第5話 衝撃の歌姫
劇団員が狼男になってしまう事件の翌日、フォルカたちは昨日に続き、フィオナの案内で船内を見て周っていた。
事件はほとんどの劇団員の耳にしっかり届いているらしく、それはフィオナにもしっかり入ってきていた。
「皆様、昨夜はお客様でありながら劇場を守っていただいて、本当にありがとうございます」
「あれくらい刺激があったほうが面白いがな!」
ジンがまったくかみ合わないことを言いながら笑っている。2人けが人が出たが、動揺しているような様子は見られず、どの劇団員も黙々と準備をしているように感じる。
「本日はマザーと30分ほど話が出来ますので、さっそく行きましょう!」
「おぉ!」
リーシャにジンが驚いている。体調が悪い中特別客のために頑張ってくれているってことか、情報収集させてくれる元気はあるんだろうか。
俺たちはフィオナさんの後をついてマザーとやらが居る部屋にむかった。
◇
ーーコンッコンッ
「マザー、失礼します」
フィオナさんが扉を叩き声をかけるが反応なく、そんなの気にしないかのように扉を開けて、俺たちを中へと案内してくれた。
周囲を本に囲まれた部屋の真ん中で、机に向かってペンを走らせている黒髪の女性がいた。こちらには気付いている様子はなく作業に没頭しているようだ。
こちらに気付かないマザーに慣れたような足取りで隣まで行き、肩を叩いてこちらの存在を伝えるフィオナさん。
「あら? どうかしたのフィオナ?」
「特別客の皆様をお連れいたしました」
「…そんな予定だったかしら?」
「今朝確認しましたよ」
「いけないわね…皆様お待たせして申し訳ございません」
クルリとしっかり巻かれた黒髪でリーシャよりも背が高く、水色のドレスのような服装をした女性、何かを耳に着けてから、こちらを向いて挨拶してくる。
「ディオスクリ歌劇団で脚本を務めております。ヴァネッサと申します」
不思議だ、普通の自己紹介なのに凄く聴きやすいというか、頭の中に言葉がすっと入ってくる感覚だ。
俺たちは進められるままに、ヴァネッサさんの作業机の近くにあるソファーに腰を下ろした。
「少し脚本作りに集中しておりまして、大変申し訳ございません」
「いえ、お会いできるだけで光栄です!」
リーシャが少し鼻息荒く挨拶している。エルとリーシャが自己紹介を済ませた後、ヴァネッサさんは俺とジンを見て微笑む。
「あら…また面白い方々ですわね」
「呪い持ちが来るのは珍しいのか?」
「いえ、私たちはどのようなお客様でも大歓迎ですわ。立派な呪いを見たのは久しぶりでして…つい驚いてしまいましたわ」
ジンもそうだがコントロール出来ている呪いと、そうでない呪いをどうやって見分けているのか、正直良く分からない。なんか見分けるコツがあるのなら今後のためにも教えて欲しいものだ。
「なるほど……それは自身の経験からの感想か?」
「えっ!?」
ジンの言葉にフィオナが驚く、言い方があれなんだけど、ジンはヴァネッサさんに自信も呪いをコントロールしたからこそ分かる感想か?みたいなことを聞いてるんだろう。
フィオナさんが驚いているということは、ヴァネッサさんは別に呪い持ちではないんだろう、さすがに娘が知らないはずがない。
「ふふ…私にそのような返答をした方も久しいですわね」
「はっはっは! 別に隠すような立場でもあるまい」
「昔よりも今のご時世のほうが隠したほうがやりやすいのでは?」
「そんなコソコソした人生なんぞ、つまらんので勘弁したいものだ」
ジンの問いかけ否定しないってことはヴァネッサさんは呪い持ちってことか、周りを見るとリーシャもエルもフィオナさんも驚いて言葉を無くしてしまっている。
「で、ではその補聴器は呪いの影響で?」
「いえ、これは最近歳のせいか耳が聞こえなくづらくなってきてまして、そのためですわ」
「そうなんです、失礼なことを聞きました」
「いえいえ…私が呪い持ちと言うことは内密にお願い致しますわ。もちろんフィオナ、あなたもね」
「は、はいマザー」
フィオナさんも動揺を隠し切れないようだ、まさか自分の親が自信と同じで呪い持ちだっただなんて衝撃なんだろう。
俺たちはエルフリッドで起きた事件を、地名やゼキルさんたちの名前を伏せて話をし、何か知らないか尋ねてみた。
「…『
「本当ですか?」
「えぇ…少しお待ちになってください、最近物忘れも酷くて…」
ヴァネッサさんは2分ほど考え込んで、少し自信が無さげに口を開いた。
「確かエルビス公国の禁魔術であったと思いますわ」
「エルビス公国…」
リーシャが言うには、ここからめちゃくちゃ遠いらしい。でも世界を巡っているヴァネッサさんじゃないと分からなかっただろう。一つの大きな手掛かりだ。
「あまりお力になれず申し訳ありませんわ、皆様が滞在中に思い出したら、私から声をかけさせてくださいませ」
「ありがとうございます」
なんとか1つの手掛かりと、ヴァネッサさんの昔話を少し聞かせてもらい、時間になったので俺たちはヴァネッサさんの部屋を後にした。
◇
ーー 船内 食堂
ヴァネッサさんの部屋を出て昼食の時間になった。
フィオナさんはまだ少し動揺しているようで、言葉に元気が無いけれど仕方がないな、さすがに親の秘密を仕事中に知っちゃうってのは驚いちゃうもんな。
「それにしても飯が上手いな!」
「ジンさんたくさん食べますね」
「エル嬢もたくさん食べんと大きくなれんぞ!」
「頑張りますっ」
ジンに焚きつけられて、大きくなろうとたくさん食べているエル、そんなに食べておなか痛くなったらどうするんだ?
「フィオナさん大丈夫ですか?」
「えぇ…すいません、少しビックリしてしまって」
「内密ですからね、しまっておかないと」
「私は養子で、マザーの下に来て10年ですが一番驚いたかもしれません。
さらっと爆弾発言している気もするけれど、その発言に対してツッコミを入れようと思ったらサンドラさんが入り込んできた。
「フィオナ! メイクアシスタントをして頂戴!」
「は、はい、皆様ご昼食をお楽しみください! 少しの間失礼します」
サンドラさんの一言で、昼食途中だったフィオナさんは小走りで行ってしまった。姉妹なら仲良くできなもんだろうか?
そういえば、狼男になった男のダリオっていうほうじゃないほうは、あのクッキーをサンドラさんから貰ったと受付看板裏で話をしていた男だ。
客が入る時間帯に狼男になったり、舞台に上演中に狼男になる劇団員なんていたら最悪の事態だから気を付けないとな。
「よし、昼食後は自由行動にするか」
「そうだな! 俺は警備員の手伝いをしてこようか!」
「私はエルとロロと一緒に聞き込みに行ってきます」
「はいっ!」
ずっとエルのカバンの中で爆睡しているらしいロロ、さすがにペット扱いだから声を聞くわけにもいかないから、声が聞こえないは聞こえないで少し寂しい気もするな。
「危険になるようなことは避けよう。ケガだけはしないように」
しっかり昼食を食べて、俺たちは一時解散した。
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