第7話 1人でも煩い奴が4人もいたら大変なことになる


 フィオナさんとサンドラさんの話し合いに『嫉妬エンヴィー』の力を使って、いい情報が聞けそうだったのにタイミングが悪く狼男の遠吠えが外から聞こえてきたので『嫉妬エンヴィー』背負って走って向かっている。



『もう少しで掘り出せそうだったのに~、でもあの子が黒っぽいね!』


「なんかもらったみたいな言い方だったなっ」



 全力で走っている時でも、普通に話しかけてきて来るから大変だけど、サンドラさんはの言い方的に、ただのクッキーはじゃなくて、何か呪いの力が解けると分かった上で渡していたように聞こえた。


 あの狐面の顔が一瞬よぎる…でも知らないやつから貰ったものを確認もせずに混ぜる奴がいるのか?



『たくさんいる気配だねっ!』


「くそっ! 急ぐぞ!」



 呑気な『嫉妬エンヴィー』を背負うのに疲れたが、さらにスピードを出して俺は外へと向かった。







ーー船外 広場



「ふむ…数が多いな!」


「そんな落ち着いている余裕ありますかっ」



 ジンとリーシャは、自分たちを囲んでいる狼男の攻撃を連携で捌いていた。劇団の警備員では歯が立たず、何人かは負傷してしまっている。



「12体ほどか…今日こんなに多いのは理由でもあるのか?」


「狼と言うには速さがないので助かりますが…数が多すぎます」



 しかも本能のまま攻撃してくるのではなく、こちらの動きをよく見ているのが変わった特徴だ。

 

 狼男たちの様子を見つつ、構えていると相変わらず重苦しい魔力を纏ってフォルカがこちらに走ってきた。


 狼男たちも上手に4匹だけが連携してフォルカのほうを向き、迎撃しようとしている。



「2人とも大丈夫か!?」


「おう! 数が多い! 1発もらうと崩されるから気をつけろ!」



 2人の無事を確認しながらフォルカは魔力を集中させている。背負っている『嫉妬エンヴィー』に首を少し傾けて問う。



「『嫉妬エンヴィー』やれるな?」


『たくさん頼ってくれていいんだよ~!』


 

 その言葉を聞いたフォルカは息を吸って呼吸を整える。


ーーそして



『妬ミ ソレ即チ無限ナリ』



 新たな呪言を唱えた瞬間、青黒い『嫉妬エンヴィー』の魔力は爆発的に広がった。








『狼さ~ん! こっちこっち!』


『違うよ! あたしを見て!』


『あんなのよりも! あたしのほうがいいよ!」


『一緒に木登りしよ~よ!』



 フォルカの眼前には、木に登ったり、走り回ったり、テントの陰に隠れたり、踊っている4人の『嫉妬エンヴィー』がいた。

 『嫉妬エンヴィー』は段階で呪言が違う呪源で今のように最大4体まで増やせることが出来る。この4体は別個体で、魔力消費は激しいけれど、その場の判断で4体がそれぞれ行動できるのが強みである。


 そして4人同時に技を発動すると…。



『『『『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』』』』



 12体の狼男たちは目を回したように顔をキョロキョロさせて、一斉に膝をつきはじめた。

 ただでさえ、目的の対象よりも他の目立つものに視線を移させる技が『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』だ。騒いで走り回る4人の『嫉妬エンヴィー』に俺たち3人、向いてしまう視線が変わる変わるで、どうにか落ち着かないと立ってすらいられないはずだ。



「2人とも今だ! 早く元に戻してやろう!」


「はいっ!」



 狼男が隙を見せた瞬間3人が素早く一斉に動き出す。



「悪く思うなよ!」



ーーバキッ!



 フォルカは一発気絶できるように顎を殴って脳を揺らしてダウンさせようと次々とアッパーをかましていく。



「アオォォォーーンッ!」



 危機を感じたのか『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』を潜り抜けて1匹の狼男がフォルカに襲い掛かる。



「星薙ぎ!」



ーーズゴォォォ―ーンッ!



 フォルカに襲い掛かる狼男の横っ腹にジンの薙ぎ払いが炸裂し、テントをなぎ倒して吹き飛んでいく狼男、完全にジンは周囲のことなんて考えていない。



「あんまり大ケガさせるなよっ!」


「吹き飛ばしただけだ!」


「ガァァァァ!」



 無我夢中で爪を振り回してくる狼男の腕を屈んで避ける。右拳に魔力をためて!



「叩き込むっ!」



 がら空きのボディに渾身のストレートを放つフォルカ、ゴキッと鈍い音を立てて倒れこむ狼男、一撃でけっこうな量の魔力を拳と同時に叩き込んでいるので消耗も激しいフォルカ、汗を拭いながら周囲を確認する。



「凄いです…一瞬で制圧できました」


「相変わらず訳の分からん技だな」


「はぁ…はぁ…そうだな、ありがとう『嫉妬エンヴィー』!」


『『『『は~い!!』』』』



 魔力の限界だったのか我慢できず一声かけて『嫉妬エンヴィー』を消すフォルカ、立ってられないのかその場で座り込んだ。



「昼から『嫉妬エンヴィー』を出しっぱなしだった上に、今のはキツイな」


「ふむ…どうせ、この後面倒なことになるから一旦休んでおけ」


「すまん…ジンにリーシャ、後片付けは頼んだ」


「はい、任せてください」



 フォルカは襲い掛かる睡魔に抗えず、その場で眠りについた。







ーー船内 廊下



 狼男たちの襲撃はなんとか3人の力で被害を最小限で抑えることに出来たが、広場は被害が大きく、昨日と同じように狼男たちは劇団員の男で、12人も倒れてしまい、他の男の劇団員も次は自分じゃないかと怯えてしまう状況、激怒をしながらも座長は「明日からの公演を一時中止することをマザーに伝えるから、全員で片付けだ」と警備員も含めた、すべての人間で夜の広場で片づけを行っている。


 エルはロロを連れて、片付けの手伝いが一段落したので部屋に戻ろうと船内の廊下を歩いていた。



「狼になった人たち…大丈夫かな?」


「にゃ~」



 声を聞かれると面倒なので、劇団に来てから話をしないロロ、2人が歩いていると、ほとんどの人が外にでているはずなのに、部屋の近くにある団欒スペースから声が聞こえてきた。



「そんなはずがないわ…」



 さすがにエルも2回劇を見たので、この声は覚えていた。


 サンドラさんの声だ、とエルは声をかけるため団欒スペースで1人座っているサンドラに近づいて行った。



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