第18話 地獄よりの憤怒


 フォルカの宣言を受けて、『憤怒ラース』が口を開く。



『それが行き過ぎた想いであったとしても貫く覚悟はあるか?』


「あぁ……平穏な世界に向けて、この覚悟は一生貫いてみせるよ」


『その「平穏な世界を作りたい渇望」と「非凡な人生を強いる者達を根絶する」、宣言通り一生貫いてもらう』



 『憤怒ラース』が言うと、フォルカの右手が黒く光りだし、呪いの刻印が広がっていく、刻印は右腕全体とフォルカの背中の右半分にまで達したところで広がりをとめた。



「……なんか変わるのか?」


『今フォルカが決めた「平穏な世界を作りたい渇望」と「非凡な人生を強いる者達を根絶する」これらは今後制約ルールのようにフォルカを縛る。自らが定めた欲望ディザイアから逸れることは許されぬ……その制約ルールの縛りが重ければ重いほど、我ら『八罪呪源アマルティア・オクト』は真の力を発揮できる』


「『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』ってやつとは違うのか?」



 『憤怒ラスト』が返答しようとした時、我慢できなかったのか『嫉妬エンヴィー』が大きい声をだして介入してくる



『『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』とは違うんだよ! そもそも制約ルールを決めずに力を使ってたから罰として代償があったんだよ~』


「最初に教えといてくれないのかよ」


『教えちゃいけないルールなんだっ!』


「そうなのか……」



 俺が「平穏な世界を作りたい渇望」と「非凡な人生を強いる者達を根絶する」っていうのを目指すのを前提でさらにルールとして細かく条件を作らなくちゃいけないのか……雰囲気的に破ったら死ぬぐらいのリスクがあるってことっぽいし、そして『八罪呪源みんな』の真の力ってやつを使うには定めなきゃいけないってことなんだな。思いつく限り言っていくか。



「まず1つ目……俺が悪と定めた者は絶対に見逃さないこと」


『根がどんだけ良い人でも?』


「あぁ……傲慢かもしれないけど、どんな形であれ、その悪の心は俺が裁くよ」



 『嫉妬エンヴィー』がしっかり聞き返してくれるから考えながら言うことが出来る。他の連中を見ると、話す気はなく『嫉妬エンヴィー』に任せると言った感じで静観している。



「そうだな…これはルールになるか分からないけど、『八罪呪源みんな』以外の力はいらない」



 その言葉を口にすると、静観していた連中も、話をしてくれていた『嫉妬エンヴィー』も少し驚いたような雰囲気を出した。そんなヤバいことだったのか?



『ふふっ……私たち呪いの力以外はいらないって言うの? もっと凄いのに目覚めるかもしれないし、貰えるかもしれないんだよ?』


「この誓いは皆だけにするもんだと思ってるし……『八罪呪源みんな』が居てくれれば大丈夫」


『さっすがフォルカだね!』



 『八罪呪源みんな』に向けて8つの制約を作った。

①自身が悪と定めた者を見逃さず、裁くまで追い続ける。

②『八罪呪源アマルティア・オクト』以外の力の拒絶。

③「平穏な世界を作りたい渇望」を八罪以外に語ることが出来ない。

④種族を問わず、未来ある子どもたちのピンチは見過ごさない。

⑤種族問わず、差別や迫害、非常に目に合っている者に手を差し伸べる。

⑥どんなに強大な悪でも自らの手で裁く。

⑦平穏を目指す者を大事にする。

⑧「平穏な世界を作りたい渇望」と「非凡な人生を強いる者達を根絶する」に対して、自ら完全に逸れた時、即死する。



『すっごーい! いきなりこんなに厳しく定めるのなんて聞いたこと無いよ!』



 玉座の上で『嫉妬エンヴィー』がはしゃぎながら言う。相当面白おかしかったのか『強欲グリード』がギャハギャハと笑う声も聞こえる。

 そんなにやばかっただろうか? その雰囲気を正すように、今まで一言も発しなかった呪源が口を開いた。



『……これで真に我らの使い手になった』


「やっと……声が聞けたよ『傲慢プライド』」


『やりたいことと制約決めるまでは黙ってるって決めてたぽいからね! ん~『嫉妬あたし』・『傲慢プライド』・『憤怒ラース』とは、すっごく相性抜群で『色欲ラスト』・『強欲グリード』とはまぁまぁ良くて、『虚栄ヴァニタス』・『怠惰スロース』・『暴食グラトニー』とはイマイチだねぇ~』



 フォルカは内心相性なんてあったのかよって思ったりしたが、自分の欲望と渇望、制約の内容で相性があるんだろうなと察した。



『相性抜群で、フォルカの魔力量的に、あたしとなら今すぐにでも『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』できそうだけどね!』


「そういうもんなのか、まぁここにいる分には時間があまり経過してないんだろうからいいけど……速くあの黒いのを倒さないとな」


『そうだねぇー! では我らが真の使用者の新たな門出を祝いましょう!』



嫉妬エンヴィー』の一声が聞こえた瞬間、意識が遠のく感じと同時に、呪いの刻印が背中半分だったのが、背中全体になり、左腕全域にも広がっていくのを感じた。










 気付けばフォルカの観ていた景色は戻っていた。

 標的を見失って困惑していたのであろう黒い天使が、発見したという感じでプカプカと近づいてくる。

 時間が10分の1程度しか経過してないのも驚くし、呪いの刻印が広がった場所が少し痛いのも気になるんだよな。


 でも、改めて状況を振り返ると沸々と怒りがこみあげてくる。



「……狐面、見つけたら容赦しない」


『よい覚悟だ』



 後ろから声をかけられて振り向くと、今まで一度も使わせてくれなくて呼んだこともなかった『憤怒ラース』がそこにはいた。

 精神世界で玉座に座ってる状態で話したことは、さっきを含めてあったけど現実世界で話をするのは新鮮だけど……勝手に出てこれるの?



