第4話 隣のお花は真っ赤っ赤


 ジンと一緒に目的地付近につくとそこには。


 月明かりに照らされる中、二足歩行で吠えている、2m程の灰色狼男が2体いた。



「1人1体…それにしてもデカいな」


「『嫉妬エンヴィー』はそのままやってくれるか?」


『もちろ~ん』



 俺とジンは別々の個体に向けて走り出す。狼男もこちらにさすがに気付いているようで、それぞれに襲い掛かってきた。



「アオォォォーーーンッ!!」


「思ったより速くないんだな」



 狼男と戦ったことがないから分からないけれど、思っているほど速くはない、けどもパワーはありそうだな。



ーーズシャァァァーーンッ!



 掬いあげるような爪の一撃がフォルカを襲うが、後方に飛び退きかわす。

 フォルカは自身の拳に青黒い『嫉妬エンヴィー』の魔力を纏わせて強化をする。



「『嫉妬エンヴィー』! 頼む!」


『は~い! 『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』』



 『嫉妬エンヴィー』の魔力が周囲に広がると同時に、俺の正面にいた狼男が不意にジンのほうを向く。


ーー今だっ!


 大きく隙を見せた狼男に足にも魔力を集めて爆発させるようにして前へ飛ぶ、飛んだ瞬間に再びこちらを見直したが遅い!



「っし!!!」



 狼男の顎目掛けてアッパーをするように下から拳を掬いあげるようにして打つ。



ーーバキッッ!!



 狼男は避け切れずにフォルカ渾身の右アッパーを食らい、その巨体を宙に浮かせる。



「これで終わりだっ!」



 左拳にも魔力を纏わせて、狼男を地面に叩きつけるような角度で鳩尾にストレートを叩き込む。



ーーズシャーーーーンッ!!



 顎を打って脳を揺らしたところに鳩尾に完璧な一撃を叩き込んだフォルカ、地面に強く叩きつけられた狼男は立ち上がることなく、気絶したようだ。



「さすが『嫉妬エンヴィー』の技だな」


『でしょ~! もっと褒めていいよっ』



 『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』 『嫉妬エンヴィー』の使う技で、自分に注目してる対象に、自分以外の目立つ対象を気になって仕方なくする技である。

 戦闘中はもちろん戦っているフォルカに意識を向けなければ行けない狼男だったが『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』を受けてしまい、近くで戦っているジンが気になって仕方なくなり、気付けばフォルカを忘れジンのほうを見てしまったという、隙を作り出すにもってこいだし、逃げてる最中にも役に立つ便利技だ。



「大丈夫ですか!!」



 応援を呼んできた警備員たちが戻ってきた。

 そしてそれと同時にジンのほうも気絶させることに成功したようで、こちらに歩いてきた。

 もちろん警備員の声と同時に『嫉妬エンヴィー』は自ら消えていった。優秀すぎて泣けてくる。



「まだいるかもしれん、まだ警戒を解かないほうが良い」



 ジンの一言に、応援した警備員たちも再び緊張感を宿したようで、周囲の捜索に何人か出ていった。

 他の警備員は気絶した狼男を調べているようだ。すると狼男から煙が出始める。



「なっ、なんだ!?」



 プシューという音を立てながら体中から白煙をあげる狼男の2人、しっかり気絶させたから当分は目覚めないはずだけど、何が起こってるんだ?


 白煙の中から出てきたのは、見たことのある劇団員の顔だった。



「劇団員のダリオさんとロバートさんだっ! 急いで救護室へ連れていけ!」



 1人は劇が始まる前にフィオナに声をかけてきていた男劇団員だった。










 狼男から人へと戻った2人を運ぶのを手伝い、俺とジンと真面目な話合いになりそうだったから起こしたリーシャの3人は、警備員と何人かの劇団員と一緒に食堂にいた。


 あの2人は事が起こる10分ほど前に夜風にあたりたいといい警備員の許可をもらって外に出ていたらしく、少し顔色が優れない様子だったようだ。

 2人とも魔族でも呪い持ちでもなく、何故このような事件が起こってしまったか誰も予測できない。



「戦った時は完全に理性を失っていて、人語を理解している様子ではなかったな」



 淡々とジンが戦闘時の様子を語る。戦ったとはいえ、少しは疑われている立場ってのが劇団員と数人の警備員を見てると伝わってくる。



「そこまで強い訳ではないが、人が変化した存在なら別の意味で注意しなくてはならん」



 今回は俺もジンも、ただの魔物だと思い、容赦なく打ち込んだが、元が人間ならば話は変わってくる。



「2人は当分起きる気配がないそうです…どうしますか?」



 1人の劇団員がそう全員に問う。



「前代未聞の事件だが、最近は収益も減っている。何より急に中止にするのは損害が大きすぎる! 警備を強化し続行だ」


「なっ!? マザーの判断を仰ぐべきでは?」


「最近のマザーでは正直、正常な判断が出来るか怪しいところだ。ならば座長の私が判断を下す。明日は警備を強めて続行だ。事件の詳細が掴めるまではマザーに報告せず、私に報告しろ」



 座長と名乗るガタイの良い立派な髭の生えたおっさんが宣言するように言い放つ。何か言いたそうな顔をしている劇団員が数人いたが、受け付けないといった雰囲気だ。

 話には聞いていたがマザーってのは、そんなに体調が悪いのに、フィオナさんの特訓を毎日行っているのか…良いのか悪いのか分からんな。 

 でもこの状態をさすがにほっとけない。



「俺たちは狼男に対して単体で戦える。招待してもらってる残り2日間、警備員さんたちと協力しながら、俺たちも見張りをさせてもらうよ。狼男も弱い訳じゃなかったからな」


「そうですね。お手伝いさせていただきます」


「報酬なんて用意しとらんぞ?」


「たくさんサービスしてもらってるんで、これくらいやりますよ」


「ならば頼もうか…よし! 今日はこれで解散だが、警戒を怠るなよ」



 座長は警備員に強く行った後、部屋に戻っていった。

 俺たちも、さすがに疲れたので部屋に戻って休むことにした。情報収集に来たつもりだったが、とんだ事件に巻き込まれてしまった。

 だけど、人を魔物にするって部分は、エルフリッドで戦った黒いやつに少し近い気もするから無関係って言い切ることも出来ないから、もしかしたらを信じて、この事件についても探って見なきゃいけないな。


 部屋に戻って、そう考えていたフォルカだったが、気付けばぐっすりと眠っていた。



 



 



 

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