第17話 悪を裁く覚悟


「これでいいのか?……『八罪呪源みんな?』



 ロロがため息をつきながらリーシャっていう騎士をつれて、魔術で移動したのを確認して、黒い魔力を溢れさせている自分の右手に問いかけてみる。


 その瞬間……フォルカの観ている景色は変わった。












 1人の青年を円の形で囲むように玉座が置かれている。

 数十本の蝋燭だけが周囲を照らし、それ以外の場所は真っ暗で何も見えない空間。音もなく、風もない空間の中、1つの玉座に赤黒い魔力の炎が一瞬燃え上がり、消えると玉座の上には小さな頭蓋骨が置いてあった。



(ここに来たのも久しぶりな気がする)



 玉座に囲まれていたフォルカは、少し慣れたかのように辺りを見回して、出てきた頭蓋骨に声をかける。



「まだ、さっき使った代償のでせいで体痛いんだけど…『虚飾ヴァニタス』」


『我ト 『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』 スレバ済ム話ヨ』



 現れたのはフォルカがよく使用する呪源である『虚飾ヴァニタス』、カタカタと小さな頭蓋骨は、フォルカの話に真面目に返答する。

 そして、その右隣の玉座に青黒い炎があがり、現れたのは小さな女の子。



『もぉ~、なんで最近呼んでくれないの? そこの頭蓋骨ばっか呼んじゃってさ!』


「ごめん『嫉妬エンヴィー』、次は頼む」



 青色のワンピースを着た、ショートカットの女の子『嫉妬エンヴィー』が、自身の体には大きすぎる玉座に座りながら、足をブンブン振り回して怒っている。

 すると隣の玉座から白い炎があがり、座っていたのは、寝間着のような服を着ている髭が生えて角も生えているおっさんが、ぐぅ~といびきをたてながら出てきた。



「……『怠惰スロース』」



 ぐぅ~といびきを立てて、フォルカの呼び声にピクリとも反応しない『怠惰スロース』、フォルカは特に動揺することなく、隣の濃い紫色の魔力が溢れて出てきた、両目が濃い紫色に輝く烏に声をかける。



「……相変わらず、この場所だと見にくいな『強欲グリード』」


『はぁ! そっちこそ相変わらず湿気た面してんな』



 翼をバサバサと動かして、アピールしながらもフォルカに言葉を返す『強欲グリード』、飛び立つことはなく、玉座の上でじっと待っているのだから偉いものである。



(……こっから先の4つは、制御出来てないっていうか、打ち解けてないんだよな)



 この流れだと全員出てくるだろうと予想しつつ、フォルカは橙色の魔力が溢れた玉座にむけて意識をむける。



『……我にも見にくいとは言わぬのか?』



 フォルカの位置からでは何が出てきたのか、まったく見えず、声だけが響くのみ。

 初見の時は何なのか分からず困惑してしまったが、今では正体が判っているので冷静に返答できる。



「…見えにくいってより、まったく見えないんだけど『暴食グラトニー』」



 1匹の小さな蠅、それが『暴食グラトニー』である。玉座から近い距離でもないので飛んでいるのかすら分からず、ただ声がする方向に反応するのみでしか分からないからやりづらい相手でもある。

 フォルカがツッコミを入れていると、桃色の炎があがった玉座には、吸い込まれるような黒く長い髪に、エメラルドのように鮮やかな緑色のドレスを身にまとった、ドレスと同じ瞳の色をしていて、少しキツイ目をしている美女がいた。



『お久しぶりね……お元気かしらボウヤ』


「……色々あってさ、元気じゃないんだ、『色欲ラスト』」



 「それは大変ね」と微笑みながら言うのが『色欲ラスト』だ。

 こっから先出てくるであろう2体、この2体は『八罪呪源アマルティア・オクト』の中でも特に重く強い罪と言われているらしく、他の6体も認めるヤバいやつらだ、正直自分の体に宿っているもんなのに怖いっていう感情がある。


 そんなことを考えていると、ドス黒い炎があがり、玉座には『色欲ラスト』と同じようなスタイルだけど、髪は金色に輝いており、魔力と同じような色をした黒いドレスを身にまとっている女性。深紅に染まった瞳をフォルカに向けている。



「……ご機嫌よう、『憤怒ラース』」


『ご機嫌よう……フォルカ』



 『八罪呪源アマルティア・オクト』のトップ2で認識されている呪源の1つ『憤怒ラース』、声を聞いたのも珍しいし、姿を見たのはこれで2度目な気がする。


 そして最後の玉座が黄金色の魔力で満たされて、そこには、品の良い執事が着るような服と『嫉妬エンヴィー』が言っていた黒い服を1つの汚れもズレもなくキッチリ着こなし、魔力色と同じで黄金色でフォルカと似た髪型をしており、玉座に深く座って足を組みながら、サファイヤブルーの瞳がフォルカを見る。



