第13話 愛と嫉妬は表裏一体


 ヴァネッサに狙われたフィオナを庇うようにして立ちはだかるサンドラ、ヴァネッサは面白がってサンドラに問いかける。



「これは貴方の望んだ結果ではなくて?」


「こうなったのは…私のせいだけど、こんな結果を望んでたわけじゃないし、魔物になるだなんて知らなかったんだもの」


「サンドラ姉様…」


「…今更謝って許される立場なんかじゃないけど、しっかりケジメはつけるわ」


「昔から自分の感情に正直な貴方らしいわね。でも貴方如きじゃ壁にすらならないわよ」


「…それでも私はここから引くわけにはいかないもの」



 自分が吹き飛ぼうがバラバラになろうが、この事件を劇団に引き込んで壊滅的な被害をもたらしたのはサンドラだ。

 彼女はその現実に報いるためにも、今まで批難してきた妹にほんの少しの罪滅ぼしをするためにも、震える足を言い聞かせながらヴァネッサに立ちはだかる。



「ごめんねフィオナ、私貴方にずっとみっともない嫉妬をしていたわ。こんな姉でごめんなさいね」


「サンドラ姉様…そんなことありません、今から一緒に仲良しになりましょう」


「最後に仲良くなるなんて、親の前で泣かせてくれるわね。話は終わりでいいかしら?」



 フィオナがサンドラに向かって微笑む。


 こんな立派な決意を見せられて何もしないなんて恥ずかしいし、この2人のこれからを壊させるわけにはいかないな。



ーーゴゴゴゴゴゴッ



「な、何かしら?」



 船が揺れ、甲板のいたるところが軋む音がする。

フォルカと『嫉妬エンヴィー』から青黒い魔力が溢れだす。



『やったー! あたしが1番だ!』



 ヴァネッサの言葉にかけられて動けないでいたはずの『嫉妬エンヴィー』がドレスで躓かない程度に飛び跳ねる。



「な、何故?」


『あたしたちが本気出せば、その程度痛くも痒くもないもん』



 『嫉妬エンヴィー』がフォルカのほうに歩きながら言う。フォルカに向き合うような形で前に立った『嫉妬エンヴィー』はフォルカの両手をとって自身の胸の高さまで持ってきて、フォルカと目を合わせて尋ねる



『本当にいいの?』


「あぁ…新しく出来たこの家族愛を壊させる訳にはいかないだろ?」


『サービスだった『憤怒ラース』の時とは違うよ? この力を手にしたら世界中から狙われちゃうかもね?』


「元々世界を変えるつもりだったから今更だろ」


『本当…最高だよフォルカ!』


「さて、行くか…『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』」


『はい…我が主よ』



ーーブワァッ!



 その瞬間、天に届くような勢いでフォルカと『嫉妬エンヴィー』を中心に青黒い魔力の渦が巻き起こった。










 魔力の渦に吹き飛ばされそうだったフィオナたちは突如張られた流れる水で出来ているような結界に守られた。


 そして何故かヴァネッサにも同じ結界が張られていた。


 青黒い渦が納まるとそこには、特に変わりがないように見えるフォルカと、大きさは変わらないが、肩まで伸びる青が混じった黒髪だったのが1本の青いメッシュが追加され、耳には渦巻いた蛇のようなのがついているイヤリング、青いドレスは変わらず右手には1本の少しギザギザして先端が蛇の顔のような剣をもった『嫉妬エンヴィー』が微笑みながら立っていた。


 フォルカは微笑む『嫉妬エンヴィー』にむけて、本来の名前を告げる。


 

