第2話 夢見る案内人


 「ディオスクリ歌劇団」20年前に当時すでに世界的に有名だった歌手「ゲザルグ・ヴァネッサ」と夫の「ゲザルグ・クラーク」が設立した、一つの物語を歌と踊りで披露しようというコンセプトで作られた組織で、世界1とも言われていた歌手ヴァネッサと、華麗なダンスで有名だったクラークの下に多くの仲間が集い、世界中を巡りながら今もなお公演を続けている組織である。

 しかし残念ながらヴァネッサは10年前に引退し、夫のクラークは12年前に他界してしまい全盛期ほどの集客は出来ていない状況である。






ーーディオスクリ歌劇団船前 受付



「では、4名とペット1名のご案内でよろしかったでしょうか?」


「はい、お願いします」


「ペットはなるべく保護者様から離れないよう注意をお願いします」


「わかりました」



 俺たちは船の近くに馬車をとめ、リーシャに全部任せて受付を済ませている最中だ。

 4つのチケットでロロをペット扱いしてなんとか入ることが出来たけど、さすが呪い持ちの人も活躍しているような集団、俺やジンを見ても慌てること無いし、会場にいるお客さんも視線を向けてくるけど、全然なんもされることはない。

 警備も人数多いし、魔物除けの結界もロロからみてもしっかりしてるって言ってたから、やっぱり歴史もあるし凄いところなんだな。



「3日間の案内を務める者を呼んできますので、お待ちくださいませ」


「わかりました」



 受付の人が船の中に小走りで入っていく。

 劇は船内で行われ、外ではグッズ販売や飲食ができるテントが大量に並んでおり、各国の料理なんかも食べれるそうで大賑わいだ。

 公園開始まで、まだまだ時間があるそうだが、俺たちは船内の案内と、公園前の準備や打ち合わせを少し覗かせてもらえるそうなんだけど、そういうときって集中したいから部外者は邪魔って思われたりしないのか?



「き、緊張します」


「本当に壮観だなぁ~、エル嬢、迷子にならんようにな」


「は、はいジンさん」



 リーシャとエルはガチガチに緊張しているようでソワソワしている。ジンは劇よりも食事や酒のほうが興味があるそうで正直そっちのほうばかり気にしている。ロロはエルが背負っている鞄の中で昼寝しているだろう。

 狐面のような魔力は察知できないし、こんな大人数の中、ロロ以外上手に探知できないのは厳しいもんだな。


 そんなことを考えながら待っていると、桃色の髪を二つ結びで、長いスカートを履いてパッチリとした目をした女の子が急いでこちらにやってきた。



「お待たせしました! 3日間案内人を務めます、フィオナと申します! よろしくお願いします」



 すごく元気というか勢いよく礼儀正しい子だが、ジンと同じような喉らへんに二重丸のような呪いの刻印がある。

 本当に劇団員の人でも同じ呪い持ちがいるだなんて、聞いていたけど実際会うとビックリする。



「おぉ~、リーシャの言っていた通り、呪い持ちでも普通に働けるのだな! 素晴らしい」


「お二人も私と同じなんですね。何か他のお客様に悪さ等されましたら、すぐに私に伝えてくださいね」



 そうやって言うことは、少しはいたずらや事件に繋がることが過去合ったと言うことだろう。

 俺たちはフィオナさんと軽く自己紹介をしながら船内へと入っていった。



「皆様は旅をなされているんですね! 凄いです!」


「歌劇団の皆様も世界中を旅しているのでは?」


「私なんか下っ端で自由時間なんてほとんどありませんからね。基本はずっと船内にいるので旅をしている感覚はないんですよね」



 残念そうな笑みを浮かべるフィオナさん、先ほど自己紹介で一度も舞台にはまだ立ったことが無くて、マザーに特訓してもらっている最中っていうけど、すれ違った劇団員さんの中には、フィオナさんより若い人もいそうだったのに大変な世界なんだな。



「旅と行っても、つい数日前に始まったばかりなんですけどね」



 リーシャが緊張しながらもしっかり会話してくれているけど、情報収集なんて忘れて、夢の劇団の空気に酔ってそうな気がするけど、仕方ないか。



「これから世界を巡るんですね! ワクワクしちゃいますね!」



 すごくいい笑顔で答えてくれるフィオナさん、リーシャとエルはフィオナさんのおかげもあって緊張もほぐれてきたようで楽しそうに話をしている。


 そんなこんなで船内に入って少しすると、資材がたくさん置いてあり、劇団員がそれぞれの資材が安全か確認しているんだろう、忙しそうにみんな動き回っている。



「ここでは劇で使用される資材なんかが置いてある倉庫になります。まだ数時間後には始まるので最終チェックですね」



 何に使われる物なのか、いつから使われているだとか細かいことを教えてくれる。ここに10年いるって言ってたけど、それでもこんなけの情報を覚えてるってのは相当努力してる証だ。