「……『傲慢プライド』」



 フォルカの声に特に反応することなく、足と腕を組んだまま、フォルカを見ていた瞳は閉じられて、何か考え事でもしてるかのように静かに座っている。


 呼び出された本題を聞くために、誰に聞けばいいのか少し悩むフォルカ、それをみた『嫉妬エンヴィー』が口を開く。



『フォルカを呼んだのは、あたしたちの主として成長したからだよ!』


「……成長したのか?」


『うんっ! とっても大事な1歩!』


「あの黒いやつが知り合いだから呼んだのかと思ったよ」


『知り合いなのは確かだよ! 今出てきてるやつは出来損ないだから、あんま興味ないね!』



 あの天使は自分たちと関係している存在ってのは認めるのか。

 でも今は……少しでもあの黒いやつふざけたやつを倒せるだけの情報と力が欲しい。知ってるなら教えてくれなんだろうか。



『フォルカは……何がしたいの?』


「何がしたい……か、ちょうど決まりかけてるとこなんだ」


『じゃぁ! 待ってるから決まったら教えてね!』



 『嫉妬エンヴィー』が足をパタパタと振りながら元気よく言う。見渡せば他の7体も異論はないようで、フォルカが決断するのを待っているようだ。


 やりたいこと、俺が望むのは何なのか、俺の体に宿っている以上これは『八罪呪源みんな』にとって1番大事なことなんだろうってのは雰囲気でなんとなく分かる。

 『八罪呪源みんな』が俺に何者になってほしいかは知らないし、この戦いがはじまる前だったら、意見を集めて目指せたかもしれないけど、エルフリッドで世界の現状を改めて知り、救おうと意気込んだ結果、顔を見ることもなく犠牲になってしまった魔族たち…そんな現実にぶち当たっちゃって、でも、そのおかげで俺のやりたいことが……明確になった気がする。



「……今の世の中は非凡に溢れすぎてると思うんだ」



 8体の誰かにむけて言ったわけではなく、独り言のようにフォルカはゆっくりと話をはじめる。

 フォルカの話を遮ろうともせず、各々が自由な姿勢でありながら話にしっかり耳を傾けている。



「人も魔族も亜人も呪い持ちも……みんな波乱に溢れすぎなんだよ。栄光だったり名誉だけに溢れてるものだったら良いんだけど、実際はそんな人生送ってる奴なんてごく僅かなんだと思う。」



 フォルカは8体がしっかり聞いてくれてるのを確認して語り続ける。



「エルフリッドの領主は自身の人生を栄光っていう非凡なものにしたい想いで、多くの犠牲を出した。巻き込まれたあげく犠牲になった側からすれば、こんなのたまったもんじゃないはずなんだ。そんな非常すぎる人生を送るために生まれてきた訳じゃないはずなんだ。

 本当だったら、みんな人並みの喜びや苦しみを味わい、越えられないような嫌な想いをするはずのない平穏な人生があるはずだと思うんだよ。戦争なんて繰り返してるから麻痺してるだけなんだ……でも、本当はみんなで平穏な人生を送ることが、俺は幸せなんじゃないかなって思うんだ」



 遺跡で楽しそうに笑って遊ぶ魔族の子どもたち、それとエルフリッドでみた親のやっている農作業を頑張って手伝っている小さい子ども、両者の姿を思い出しながらフォルカは言葉を続ける。



「今を生きる子どもたちに、平穏に歩んでほしいんだ。戦場に出たり襲われたりして絶望を感じて散っていく姿なんて見たくないんだ。

 俺は……そんな平穏な世界を見たいんだ。

 今回でわかったんだ…甘さや躊躇いは、犠牲を増やしてしまうかもしれない……半端な覚悟じゃ、何も成し遂げることなんて出来ないんだなって。

 きっと今の世界は話し合いで解決するのは難しいし、今を生きてる大人には、その大人なりの信念ってのがあるんだと思う。でもそんな非凡な人生を強いるような想いは、もう見てられないんだ、間違ったやり方かもしれないけど……1発ぶん殴ってでも、実力行使になろうとも、俺は…平穏な世界を目指したいんだ」



 フォルカは右手を握りしめて前に突き出す。



「俺には『八罪呪源みんな』の力が無いと、何もできない人間なのかもしれないし、この感情が犠牲になった魔族たちを見せられて出来た怒りってのも分かってるけど…それでも俺はこの世の『非凡な人生を強いる者達』を……根絶したい。

 俺のやり方が平穏な世界に繋がるかなんて分からないけど、正しいやり方なんてずっと考えてるだけなんて意味が無いんだ。俺は…俺の思ったやり方で世界を変えていきたい。」



 ふぅ~と1息ついて、最後にフォルカは8体に向けて宣言するように声をあげる。



「俺のやりたいこと……それは『非凡な人生を強いる者達を根絶する』ことだ」



 

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