうしたものだろうか。




「フィオナさんのやりたいようにやればいいよ」


「やりたいように?」


「あぁ…誰かに言われたからじゃなくて、自分で決断してやればいい」


「私が決める…」


「あぁ…強い決意と覚悟があれば、きっと後悔は少ないはずだと思う」


「考えてみます」



 少し俯いてフィオナさんは食堂から去っていった。


 俺も明日出発する前に確認しておきたいことがあるから、船から出て人目のない場所でも探すとするか。








ーー船外 南 森



「ここらへんなら大丈夫か」



 辺りをキョロキョロと見回しながらフォルカはそう呟くと、自身の刻印に魔力を集中させる。



「『平等ヨリ 生マレシ者 来タレ 『嫉妬エンヴィー』」



ーーブワッ!



 青黒い魔力がフォルカから放出される。フォルカからすればここ数日ずっと世話になり続けていた懐かしい魔力色だ。



『は~い!!』


「さっきぶり『嫉妬エンヴィー』」


『本当にすぐ呼んでくれたんだね! 何が聞きたいの?』


「話が早くて助かるよ」



 フォルカはヴァネッサとの戦いで、ほぼ勢いで『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』をしてしまい扱い方を判らずにいた。現状自在に扱える最高戦力になった『嫉妬エンヴィー』のことと、ようやく1人目の契約をした『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』の代償について詳しく聞いておきたかった。



『じゃ~、まずは『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』の代償について!』


「よろしく頼む」



 フォルカと『嫉妬エンヴィー』はちょうど座りやすそうな岩を見つけたため、そこに腰かけて話を続ける。



『あたしたち『八罪呪源アマルティア・オクト』は皆本当の名前を封じられてる、『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』をしてないときは、それぞれの呪罪の形にされているのは分かるよね? あたしだったら今みたいな小さい子どもの姿にされてる!』



 岩に座りながら足をパタパタ動かして子どもアピールをする『嫉妬エンヴィー』、今の姿は本来のものではなく呪罪が形を成した者であり、本来の名前と姿は封印されていて自分の力では解き放てないようにされてしまっているらしい。



「なるほどな、あれが『嫉妬エンヴィー』の本来の名前と姿か…そんなに外見変わらないもんなのか?」


『あたしは『八罪呪源アマルティア・オクト』の中でも呪言によって段階を変えて出てこれる唯一の呪罪だから特別だよ~!』


「そうなのか…」


『じゃ~『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』してっ! 本来の姿になりながらのほうが説明しやすいもん! 一回契約したから魔力も少し余裕あるでしょ?』


「まぁ…そう言うなら仕方ないか」



 ほとんど何もやってないとは言え、ヴァネッサさんとの戦いで魔力を消耗してるけど保有量が増えたおかげか、けっこう元気なのが驚きだ。まだ契約したのは1つだけなのに、これが後7つあるってどうなるもんだか。


 早く真名を呼んでほしそうなので、魔力を集中させる。



呪罪真名トゥルース・シン無限大の愛を抱く魔神インウィディア』」


『うん!』



ーーゴウゥッ!!



 最初の契約時とは違ってデカい魔力の渦は怒らないけど、爆発的な魔力圧が辺りを包む。

 

 船からけっこう距離をとったし、ロロに気付かれても知ってる魔力だろうから気にしてこないと思うから安心だな。



『本日2回目! 今のあたしの名前長いかもしれないからインヴィでいいよっ!』


「あぁ…改めてよろしくな、インヴィ」


『うん! あたしがフォルカの1番最初の『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』だもんね!』



ーームギュッ



 さっきもそうだったけど、いつも以上にくっついてくるようになるんだな。まぁ害はないし近くに居てくれるほうが、何かあっても俺が安全だから良いんだけどな。


 そんなことを思いながら大きくなって身長差が減って撫でにくくなった頭を撫でてやる。

 

 するとインヴィも嬉しそうなんだが、それ以上にインヴィの持っている剣がクネクネとこちらも嬉しそうに動いている。



『へへっ、この子はあたしの一部なんだ! 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』っていう剣なんだよ!』


「へぇ~、かっこいい名前なんだな、よろしく『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』」



 そう言って剣の先についている蛇の顔のような部分を差し出してきたので、ゆっくりと撫でてやる。

 剣のような硬さがあるのに、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』は薄く呼吸してるし、よく見たら瞬きもしてる、インヴィの言うように一体の生き物だな。



『えへへ! この子はね、あたしの感情をそのまま受け取って動いてくれる優秀な子なんだよ!』


「とんでもない速さでカエルを食い千切ってたな」



 誰も反応できていなかった、カエルなんてやられたことにすら気付く前に『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』に食われてたからな。


 心地よさそうに撫でられていた『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が、急に離れて遠くのほうを見る。



『あたしの大事なフォルカに、ちょっとでも敵意なんて向けようもんならね、こんな風に…』



ーーズガァァァァンッ!!