『私と『傲慢プライド』は少し特殊でな……それより、フォルカの欲望が『憤怒わたし』由来というのもあり、5分間だけ特別に『憤怒わたし』の『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』を使わせてやろう』


「それは制約を決めたとき限定のサービスみたいなものか?」


『そうだ、フォルカが決めた『欲望ディザイア』の元になった感情に合わせて、我らの中から1体がサービスしようとなっていてな』



 優しく微笑みながら真面目に説明をする『憤怒ラース』、フォルカのイメージとは全然違い印象で、『憤怒ラース』に対して失礼とは分かっていながらも困惑を隠しきれないフォルカ。



『私は怒りの罪だが、常々怒っているものではない。フォルカの『欲望ディザイア』が『憤怒わたし』由来と言うことは、フォルカは『憤怒わたし』との相性が良く、フォルカの抱く感情は『憤怒わたし』にとっては酷く心地よいのでな、それに我らに対してあそこまで制約を作り覚悟を見せたのだ、皆感心している」


「俺の思ってること全部バレちゃうんだな」


『フォルカの中に我らは存在しているからな。今頃『嫉妬エンヴィー』が私に対して怒り狂っているだろう』



 体の刻印から何か青黒い魔力が溢れだしそうで恐ろしいが、時間がないようだし、『憤怒ラース』を使ったこともないのに、いきなり『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』だなんて難易度が高そうなことをやるんだ、集中しないとな。



『『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』は簡単に言えば、それぞれ契約した呪源の本当の姿を解放することだ。普段使っている力とは別物だから、そこまで緊張することはない』



「……ありがとう、『憤怒ラース』」


『私の『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』は難しくない、さぁフォルカ、頭に浮かんだ言葉に魔力を乗せて唱えるだけだ』



 『憤怒ラース』がフォルカの肩に手を置いて、まるでリラックスさせるようにアドバイスをする。


 フォルカは魔力を練り上げ、頭に浮かんできた言葉を口にする。



呪罪真名トゥルース・シン 至高なる地獄の支配者サタン



 そう唱えた瞬間、俺の後ろに居て、肩に手を置いててくれた『憤怒ラース』から凄まじい魔力の放出と、辺りを覆いつくす威圧感を感じた。


 後ろを振り向けばとても上品に笑う『憤怒ラース』がいた。

 その姿は変わっていて、12枚の黒い羽根が体から少し離れた場所から生えていて、黒いドレスは鎧が少し追加されており、頭の上には真っ赤な魔力で出来た輪が回っており、懐かしむように自分の身体を確認していた。



「なるほど……『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』ってのはそういうことなんだな」


『ふむ……我らが背負う罪の形ではなく、本来の真名での状態のことだ』


「…だから難しくないって言ったのか」


『私の『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』は『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』と言って、フォルカが怒りを向けた者を私が地獄に落とすだけのことだからな』


「……それが本当の姿で本当の名前」


『そうだ…時間がないぞ?』



 そうだったと思い、黒いやろうに何かしてやろうと振り向いた時。

 すでに黒いやろうが斧を振り被って笑っていやがった。



ーーガキンッ



 振り下ろされた斧は気付いたら俺の正面にいた『憤怒サタン』の右手に掴まれていた。



『この程度の玩具で我らが怒りに対応しようなぞ…片腹痛い』



ーーパキッ



 『憤怒サタン』が掴んでいる斧に罅が入り始める。そんなに強く掴んでいるようになんて見えないのに。


 黒い奴は反対の斧を叩きつけようと振り上げている。


「ァァァ…ァァア」


『出来損ない如きが、塵になれ! 奈落天ならくてん黒縄地獄こくじょうじごく



ーーピタッ



 斧を振り下ろそうとしていた黒い天使は動きを完全に停める、燃えて動いているはずの魔力の火まで完全に動いていない。


 数秒後、黒い天使の身体に異変が起きる。


ーーパキッーパキッ!


 黒い天使の身体に罅が入り、サラサラっと粉のようになって少しずつ崩れていく。


 『憤怒サタン』が放った『奈落天ならくてん黒縄地獄こくじょうじごく』それはフォルカが怒りの感情を向けている対象を『憤怒サタン』が視認することで完全に動きを停止させる技。

 視認された対象は動きを停められた後に「動きたい」と想ってしまうと、対象の身体は砂鉄となり粉々になり消えていくっという地獄を味合わせる技である。

 この技は動かないと他の技で地獄をみせられ、動こうと思っても身体が粉々になってしまう食らえばそれで戦いが終わるレベルの技である。



傲慢プライド以外の連中が格が違うって言ってたのは、こういうことなのか)


『さぁ…時間が無いぞフォルカ』



 何故か羽が生えて飛べるようになっていたフォルカは、もう1体の黒い天使の気配を感じる場所へ急いで向かった。


 


 

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