第11話 悲魂に響け流星歌


 ヴァネッサから放たれて巨大カエルの力で増幅し、放った言葉の対象を言葉通りしてしまうことが出来る『悲魂に響けアフェクシオン・流星歌カトル』、それに対してリーシャは盾に溜めていた魔力を解き放って発動する『星空領域スターリーヘブン・魔雲盾ジ・アイギス』を展開する。


 『星空領域スターリーヘブン・魔雲盾ジ・アイギス』はリーシャの盾に大量の魔力を注いでから解放する、結界魔術のようなものである。物理的な攻撃は防げないが、魔術的な物はすべて星空のように輝く魔力のベールがかき消す守りの技だ。

 この技をリーシャは最大2人に対して使用することが出来る。



「…立派な障壁ね、まさか防がれるなんて」


「はぁ…はぁ…溜めがかなり必要な技なので、ペラペラ話をしてくれて助かりました」


「防いだのはいいけれど、そんなに魔力を使って大丈夫なのかしら?」



  満点の星空を思わせる魔力のベールはリーシャとフィオナを包み込んでいる。ヴァネッサの強化された『悲魂に響けアフェクシオン・流星歌カトル』を防げる守りの技だが、溜め時間と消費魔力が欠点、だがリーシャは細剣をヴァネッサにむけて言い放った。



「この技はベールに包まれている者にしか効果が無い訳じゃありませんよ」



ーーガシャ!!



「なっ!?」


「おぉぉ! 1ノ太刀 集刃しゅうじん一伍一降いちごひとふり!」



 ヴァネッサの言葉によって床に打ち付けられて身動きがとれなかったジンが突如、刀に大量の魔力を纏わせた状態でカエル目掛けて飛び込んでいく。



ーーガキィィィンッ!!



 ジン渾身の1太刀はカエルの舌に防がれる、ジンも想定して無かったようで驚き隙を見せてしまう。



「なっ! こんなに堅かったのか!」


「”吹き飛びなさい”」


「しまっ!?」



ーーギャリギャリギャリギャリッ!



 ジンは再びリーシャたちのほうへ吹き飛ばされるが、なんとか刀を地面にさして勢いを殺したことで最初程吹き飛ばされずに済む。

 攻めにくい現状に少しイラつくようにジンはリーシャに問う。



「リーシャ行けるか?」


「長くはもちませんが行けます」



 2人は自身の武器を構えてヴァネッサへと突っ込んでいく。










 目の前で恐ろしい戦いが行われている。


 フィオナは眼前で行われる母と仲良くなれた客人の戦いから目を背けることができないでいた。母から明かされた自身の呪いと、その影響力。



(…お母様の不調が私のせいだったなんて)



 舞台に立つための練習、私の夢である「世界中の人たちを歌の力で笑顔にしたい」、その夢にためにお母様は自身の身を削ってくれていただなんて。

 それは自分と同じ呪いだったから、次の歌姫としての可能性を見出したからだろうか?

 1つの部屋に閉じ込められ、まともに生んだ親の顔を見たこともない私に対して同情したからなのだろうか?


 ネガティブな感情ばかりが浮かんでくる。



(私が歌えば…人に悪影響を与えちゃう)



 世界中で歌いたいなんて夢のまた夢だ。

 今だってリーシャさんに守られているけど、早く逃げなかったから足手まといになっている。

 そもそも何でこんなことになってるんだろう? 劇団員が魔物になったように、お母様も魔物みたいになってしまった。


 どうすればいいんだろうか? 今は守られているけど、2人とも素人目からしても苦戦しているように見える。



(私は…お母様のように呪いをコントロールしていない)



 コントロールしたところで役に立てるのだろうか? 自身の声を、想いを母に伝えることが意味あるのだろうか?


 私は…何をするために生まれたんだろう?


 自分の声を聞いた人を不幸にするため? 世界の歌姫をボロボロにするため?



(……違う)



 フィオナの目に力が宿る。



 私は歌いたい。

 呪いのせいで人を不幸にしちゃうかもしれないけれど、お母様だって制御して、みんなの前で楽しそうに歌っていた時があったんだもの。


 まだまだ未熟だし、舞台に1度も立ったこと無いけれど、私は歌いたい。

 歌の素晴らしさを世界中の人に届けたいから、お母様に憧れてから1度だって変わらない夢を捨てたくない。こんなところで終わりたくない。


 世界中の人を笑顔にするまで死ねない。


 私が情熱をもてるのは……歌うことしかないんだから。


 1つ1つの言葉に私が乗せれるだけの想いを込めて、お母様…目を覚ましてこの決意を聞いてもらうため、私の言葉をしっかり聞いてもらわないといけない。



「覚悟は決めたよ…」



 自分の喉と足首に刻まれた呪いが焼けるように痛いが、そんなことを気にせずに、フィオナは1歩前へと踏み出した。






「体がもたんぞ」


「魔力も尽きます」



 ジンとリーシャは迫りくるカエルの鞭のようにしなる舌とヴァネッサからの攻撃に、なんとか崩されないように持ちこたえつつ、隙を狙って攻撃を試みていたのだが。



「結局、吹き飛ばされて振り出しに戻るだけだ」


「私のほうは防げますが、カエルの舌が速くて…」



 ジンはカエルの攻撃を避け切れるが、ヴァネッサには近づけず、リーシャはヴァネッサの攻撃は展開している『星空領域スターリーヘブン・魔雲盾ジ・アイギス』の効力で守れるが、カエルの舌に反応しきれない。

 体力と魔力を無駄に消耗しているだけの展開にされていた、ヴァネッサの魔力は尽きるような気配はまったくなく、リーシャの展開している『星空領域スターリーヘブン・魔雲盾ジ・アイギス』は限界を迎えていた。



「自慢の星空もそろそろ朝を迎えてしまいそうね」


「くっ」


「いかんな…俺たちは策を考える頭が足りん」


「私もですか!?」



 同じような攻防を、さすがに4度5度と繰り返していたのでジンもこれ以上突っ込むのに戸惑う。

 だからといってジンはどうしていいもの考えるのは得意じゃないので思いつくわけでもない。



「私も力に慣れてきたわ…そろそろ3人とも餌になっていただこうかしら」


「カエルの餌なんて御免です!」



 リーシャは細剣に魔力を纏わせて突っ込む。『星空領域スターリーヘブン・魔雲盾ジ・アイギス』の発動時間が僅かなので考えている時間も惜しいのだ。



「貴方にこの子の攻撃が避けれるかしら?」


「はぁぁぁぁぁ!」


「俺もいる! 2ノ太刀 流刃りゅうじん星薙蜻蛉切ほしなぎとんぼぎり!」



 リーシャは渾身の突きを、ジンは魔力を纏わせた刀を横に薙ぎ払うような構えで突貫する。



「何度やっても同じこと!」



 ヴァネッサはジンのほうを向いて、先ほどと同じように吹き飛ばしてやろうと狙いを定める。



「”お母様! 私を見てください!”」



 戦場に不意に響くフィオナの声、何故かその声は、戦場のどの音よりもヴァネッサの脳に響き渡る。

 それは思わず声の主を戦いの最中に見てしまうほどに。

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