第3話 八罪呪源 嫉妬


『フォルカ久しぶり! 頑張って情報収集するよ!」



 呼び出されていきなりハイテンションの『嫉妬エンヴィー』。

 少し青が混じった黒髪おかっぱにサファイヤブルーの瞳をしていて、青いワンピースっていう青尽くし、エルと身長が同じくらいの人型をしていて、気配も人にしか感じない。

 能力は、『嫉妬エンヴィー』の魔力が籠った声を聞いた者の「嫉妬心」や「羨望心」を表出させ、その感情を増大させる力だ。

 今回はその能力ではなく、また別の力を使うために呼び出している。



『じゃ~、あたしの心の瞳の置き場3か所探しの旅に出発!』


「行くか」



 フォルカは『嫉妬エンヴィー』に頼まれて肩車をしながら、『嫉妬エンヴィー』の技に適した、悪事が働きそうなポイントを探しに行った。







ーー船外 飲食店テント広場 裏



『あ~! あの大きい木とか良さそう!』



 肩車されてはしゃいでいる『嫉妬エンヴィー』の言うがままに、テント裏にある大きな木に近づく。

 確かにここなら悪い裏話なんかをコソコソできそうな場所として適してそうな気がする。わざわざこんな劇団見に来てそんな話する奴がいるかどうかは分からないが、やってみないとわからないもんな。



「『嫉妬エンヴィー』頼む」


隣の芝生は青くセロース・見えちゃうアイ



 『嫉妬エンヴィー』の指先から小さな青い針が木の上のほうへ飛んでいき刺さって消える。

 

 『隣の芝生は青くセロース・見えちゃうアイ

この技は針を刺した物を中心に、フォルカの『欲望ディザイア』を達成するのために関連している感情を探知し、針を刺した物体の近くに居れば『嫉妬エンヴィー』を呼び出していなくても反応して『嫉妬エンヴィー』が教えてくれるという便利な技。フォルカが悪と判断するような感情を持った者に反応し『嫉妬エンヴィー』が判断して教えてくれるスゴ技である。

 これで張り込みしなくても、なんかしら悪い匂いをプンプンさせている奴はすぐに見つけることが出来そうだ。



『よ~し! 後2か所! 船内のどこかにする~?』


「そうだな…探してみようか。それにしても便利な能力だな、助かるよ『嫉妬エンヴィー』」


『でしょ~! フォルカが喜んでくれるなら全然いいよっ!』


「よし、残り2か所行くか」


『出発進行~!』



 元気な『嫉妬エンヴィー』を肩車したまま、俺たちは船内に戻り、次の監視場所を探すことにした。









ーー歌劇団船内 受付付近



「めっちゃバタバタしてるな…って劇始まってるのか」


『観に行かなくていいの~?』


「まぁ…こっちのほうが大事だからな、怒られない程度に探すか」


『そこの裏で面白そうな話してるよ』



 『嫉妬エンヴィー』の言われた場所に近づいてある。巨大な看板みたいなのがあり、裏に入るには回らなきゃいけないような場所からヒソヒソと声が聞こえてきた。



『聞こえやすいようにしてあげるね』


「ありがとう」



 『嫉妬エンヴィー』の能力の1つなのだろうか、全然聞き取れなかった話が、急にしっかり聞こえるようになった。



「サンドラちゃんからクッキーもらったんだぜ」


「おいおい! マジかよ俺もらってねーぞ」


「フィオナちゃん人気が嫌にでもなって媚売りはじめたか?」


「フィオナちゃん人気だからな」


「可愛くて、人当たり良くって優しくて、マザーから毎日夜に個別レッスンさせてもらえるほど気に入られてる…最高じゃねぇ~か」


「なんで俺はもらえなくてお前は貰えたんだ?」


「さぁ~、でもサンドラちゃんも別に性格以外は良いからな」


「なんだ乗り換えか?」


「へっへっへ、フィオナちゃんが誰かにとられちまったら考えるかな」


「どっちもお前のことなんて本当は眼中になさそうだけどな」


「なんだと!?」



 こんだけ長年やってて、仲良さそうな劇団なのに、しょーもないこと考えてる奴はいるもんなんだな。

 『嫉妬エンヴィー』はこの話を聞きながら楽しそうに笑っている。こういうのが大好きなんだろう。



『ここにも刺しとこ! 面白そうだよ!』


「まぁ…そうするか」



 俺の許可をもらった『嫉妬エンヴィー』は、良い感じの場所を探し、『隣の芝生は青くセロース・見えちゃうアイ

を打ち込んだ。


 もう一か所は怒られないように忍び込んで、倉庫の奥のほうに打ち込んでおいた。

 そろそろ戻らないといけないな。


 