 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』は凄まじい勢いで森の奥のほうに伸びていき何かに激突したような激しい音を響かせる。



「ってなんかいたのか!?」


『うん! 少し前からあたしたちに明確な敵意をもって監視してた悪いやつがいたの!』



 少し前から居たのなら教えてくれよって思うけど、それを見越してインヴィは自然な流れを作るために『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』を俺に頼んできたのかもしれない。


 魔力の保有量はあがったかもしれないけど、基礎能力がまだまだなんだな。



「ちなみに人か?」


『うん! 4人は倒したけど1人はこっち向かってくるね!』


「どんな人かみたいから少し様子見していいか?」


『はぁ~い!』



 気付けば元の長さに戻って警戒している『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が向いている先から、1人の銀・黒・赤がバランス良く使われた鎧をまとった男がやってくる。


 身長は俺と変わらない、鎧にフードも被ってて顔は見えない白い髭だけ見えるけど。そして武器は持っているようには見えない。

 あの鎧は確かクピドゥース帝国の鎧だったような気がするし、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の攻撃避けたんだったら猛者って可能性もある。



『こんにちわ! あたしのとフォルカの話を邪魔する貴方は誰?』


「……」


『フォルカ~、無視されたよ~!』


「帝国の騎士が王国領土で何やってるんだ? それなりに立場ある格好に見えるけど休戦中に偵察にでも来てたのか?」


「……」


「インヴィ、俺も無視されるんだが」



 さすがに攻撃してきた呪い持ちに情報は明かさないのは理解できるけど、まったく話をしてくれないのは、それはそれで悲しい。


 でも退かずに近づいてきたってことは用があると思うんだけどな。



 目を離さず、どう動くか考えているフォルカが何も考えず瞬きをした、その瞬間には男の姿はなかった。



ーーガキィィンッ!



「っ!?」


『無駄だよ~』



 フォルカの少し後ろでナイフ片手にフォルカへ斬りかかろうとしている帝国騎士と『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が鍔迫り合いをしていた。


 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が動くのは少し反応できたけど、そこの帝国騎士が動くのはまったく分からなかった。



「……やるな」


「はぁっ!」



ーーブゥンッ!



 やっと声をだした帝国騎士に向けて振り向いた勢いで右の裏拳をかまそうとしたが、すでにそこにはいなかった。


 もう1度振り向くと移動する前にいた場所に帝国騎士は立っていた。



「俺もまだまだ未熟だとは言え、アンタ何者だよ」


『気付かないのも無理ないよ~、気付かれない能力もってるんだもん』


「……ほう」



 インヴィの発言に関心したように帝国騎士が頷く、インヴィの言ったことは正解のようだ。

 正直インヴィと『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』がいなかったら殺されてたな。



「王国に偵察に来てみて、凶悪な呪いの気配がすると思えば、こんな面白いのがいるとはな」


『急にベラベラしゃべったよ!』


「あんたの部下には悪いことしたよ、でも気絶してるだけだろ?」


「…足手まといなぞいらん」


「随分冷たい上司なんだな」



 話すようになったのはいいけど、まったく隙がないし顔隠してて視線が分からないから読みづらいな。

 でも武器はナイフだったのを見ると不意打ちや暗殺で戦うタイプってことか。



『いくらあたしたちが強くて、自慢の部下がやられたからって怒らないでよ』


「……」



 インヴィが魔力を乗せて帝国騎士に話しかける。魔力を乗せたってことは先の帝国騎士の発言に何かしらの感情を見つけたのだろう。



『自分の育成力が不足していたって素直に言ったら~? しかも自慢のかくれんぼ力も、あんなに距離あったのにバレちゃったってさ!』


「言ってくれるな…小娘」


『正確にはどんな力かまだ知らないけど、コソコソやるしか出来ないなら降参したら? 怖くて名前が名乗れないような小物だから今なら見逃してあげるよ? ね?フォルカ?」


「あぁ…今なら黙っとくよ」



 とりあえずインヴィの話に乗っておく。これで感情を露わにしてくれると嬉しいんだけどな。


 帝国騎士がフードを脱ぐ、そこには白髪でけっこう歳のいっているように見える男の顔があった。いくつか傷があるので戦いは経験多いような印象を受ける。



「帝国騎士団 第8部隊 副長で「隠者ハーミット」と言う名を貰っている者だ」


「副長…」

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