呪罪真名トゥルース・シン無限大の愛を抱く魔神インウィディア』」


『はーい!』



ーームギュ~~



 大きな返事と一緒にフォルカに抱き着く『嫉妬インウィディア』、足が浮くほどしっかり抱き着いてパタパタと動かして喜びを表している。



「止まりなさい!」



見かねてヴァネッサが2人に向けて言葉を放つ。



『聞こえませ~~ん』



 ヴァネッサの言葉通りのことは起きず、『嫉妬インウィディア』は引き続きフォルカに抱き着いてパタパタしている。


 さすがに状況が把握できず、自身も結界のようなものに守られているジンが声をかけてくる。



「そろそろ説明してもらえんのか?」


「あぁ…すまん『嫉妬インウィディア』俺もよく分からんから説明してくいれ」


『今そこのカエル以外が入っているのは『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』って言う結界で中に居ると外からも中からも安心安全なんだ!』


「説明が適当だな」



 あまりにも簡単な説明をしているのでジンたちも呆気に取られているが仕方ない、ヴァネッサも聞いてるからな。


 『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』に包まれた者は、魔力を練ることも発動することも出来ず、結界に対する攻撃と判定されるものは触れる直前に向きを捻じられて他のところに向かってしまう。中にいれば安心安全だけど何もすることは出来ない存在になる。ただ包める対象の大きさは限られている。



「すごいキレイですね」


「魔力を集中させれない」



 フィオナとリーシャがそれぞれの反応をしている、ヴァネッサも困ったようで何をすればいいのか考えているようだ。



「くっ……あの2人を喰らいなさい!」


『あたしのフォルカを狙うの?』



ーーグシャッ!



 ヴァネッサに指示されたカエルがピクリとも動くその前に。


 『嫉妬インウィディア』が手に持っていた剣が伸び、そして巨大化してカエルの上半身を食い千切っていた。

 誰も反応できないほど速さで食い千切られたカエルも自分が真っ二つになったこと気付いていないかのように足だけ動いている。



『ダメだよ…あたしだけのフォルカだもん』



 大蛇のようにグネグネ動いている剣が先端にある口を大きく開けてヴァネッサのほうを向いている。



ーーザァァ



 ヴァネッサに貼られていた『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』の水で作られた結界が流れ落ちるように消滅する。

 ゆっくりと蛇剣が上からヴァネッサに近づいていき。



ーームギュッ!



『ひゃっ!!』


「やりすぎだ」



 抱き着いていた『嫉妬インウィディア』をさらに強く抱きしめたフォルカ、驚いた『嫉妬インウィディア』と連動するかのように蛇剣もヴァネッサを口に入れる少し手前で停止した。


 死の恐怖から解放されて安心したのか、ヴァネッサはその場に尻もちをつくように座り込む。



『ご、ごめんねフォルカ! ちょっと熱くなっちゃって…ね?』


「怒ってないって、本当に助かったよ。ありがとう」


『うん! 後は大丈夫?』


「あぁ…またゆっくり話そう『嫉妬インウィディア』」


『うん! すぐ呼ばないと怒るからよ!』



 『嫉妬インウィディア』しっかり空気を呼んだのかフォルカにバイバイと手を振って消えていった。

 

 それにしても自分でも驚くくらいに魔力の保有量が上がってる。人としてなんか進化したような気分だ。

 とりあえずへたりこんでるヴァネッサさんを元に戻さないと。



「一体何をしたらいきなり化け物になるのかしら?」


「それ俺に言うのかよ」


「…負けよ、素直に元に戻るわよ」


「自分で戻れるのか?」


「えぇ…そんな強大で目立つ呪い、この先大変よ?」


「そんなの承知の上さ」


「でも…久々に全開で動けて楽しかったわ」



 そう言ってヴァネッサは気絶したようで地面に倒れた。


 なんとか『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』を使って勝つことが出来た。強くなったし結果オーライかもしれないけど、『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』を使わないと勝てないような戦いが今後増えるかもしれないって考えると憂鬱な気分になるな。


 甲板は悲惨な状況、復旧作業にかなり時間がかかりそうだけど、俺たちは行かなくちゃならないからな。


 俺は疲れて倒れているジンとリーシャ、互いに泣きながら謝り合っているフィオナさんとサンドラさんにヴァネッサさんを運んでもらうのを手伝ってもらうことにした。


 




 

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