嫉妬エンヴィー』を戻して、劇場へ戻ろうとしたところに、ジンと遭遇した。



「おぉ! 探したぞ、もう劇は終わるが何をしてたんだ?」


「しまった…そんなに時間たってたか」


「なんだ? 情報収集にでも行ってたのか?」


「あぁ…『嫉妬エンヴィー』に力を借りて、散歩がてらな」


「熱心なのは良いが、少しは気を休めることも大事だぞ」


「そうだな…明日はちゃんと見るよ」



 もう劇が終わるとのことでジンと終了まで、情報収集のためにやったを歩きながら話をし、劇が終わったのを確認して、みんなでフィオナさんのところへ行ったのである。









ーー船内 食堂



 フィオナさんが食堂に連れてきてくれて、ここで劇に関しての軽い裏話や質問を受け付けながらの食事にしましょうと言うことで、いただくことになった。


 劇が終わったばかりで疲れた顔をした劇団員たちも食事をとっている。2時間の舞台とは言え、凄まじい体力の消費量なんだろうな。



「夢のようでした…あんな前の席で観られるなんて!」


「すごかったです」



 リーシャとエルはまだまだ感動に浸りながら、フィオナさんと話をしている。

 劇をまったく観てないなんて言いづらいし、さすがに話には入れないな。



「ふむ…フィオナ嬢、個人的な質問なんだが聞いてもいいか?」


「はい? なんでしょう」


「フィオナ嬢は何故舞台に出れないのだ?」



 ジンの発言に空気が凍り付く。



「ジ、ジンさん! フィオナさんすいません個人的なことを聞いてしまって」


「いいんですよリーシャさん、マザーに毎日特訓してもらっているのですが、私の歌はまだ舞台にたつには早すぎると言われてまして」


「ほう…長いこと修行していると聞いたが、高いレベルを求めるのだな」


「一人前になるまでは人前で歌うのは禁止されているんです」


「歌うのが好きなのに、人前で歌うの禁止ってのは酷だな」



 好きなことを自由にやらせてもらえないってのは相当ストレスだろうに。マザーって人の真意は分からないけれど10年間もここまで大変な修行をしなければ出れないもんなのか。

 


「フィオナ嬢より若そうな演者もいたように見えたのだが?」


「2年ほど練習して舞台に出られる方もいますからね、そういった部分はマザーがお決めになられます。


「大変な世界なのだな」


「はい、でも私もいつか世界中の人たちに歌を聴いてもらいたいので頑張ります」


「フィオナさん凄いです、がんばってください!」


 なんだかんだ盛り上がっている。リーシャは元々劇団のファンってのもあって質問をたくさんしている。ジンも大人でエルを巻き込みながら会話を盛り上げてくれている。


 そこからは、数人の劇団員の明日の公演の準備の様子や、今日の公演反省会みたいのを少し見させてもらった。マザーは数年体調が悪く、あまり部屋からは出てこないようで会うことが出来なかった。








ーー 船内 客室



「泊まれるなんて凄いサービスだな」


「あぁ! しかも酒までついているなんて素晴らしいな!」



 2日間の宿泊サービスもついていたようで男女に別れて部屋を用意してもらい、俺とジンは部屋で風呂も頂き、遅い時間だが寝る前に軽く振り返りをしていた。

 ちなみにロロはエルが抱き枕にするようで連れていかれた。



「ふむ…今のところフォルカの仕掛けた罠には何もないか?」


「あぁ…『嫉妬エンヴィー』からは特に疑わしいものは感じないらしい」


「今日の劇団員の話を聞いた限り、まだ何も手がかりは得られてないな」


「そうだな…出来ればマザーとやらに会いたいんだけど」


「体調が悪く2人娘にちょっとした介護を頼んでいるレベルらしいぞ」


「そいつは無理に会えないな」



 リーシャの話では、まだそこまで歳を重ねていなかったと思うが、子どもに世話を頼むってことは相当良くないんだろう。



「明日は朝から時間がある、少しでも何か掴めるよう頑張らないとな」


「そうだな…そろそろ休むか」



 明日改めて情報収集に励むか、と決めて横になって休もうと思った時。



『フォルカ外から反応きたよ! あたしを出して!』



 『嫉妬エンヴィー』から突然の要請、まさか来るなんて!

 


『平等ヨリ 生マレシ者 来タレ 『嫉妬エンヴィー』」


「おぉ!?」



 さすがの突然のことに酒を飲んでいたジンが飛び退く。

 酒は一滴もこぼしていない。



『いきなり来たよ! しかもなんかたくさんいるよ! 大きな木の近く!』


「ジン! なんか引っ掛かった!」


「来たか! 急ぐぞ!」



 俺とジンはリーシャたちに声をかける時間すら惜しみ外へ向かった。

 『嫉妬エンヴィー』は早く走れないのでおんぶして言われたので、仕方なくおんぶしているが、嬉しかったのか何なのか、はしゃいでいて少しうるさいが、咎めている場合ではなく外へ急いだ。








ーー アオォォォーーーーーンッ!!



 受付に近づいてきて、警備員に外にどう出してもらうか考えながら走っていたら、外から狼の遠吠えのような声が聞こえてきた。



「な、なんだぁ!?」



 1人の警備員が叫ぶ、この感じ魔物なんだろうけど、どうやって入ってきたんだ? ロロも認める結界があったはずなのに。


 動揺してざわつく警備員たちに向かって走りながらジンが叫ぶ。



「応援を呼んで来い! この気配は魔物だ!」


「えっ? え?」


「急げ!!」


「はいぃぃ!」



 警備員たちはジンの剣幕に押されたのか、急いで船内に走っていく。きっと他の警備員や責任者に報告に行ったのだろう。



「行くぞ!」


『気配は2匹だよ~』



 俺たちは針を刺しておいた飲食店テント裏に向けて急いだ。



 

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