「おっ! フィオナちゃんが案内人? 頑張ってよ!」


「ありがとうございます。ダリオさんも今日の公演頑張ってください」



 俺たちを案内してくれてる中でも、多くの男性劇団員がフィオナさんに声をかける、ほとんど全員が男性ってのがまたなんとも言えないけど。


 そんな中、少し離れた場所から黒髪ボブの女の子がフィオナさんを呼んでる声が聞こえてきた。



「フィオナッ!」


「は、はい! なんでしょうかサンドラ姉様」


「お客様の前で姉様と呼ばない!」


「す、すいませんサンドラさん」



 フィオナさんのお姉さんってことかな?

 俺たちのことを置いといて2人で何か話し込んでいる、雰囲気的にフィオナさんが怒られてる感じだけど、一応お客さんである俺たちの前でそんなことしていいのだろうか?

 なんて思っていると、リーシャが驚いたように声をかけてきた。



「サンドラって…マザーの娘である、ゲザルグ・ヴァネッサの娘さんで、トップダンサーの1人ですよ!」


「それをお姉様って言ってたってことは、フィオナさんもマザーって人の娘ってことか?」


「ほぉー、大物が俺たちの案内人か! すごいおもてなしだな」



 あの感じ見ると姉妹だけど、仲が良さそうには見えないけどな。

 マザーの娘なのに、ずっと舞台には立てず修行の身っていうのは、フィオナさんの実力問題になるのかな? 身内にも厳しいって言うのはなかなか出来ることじゃないと思うから、マザーってのはなかなか凄いな。



「あのフィオナ嬢は今のところ呪いの影響は無さそうだが、どんなもんなんだろうな?」


「ジンは本当に他人の呪い気になる人だな」


「あの感じだとコントロールしてるってことだろう? 勉強になるからな!」



 確かに、どんな呪いなのか分からないけれど、仕事には支障が出ていないように見えるけど、もしかして舞台に出れていないのは呪いの影響ってのも考えられるけどな。


 ジンと話をしながら、周囲を忙しそうに駆け回る劇団員の邪魔にならぬようにするフォルカ、サンドラと話し終わったフィオナがフォルカたちの下へと戻ってきた。



「申し訳ありませんっ」


「大丈夫ですよフィオナさん、それよりも何かありましたか?」


「いえ、サンドラさんが私に対して頻繁に声をかけてくださってる男性劇団員さんに姉として、お礼のクッキーを焼いたから教えてと」


「怒鳴っていたわりには、素晴らしい姉妹愛だな」



 フィオナも謎なのか、あまり事態に納得してなさそうな表情をしている。そこまで仲いい訳じゃなさそうだけど、あまり触れるのはやめておこうかな。



「あの…サンドラさんが姉と言うのは本当なんですか?」



 リーシャが空気を読まず好奇心に敗北してしまった。

 フィオナさんはリーシャの質問に少し苦笑いをしながら答えてくれた。



「はい…私もマザーの娘です。ですけど私は養子なんですよ、内緒にしておいてくださいね」


「あ…すみません」


「大丈夫ですよ! マザーの娘として私も世界の歌姫を目指してますから!」



 フィオナさんはそう言うと案内を再開させてくれた。


 劇団員が使う衣装の数々や大きな食堂、何人かの劇団員とも話をさせてもらい、リーシャが少し暴走気味だったが面白い話を聞くことが出来た。

 日が沈む少し前、ついに劇が始まるまで1時間と少し前ということでフィオナさんとも一旦別れて劇を待つことにした。


 そんな時、1体の呪源が呼びかけてきた。



『フォルカッ! たくさん人いるし 情報収集ならあたしの出番じゃないかな!?』



 俺にしか声が聞こえてないとは言え、いきなり呼びかけれられてビックリする。『嫉妬エンヴィー』は私の出番だと激しく主張してくる。

 間違ってもいないのでお願いするか…。



「劇が始まる前に少し風にあたってくるよ」


「おぉ! 付き合おうか?」


「いや、1人で大丈夫」



 みんなにはそう言って、船内から出て、馬車のほうへと戻った。








「よし…誰もいないな」



 ロロほどじゃないけど、しっかり周囲の気配探知はしたが大丈夫、馬車の中だし、誰も見ていないから大丈夫だろ。



『平等ヨリ 生マレシ者 来タレ 『嫉妬エンヴィー』」



 呪言とともに青黒い魔力を放出しながら、ニッコリ笑顔を浮かべた『嫉妬エンヴィー』が現れた。





 

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